山へ・2
読んで下さってありがとうございます。
名前間違えていたので訂正しました^^; すみません。
●飛行
クラスメイト全員がタタールの村からチレットの街へ行く事を望んだ。明日クラスメイト達をチレットの街へ転移させる。チレットの街にはギルドがある。冒険者ギルドで金を稼ぎ、モンスターを狩り、装備を整えるべきだ。俺の提案は受け入れられた。チーム編成は自由にした。
気に入らないメンバーと組んだところで上手くいくはずがないからな。
始める前に、言語のスキルを皆にコピーしておく必要がある。
クラスメイトの衆人環視の中、俺は鶫に何度もキスをする。見せつける為ではない。言語のスキルをコピーするには必要だからだ。
鶫は終始恥ずかしそうにしていた。
これで鶫に手を出す奴はいないだろう。
終わったら俺は鶫に人気のないところに連れていかれてグーで殴られた。
情事の誘いかと思ったのに。 愛が痛い。
クラスメイト全員に言語のスキルと、今日の宿泊分の代金と、夕飯代を渡す。
悠香と決めたパーティー名『アナザー・クラス』。
なのに悠香だけが、ここにいない。
俺と鶫はヒロロの村へ転移。宿へと帰るのであった。
翌朝。鶫とリリアの両手に花状態で目覚める。素っ裸なのはいろいろあったからなのだろう。スースーと眠っている二人を起こさないように昨夜の出来事を反芻する。
宿に帰った後はお決まりのステータス調整だ。昨日は基礎視力、基礎聴力、基礎嗅覚、基礎腕力、基礎脚力をひたすら上昇させ、パラメーターが限界まで低くなる度にコピーアンドキスで修復した。
俺の持っている魔法はリリアと鶫に全部コピーしておく。
魔眼がコピー出来るかどうかも試したが、リリアに新緑の魔眼と退緑の魔眼、鶫に火炎の魔眼と氷結の魔眼がコピー出来ただけだ。他の魔眼は不可能だった。
魔眼には適性か何かの条件があるのだろうか?
とは言っても、一つもコピー出来ないわけではないようだし、普通は魔眼なんて持たないからな。少なくとも今まで過ごした村や街で魔眼を持っていた人はいない。だから持っているだけで十分だともいえる。
ところで俺はレベル10になったと同時に、精密検査のスキルを覚えている。
精密検査のスキルは、今まで検査で表示されていた項目の他に、いろいろな限界値が表示されるようになる検査の強化版だ。
例えばスキル所持限界。常在スキル装備限界。レベル限界。パラメーターの限界。スキル熟練度。ジョブ熟練度。性別、名前、年齢、既得職業、所持アイテム、装備アイテムなどが検査で出てくる画面に加わった表示だ。
無駄に項目が多いので、軽くチェックしたいときは検査、詳細まで調べたいときには精密検査という感じで使い分ける必要がありそうだ。
精密検査を試してレベルやスキル等の情報を新たに獲得した。
カーソルを合わせてスキル熟練度の追加説明を見る。
熟練度を上げると無駄がなくなり、コストが低下する。更に突き詰めると新スキルを獲得出来る場合があるようだ。ジョブの熟練度は違うジョブに就く為の条件だったり、新スキルを獲得出来たりといろいろだ。
今の所では熟練度を気にしなければならないほど冒険に支障は出てきていないので、気にしなくてもいい程度だろう。
リリアと鶫の常在スキル装備限界を確認する。それぞれ5/5と表示される。
リリアと鶫の限界は5つだ。
ちなみに俺は8を横にした文字だ。
無限大。
スキルに100ポイントを振ったお陰か。
そんなことを考えていると鶫が起きた。目が合うと、ニコッと笑顔を浮かべてくれる。鶫をつい抱きしめた。
探査で悠香を探す。宿の主人の話では宿は同じなので、今日ここで会えるだろう。昨日はタタールの村から帰って待ちかまえていたのだが、ついに帰ってこなかった。今、どこにいるのだろう。
ヒロロの村の周囲にはいないようだ。
宿の主人に昨日黒髪の女が宿に戻ってきたかと聞くと、昨日は帰らなかったと教えられた。
心臓がどくん、と跳ねた。
幾らなんでもおかしい。
千里眼で悠香を探す。昨日もう少し悠香に注意を向けておくべきだった。
山の中で悠香の姿を確認する。二刀流の黒髪の女の子。間違いなく悠香だ。必死な形相で周囲のモンスターと戦っている。黒い狼。未来視に現れた獣だ。周囲には戦っている男の戦士が一人と魔法使いが一人。僧侶風の女はひどく手傷を負っている。男の戦士がもう一人いたはずだが、見当たらない。代わりに、奴がいた。
黒い鎧、黒い大剣、黒い狼、そして灰色の髪に赤い瞳。魔物の後ろに控えている。腕を組んで木に寄りかかっているところを見ると、モンスターをけしかけてパーティーを消耗させてから戦うつもりなのだろう。
名前は知らないが未来視で見たことがある。
悠香を殺したあいつだ。
いますぐ悠香のところに向かわないと。
しかし馬車で行って間に合うのだろうか?
