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山へ・3

読んでいただいてありがとうございます。

誤字脱字の報告ありがとうございます。未熟者ですが、今後もよろしくお願いいたします。

クラスメイト達との約束は守った。スキルやパラメーターの移植は明日でもいいだろう。それよりも俺はラフラの事が気になっていた。あいつ、俺が居ないのをいいことに逃げ出したりしないだろうか。殺した相手を憎まないはずがない。リリアがいるし大丈夫だとは思うのだが。

 ヒロロの村の酒場。

 意外にもラフラは大人しく果実酒を飲んでいる。どうしたんだろうか。

予想と違って戸惑ってしまった。

何故ラフラが逃げようとしなかったのかは気になるがテーブルに座って話し合いだ。俺が口火を切る。

「じゃあ次何処に向かうかだけど」

「ちょっと待って!」

 悠香が慌てて制止する。

「私、ついていくとは言ってない」

 鶫が不服そうな顔をした。

「悠香って誰に助けてもらったのかもう忘れたの?」

 鶫に言われて悠香は気まずそうな顔をし、そっぽを向いた。

「助けてなんて頼んでない」

「そりゃ悪かったな」

 ちょっとショックだった。

「でもパーティーはシュンが来なかったら全滅してたね」

 ノジュが言った。

パーティーは壊滅目前だった。死んでても文句は言えない状態だったのだ。それがわからない悠香ではないだろう。

「私を助けてくれた事には感謝しているの。でも、くっついたとはいえ何で私の腕を斬り飛ばした女と一緒にパーティーを組まなきゃいけないの。そんなの願い下げよ。ノジュだって、セリナだって、グレイを殺されたんだよ? 悔しくないの?」

 グレイというのは死んだ戦士のうちのどっちかだ。ノジュは溜息をつくと宿の天井を見上げて椅子にもたれ掛かった。

「そりゃ、ね。あの時はもう死が目前にまで迫っているような感じだった。恐怖もあるよ。でもラフラだってシュンに10度も殺されているんだ。おあいこどころか、向こうが可哀そうに思えて仕方ないよ」

 チラッとラフラを見るノジュ。ラフラは肩をすくめた。

 悪かったな。俺だってこれくらいしなきゃラフラの心を折れないと思ったんだ。

「……わかった。だったら出てく」

 悠香が席を立った。

 同時に鶫がバン、と机を叩いて立ち上がる。

「待ちなさいよ。意地っ張り」

 俺が引きとめようとしたのに。でもナイス。

悠香が振り向く。

「……何? 何か言った?」

「意地っ張りって言ったのよ。ラフラのせいにして逃げたいだけなんでしょ。シュンから。言葉が悪いなら弱虫でいいわ。悠香、貴女って弱虫」

 悠香が無言で鶫を睨む。鶫は鶫で悠香をにらみ返した。

「言うわね。そんなに言うなら私と勝負してくれない?」

 悠香は自分の力に自信を持っている。ラフラに負けはしたが、それでも鶫よりは強い自信があるのだろう。

「いいわよ。ハンデ欲しい?」

 鶫が挑発した。おいおい、何なのこの展開。もっと平和にいかないのか。

「いらない」

 リリアはついていけずにオロオロし、ラフラは我関せずと手に持つレーバーを布で拭いていた。ノジュはやれやれと溜息を吐き、セリナは神に祈りを捧げていた。ミラは寝ていた。お前は寝るな。


 決闘の場所。ヒロロの村のすぐ傍に広がる草原だ。探査をしてみたところ、モンスターはいない。俺、リリア、ラフラ、ノジュ、セリナが立会い。ミラが審判ということで合意した。ミラは欠伸をかいているが、やる気あるのか?

「風が出てきたな」

 俺の独り言に反応したのはリリアだ。

「ご主人さまはどちらが有利だと思いますか?」

「リリアこそどう思う?」

 リリアは困った顔をした。ラフラが俺の隣までやってくる。目は合わせようとしないが。

「私は双剣の方と殺し合いをしたが、なかなかの剣士だ。ご主人様には及ばないが、それでも10回やったら2回くらいは私が負けていたかもしれない。相手の方もなかなかにやるようだが」

 隣のラフラが言った。ところでご主人様なんて言えたんですね。奴隷になれって言ったのは俺だけど予想外でびっくりした。

ラフラの分析をリリアが聞いて答えた。

「ラフラさんはハルカさんに一票ですね。ならわたしは鶫さんに一票いれます」

 俺はなんて言ったらいいか分からないので黙った。沈黙は金、雄弁は銀だ。

 悠香は二本の剣を抜いて、だらりと構えていた。

対する鶫も疾風の剣を抜いて下段に構えた。

「はじめ!」 

 ミラの声が響く。鶫は武器の扱いは素人。対して悠香は竹刀とはいえ刀を振ってきたのだ。慣れが違う。

 悠香が合図と同時に双剣で襲いかかる。死んだら俺が蘇生させると約束はしているが、本気で斬るつもりか。

 対する鶫は【炎の刃】を唱える。

 鶫の持つ疾風の剣が炎を纏う。

 悠香はそれに恐れた様子もなく初撃を放った。大上段から構えた一撃だ。遠慮する気はないらしい。鶫は右から振り下ろされた一撃を後ろに跳躍することで回避。

鶫は距離を取ると【大地の礫】で応酬する。地面の石や砂が巻き上がり視界が塞がれる。攻撃の為ではなく、防御の為に使ったのか。横に回り込もうとした悠香を鶫が剣で斬りつける。直撃してはいないが、剣が纏った炎と熱が悠香の肌を焼いたのか悠香が痛みに声をもらした。

 畳み掛けるように鶫が振りかぶった剣を一気に振り下ろす。鶫の筋力は俺と同じ。悠香の二倍以上ある。

 ひゅん、と悠香の左手に握った剣が唸る。円弧を描くように剣が動いたかと思うと、鶫の剣が弾かれてくるくると空中を舞っていた。だからそんな技どこで習ってくるんだ。

「握りが甘い」

 悠香が右手に握った剣を鶫の喉元に突き付けた。

「勝負あり」

 ミラが宣言した。同時に悠香が弾き飛ばした剣が落ちてきて地面にストン、と刺さった。

「何よ、口だけね。偉そうに」

 悠香はそう言って剣を下ろす。

「どう? 私は鶫より強い。これで納得したでしょ。私は……」

 鶫は大きく息を吐き出して緊張を解いた。

「わかった。悠香の勝ちだ。これで悠香とはお別れだな」

 そう言って俺は鶫に近寄って抱き寄せた。

 え?という顔をして不服そうに唇を尖らせる悠香。それから残りのメンバーが俺の傍に寄る。

「悠香の勝ちだ。そこまで嫌がるならしょうがない、じゃあな」

 面々を促して街へ戻る事にする。

「シュン……」

 悠香が言い淀んだ。

「あ……。待ってよ」

 振り返らず歩く。

「嫌! 待って。待ってよ。置いて行かないで」

 鎧越しに柔らかい衝撃を感じる。

「ごめんなさい。置いていかないで。一人は嫌。嫌なの。私も連れて行って」

 悠香が俺に鎧に顔を押し付けているのが分かる。

 どうしてこうなった。

 いや、いい方に転んだのは確かなんだが。

 この流れだと悠香とは別行動になる流れじゃなかったのか。

「……わかった」

 それだけ言うのが俺の精一杯だ。

 少々混乱しているが、結果オーライだ。

 横に居る鶫がやれやれ、としたり顔で溜息を吐いたが気にしないでおこう。


 酒場に戻る。さっきの一幕は何だったのかという感じだ。メンバーでテーブルを囲む。ちょっと目が赤い悠香とにやにやしている鶫が俺の両隣。それからほわほわと微笑んでいるリリアが鶫の横。