俺の魔法・スキルを確認する。
転移では無理だ。
転移は行った事のある場所しか移動できない。
なら飛行の魔法はどうか。
速度がどの程度あるのかわからないが、試す価値はあるかもしれない。リリアと鶫も持っているし、三人で行けばなんとかなるかもしれない。
すぐに事情を鶫、リリア、ミラに話す。ミラは居残りだ。ステータスがまだ整っていない以上、連れて行かない方がいいとの判断だ。
宿屋の外に出ると、【飛行】を唱える。体がふわっと軽くなり三メートル程浮かぶ。リリアと鶫も【飛行】と唱えた。
行きたい方向、速度、高度の全てを調整出来るようだ。空中で静止する事も出来る。飛行の魔法の消費MPは、最初は1だ。しかし経過時間に比例してMPが減少していく。
スピードは出るようなので、戦闘している区域に急ぐ。西の方で狩りをしていたという話だから、そっちの方を探してみる。
森を上空から駆け抜ける。
山肌が見えてきた。
探査をすると、もう少し北西だ。
先を急ぐ。
近くのはずだ。
どこだ。
どこだ。
気ばかりが焦っている俺の傍に寄った鶫が深呼吸した方がいいよ、と助言したので従った。
落ち着いて探査の範囲を調べる。
すぐ近くだった。
危うく見落とすところだった。
リリアと鶫を見る。
「いくぞ」
三人で滑空する。
見えた。
辺りの色が血で染められて、そこだけ紅くなっていた。魔物は全滅だ。50体そこそこの死骸が散らばっている。熊のような魔物。
戦士は二人とも首が刎ねられていた。悠香が後衛の魔法使いと僧侶を庇うように立つ。しかし相手は狼と黒い剣士だ。魔法使いも僧侶も手負い。全滅寸前の状況だ。
俺は悠香を殺させない。
剣士が悠香の左手の剣を弾き飛ばし、悠香の右腕を切り落とした。
悠香が膝を突く。
っ!
てめえっっっっ!!!