 ノジュとミラは別テーブルで賠償額の検討をしている最中だ。ラフラは時折果実酒を口に含みながら我関せずとレーバーを磨いている。

「なあ。さっきから黙ってないで何か話してくれ」

 沈黙に耐えられず、俺は口火を切った。議題はパーティーの今後について。案件は処理していかないといずれにっちもさっちもいかなくなるからな。

「素直じゃない誰かさんの腹積もりも決まった事だし、パーティー編成の問題は解決したでしょ」

鶫が言った。横の悠香が唇をかんだ。

「残りはひとまず峠のゴブリン狩りですね。ご主人さまが決行日を決めてくれれば残る問題はありません」

 リリアが付け加える。

「そっか。じゃあパーティーの強化でもして今日は寝るか」

「強化?」

 ラフラがぴくりと反応する。

「ご主人様。それは一体どういう意味だ?」

 レーバーを磨くのを止めたラフラが会話に参加する。

「どういう意味ってそのままの意味だが」

「それは魔眼と関係あるのか?」

 やけに食いつくな。

 そう言えば魔眼にコンプレックスがあるのだったか。ラフラの信頼を得るのに、魔眼の複製は使えるかもしれない。しかし、ラフラが俺を裏切るかもという不安がある。

「ラフラがいい子にしていたらそれもありだな」

 ラフラが呆然とした顔で俺を凝視する。

「……信じられないが、ツグミとご主人様は確かに魔眼を使っている」

 横からつんつんと突かれたので横を見ると悠香がこっちを見ている。

「魔眼?」

「ああ。目に不思議な力を持たせる事が出来るんだ。例えば……」

 俺は火炎の魔眼に切り替えて白菜に似た野菜の一切れを凝視して、燃やしてみせる。

「ご主人さま! 食べ物を粗末にしちゃダメですよ!」

 リリアに怒られた。ごめんなさい。

「ご主人様は幾つも魔眼を持っているのだな。しかし、魔眼は先天性のスキルだからいくら努力しても身につけられないと聞くが」

 ラフラが俺を羨望の眼差しで見ている。 

「なるほど。それを鶫も?」

 鶫はばれた?という顔をして悠香を見た。手を抜いたわね、悠香が鶫を睨んだ。

「ラフラ、いい子にしていたら。だぞ」

ラフラはコクンと頷いてレーバーを磨く作業に戻る。

「今日はゴブリン討伐という気分じゃないし、明日にしよう。それから強化だな。ラフラは俺の部屋に来い」

「いえ、ラフラさんの前に私を強化して欲しい」

 ミラは聞き耳を立てていたらしく俺の傍に寄ってきた。

 それに反応したのはラフラだ。

「お前は呼ばれていないだろう」

「いえ、ご主人様の夜伽を務めるのはわたしが」

 リリアが対抗した。

 鶫は無言だが、足でつんつんと合図を送ってチラッと視線を送った。

 宿屋に戻って早々ミラとラフラをベッドに連れ込んだ。リリアと鶫も一緒だ。

 うーん、五人も同じベッドとなると少々手狭な感じがするな。もっと広いベッドがある所へ移動した方がいいのかもしれない。

 悠香とノジュは別部屋だ。パーティーメンバーを失った日にベッドインは俺でも不謹慎だと思ったので誘わなかった。


 明朝。

 そんな感じでまたしてもベッドを赤く染めてしまった。

 ラフラは意外にも処女だった。姫だという話だったしな。

 ミラとラフラの二回で精根尽き果てた俺は、リリアと鶫を愛でる事が出来なかった。どうやって改善をしていくか、今後考えなくてはいけないな。精力増強のアイテムを探してもいいかもしれない。スッポンとかマムシがいいと成人向け雑誌の裏の広告に載っていた気がするが、この世界にも似たようなものがあるかもしれない。

 出来るだけ早く探しておく事にしよう。

 ラフラには火炎の魔眼をコピーすることに成功した。ラフラのステータスが運、運命、意志以外の項目で俺の数値を上回っていたのでコピーする。


 俊

 レベル14

 職業:狩人

 生命411 魔力176 筋力233 体力289 耐久211 敏捷166 知力173 器用さ225 運103 意志119 運命100


 ミラの敏捷を強化する。【炎の刃】も魔法欄に加えておいた。

「なるほど、ご主人様に従うことはメリットが多いな」

「メリットが無くなったら裏切るつもりか」

「そうではない。そもそも王族たる私が処女を捧げたのだ。捨てられるまではご主人様に従うつもりさ」

「ところで、ラフラ。俺が何度もお前を殺した事、怒っていないのか? というか殺したくならないのか?」

「死ぬのは嫌だ。だから腹は立っている。でも、それ以上にご主人様の発想のすごさに感心しているのだ。誰も使わないような魔法とスキルの組み合わせで私の行動を奪う。今までそんな戦い方をしてきた戦士にあったことはない。……そうだな。戦士としてご主人様を尊敬しているのは勿論、そもそも繰り返しになるが、処女を捧げた相手と添い遂げるのが乙女の本懐というものではないのか」