剣士が悠香の命を立とうと剣を振りかぶると同時。
【豪雷っっっっ!!!!!】
俺は魔法を解き放っていた。
構えた剣が避雷針となり、騎士に直撃する。
ぶすぶすと煙を放ちながら、苛立ちの表情を浮かべた剣士が上空にいる俺の方を向いた。行動を止めることは出来た。
悠香はその隙をついて離脱出来たようだ。剣士と距離を取った悠香と剣士の間に着地する。
「……シュン」
「よう。手ひどくやられてるじゃないか。助太刀させてもらうぜ」
背中に庇う悠香に軽口をたたく。
疾風の剣を構えた。
頭がぐつぐつと煮えるような怒りが湧き上がる。
「俺が相手だ」
喜色を浮かべる剣士。探査では名前がラフラと表示されているから、剣士の名前はラフラなのだろう。
「お前に、私の相手が務まるのか?」
ラフラが上段に剣を構えた。
じゃり、と一歩間合いを詰められる。
大木すら両断しそうな風切り音と共に振り下ろされる剣をスウェーで避ける。基礎視力を上げておいたお陰で普通に見切れる。
避けると同時に【大地の礫】を唱える。地面の土砂や石が散弾となって剣士に降り注ぐ。
ラフラは小石の弾をものともせずに突進して大剣で突いてきた。
暴風の魔眼開眼。
【大地の礫】と暴風の魔眼で土砂が巻き上げられて眼潰し代わりになり、剣は空を切った。
再度跳躍した俺はやや距離を取って剣を構え直した。
今のでわかった。剣では不利だ。
上空のリリアと鶫に、
「狼は任せた!」
と剣士から目を離さずに叫んだ。鶫とリリアの二人で狼の動きを止めてもらう。狼には凍結の魔眼が有効だ。デスウルフとの戦闘経験があって良かった。
「私に任せて!」
鶫が凍結の魔眼で狼の足を凍らせる。凍った所にリリアが弓を構えて狼を射抜く。動きが鈍った狼に鋭く鶫が一撃を入れて離脱する。
痛みに唸る狼。狼が吠えると周囲に炎が出現し、氷を溶かした。
「ふん、魔眼持ちか。私達魔族でもないのに」
感心したようにぱちぱちと拍手をするラフラ。
「そういうお前は魔族か」
ラフラがニヤリと笑う。正解のようだ。
「こっちも本腰を入れて遊んでやるか、まずはお前だ」
俺に剣先を向け、余裕の表情を浮かべるラフラ。
検査。まず必要な情報は相手のパラメーターとスキルと魔法。パラメーターはほとんど俺以上。見た事のないスキルがあるが、スキル数自体は少ない。魔法も少ない。
しかし戦闘経験は相手の方が当然上だろう。
そこに見た事のないスキルが加わるのか。魔剣技・吸魔剣や魔剣技・吸生剣。魔法なら暗黒の槍、暗き憤怒、闇の渇望という感じだ。
油断は禁物だ。
魔法はどんな効果なのかわからないが、二つの魔剣技は想像がつく。HP吸収とMP吸収だろう。
まともに戦ったら確かに勝てないだろう。
だったらまともに戦わない。
相手の土俵で戦うつもりはない。
吸魔剣は便利なのでコピーして即装備。
ラフラが再び上段に構える。まともに打ち合えば命がない。しかしどんなパラメーターやスキルがあっても俺には抹消という奥義がある。余計な苦痛も余計な心配もない。
だが抹消はなしだ。
こいつは悠香の右腕を切り落とした。
絶対に俺の手で復讐しなければ気が済まない。抹消を使わずに、こいつを殺す。
「お前はただ一つ間違いを犯した」
ラフラは笑った。
「聞こうか」
「俺の女を切った」
俺は目蓋を閉じて。
封印の魔眼と硬直の魔眼。
開眼。
「な、……」
硬直の魔眼に見つめられ、二の句が継げなくなる剣士。
「だから、死ねよ」
何も出来なくなる剣士。硬直の魔眼で奪える時間は3秒程度。
だがそれで十分。
一息で彼我の間にある3メートルの間合いを詰める。
ここまで2秒。
勢いを乗せて疾風の剣を振るう。
狙うは鎧の隙間。右膝の上あたりを切断。地面に倒れるラフラ。
3秒。
ジャストだ。
硬直の魔眼には待機時間がある。後30秒は使えないが、もう起死回生の策はないはずだ。硬直の魔眼を氷結の魔眼にスイッチする。氷結の魔眼で剣士の体を凍らせる。吸魔剣でMPを吸収し、MPが全快したので吸生剣と暗黒の槍もコピーする。倒れて大剣を落とす剣士。