 ラフラの事を信頼してもいいのかな。

添い遂げるとか言ってくれるし。

こっちはいろいろなスキルと魔法の連携を試しただけなのだが、逆にそれがラフラにとって好感触だったということか。

何が幸いするかわかったもんじゃないな。

「仮にも一国の姫の純潔を奪ったのだからな。忘れてくれるなよ」

 それを聞いて、婚前交渉が死亡フラグにならないように祈る俺だった。


 リリア、鶫、悠香、ミラ、ラフラ、ノジュ。俺を加えて計7名が俺のパーティー『アナザー・クラス』だ。

 まあミラは王国の兵士だからパーティーと呼んでいいのかどうかわからないが。

 ラフラとノジュのステータスをチェックする。

 ラフラはスキルや魔法の数が少ない。

 代わりにノジュは魔法の種類は沢山あるが、他に目立つ所はない。

 ノジュの魔法からとりあえず3つコピーさせてもらう。

 稲妻の刃

 氷結の刃

 鎌鼬 

 稲妻の刃、氷結の刃は炎の刃の別属性バージョン。

 鎌鼬は真空を発生させて裂傷を生じさせる現象の事だ。それを魔法で起こす感じになる。

 他の魔法は必要になったらコピーさせてもらう感じでいいだろう。

 


 ゴブリン討伐。

 飛行の魔法で行ってもいいが、ラフラとミラと悠香は持っていないし、折角だから馬車で行こう。

 馬車に揺られること4時間。昼の時間帯だ。

 道の両脇には深い森が続く。

 探査で常に警戒しながら道を進んでいくと、赤い点が徐々に集積していく。ゴブリン。討伐の依頼を受けていた獲物だ。

 馬車の全員に警戒を促すと、ノジュが先制攻撃を仕掛ける。

 馬車を飛び降りて唱えたのは【火炎の波】。

 炎属性の魔法で周囲を焼き払う大技だ。

 大技らしく唱えるのに時間が掛かるし使った後にしばらく魔法が使えなくなる欠陥だらけの技だが、雑魚敵相手に使う分なら効果は抜群らしい。

 汚い叫び声が辺りに響く。

 馬車の両脇の森を同時に焼き払うと、炎を免れたゴブリンがわらわらと何十も現れる。

 手には剣を持つ前衛と、弓を持つ後衛がいるようだ。

 リリアは弓矢で後衛のゴブリンを仕留めていく。ミラ、悠香、ラフラでゴブリンを血祭りに上げていく。

 鶫と俺はリリアとノジュを守る役目だ。

 盾と魔眼、魔法を駆使して矢を払い、燃やし、斬りかかるゴブリンを斬り捨てる。

 20分もすると、ゴブリンの群れは一匹残らず駆逐された。

「多かったな」

「いや、まだいるみたいだ」

 馬車の管理をリリアと鶫に任せ、残りの俺、悠香、ラフラ、ミラ、ノジュで巣穴を滅ぼしに行く。

 探査の結果、ゴブリンの存在位置は丸裸にされる。

 俺は退緑の魔眼、ノジュは退緑の魔法で邪魔な草木をどかしながら巣穴を一つ見つけては殲滅する。

 8つ目の巣穴を焼き払い決着とする。

 探査をしても引っかかるのはパーティーのメンバーだけだ。

「そういうえば」

 ノジュが懐から金色の指輪を取りだした。指輪には青い色をした石が乗せられている。

 ゴブリン達が溜めこんでいた財宝だ。

 そういうアイテムは分担して持っている。魔物や盗賊が持っていた荷物は倒した冒険者が自由に処分して良い事になっている。

「この指輪。どこかで見た事あるんだけど」

「ああ。指輪は知らないが、指輪の台座に乗っている石なら知っているぞ。蒼石だ」

 ラフラが説明をする。

「蒼石は持ち主の魔力を強化すると言われている。ゴブリンには過ぎたオモチャだ」

 検査すると、


 蒼石の指輪:

 付与効果:魔力小上昇


 と出る。魔法使いであるノジュにはぴったりだろう。

 パーティーのアイテムだし、分配しても問題はない。 

 しかし、ノジュには既に契約の代金を前払いしているわけで。

「まあ当然それはご主人様の持ち物なわけだからな。あまり不埒な事は考えない方がいい」

 ノジュはしぶしぶそれを懐に戻した。

「いいよ。使った方がいい。俺はなくても問題ないし。それも契約の対価に加えておこう」

 ノジュは感心したような顔で俺の肩をばんばん叩いた。

「気前がいいね! 私はそういう奴好きさ!」

 いや、単純にノジュが持っていた方がいいという判断だったんだが。

 そんな風に雑談しながら馬車に戻る。

 馬車の中で戦利品の確認だ。

 ゴブリン・ソードが山ほど。

 蒼石の指輪。

 それから金銀の細工。

 それから5000プライム程のお金。

 ミラは153体のゴブリンを討伐と記録したし、早くチレットの街へ戻ろう。

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