検査をすると残りのHPは119。転移のスキルを持っているようだが、そもそも他のスキルも含めて封印の魔眼と凍結の魔眼で抑え付けられて何もできない。スキルは根こそぎ頂く事にしよう。ラフラの右腕を切り落とす。赤い鮮血が吹き出す。ラフラが絶叫した。HPが24まで減少。俺のMPが全快したので、闇の渇望と暗き憤怒もコピーする。これで転移のコストを支払えないし、完全にまな板の鯉だ。
向こうで狼のキャイン、という悲鳴が聞こえた。鶫の剣が狼の心臓を捉えたようだ。なら、こっちも手仕舞いにしよう。
「これで詰み、だ」
剣士の胸に最後の一撃を振り下ろした。
悠香達三人はなんとか生き残った。戦士達二人については駆けつけるのが間に合わなかった。蘇生が出来ない。俺がもう少し早く来ていれば……。
僧侶は生き残った事を感謝し、神に祈りをささげた。
魔法使いは命からがら、といった感じだ。大の字で倒れている。
ところで肝心の悠香は右腕を抱えて途方に暮れていた。生き残ったはいいが、片腕がない。
「よう」
悠香は顔面蒼白で答えない。何しろ腕から今も出血している最中だ。僧侶が【癒しの風】で治療を試みているが、芳しくないようだ。 悠香にしても痛みと出血で答える余裕がないのだろう。
「腕、貸してみな」
動こうとしない悠香から強引に腕を奪い取った。
ぁ、と小さな声を悠香が洩らした。
ギルドの事を思い出す。融合は戦闘で役に立たない。なのに、幾つものパーティーから俺は引く手数多だった。
その理由は教えてもらってある。何故なら、俺は高位の僧侶と同じ事が出来るからだ。
悠香の右腕の切断面をくっつけて、融合と念じる。
すると、思った通りに復元出来た。融合は切り傷全般に対して治癒効果を発揮する。その代わり俺のHPが減ってしまうが。
「腕、動くか」
ぼんやりした悠香はようやく気付いたようで、ぴくり、と右指を動かした。
それからゆっくりと腕を持ちあげる。融合は成功だ。
「……なんなの」
悠香がぽつりと言った。
「何が?」
「不自然よ。私の後をつけてきたの?」
「いや、たまたまだよ。たまたま。この近くで狩りの依頼を受けたから」
「そう。私は都合のいい偶然に救われたってことね。で、なんでそんなに強くなったの?」
ここでお前を守るためさ。と言えたらきっとかっこいいはずだ。
「お、お、お、お」
『お』しか言えてねええええええええええええ!
落ち着け俺。深呼吸。深呼吸。
さん、はい。
「ぅお、お前を、守る為さ」
どもってしまった。口がうまく回らない。こんなセリフがサラっと言えるイケメンはすげえな。
「……馬鹿じゃないの」
悠香は目を逸らした。
「私を助ける為に、こんなところまで追いかけて、黒い剣士は仕留めて、私の腕は治療して。私、シュンにどんな顔をすればいいのよ」
悠香は頭の回転が速い。
「私はちょっと双剣が使えるからって粋がっちゃってさ。馬鹿だね。こっちの世界では遊びでもスポーツでもないってこと、頭でわかってても、理解出来てなかった。もう少しで殺されるところだった」
悠香が項垂れる。オオムカデとの乱戦を思い出す。あの無双はすごかった。もっと自信を持ってもいいはずだ。
「今そこに転がっているアイツは、悠香より強かった。でも悠香はこれからも強くなる。間違いなく」
俺はそう言い切って、そっぽを向いている鶫と心配そうに見ているリリアの傍に行った。
「二人とも、ありがとう。悠香をどうにか助けることが出来た」
「別に。だって、クラスメイトだったんだし」
鶫は照れくさそうに答える。
「ご主人さまがなさりたいことが出来ればそれで満足です」
リリアはこれだよ。本当にかわいいんだから、この子。
黒い剣士ラフラを殺した事で情報が引き出せないのは残念だ。目的を聞き出すのを失念していた。蘇生して白状させてもいいが、余計なリスクは負わない方がいいか。
ラフラの装備品、戦士二人の装備品を回収する。
漆黒の剣、レーバー:
攻撃力100 防御力10
能力:闇隠れ
なんだこの剣、防御力が上がっている!? 闇隠れを調べてみると、暗い所でこの剣を振るうとき、刀身が見えなくなるスキルなんだそうだ。
これはこのまま使わせてもらってもいいかな。
闇の鎧:
防御力90
能力:闇魔法耐性
こっちは分かりやすいな。
頑強の指輪:
防御力10
能力:耐久微上昇
結構よさそうな指輪だ。戦士二人の防具は僧侶と魔法使いにやってもらう。たいした品を身に着けていたわけではないようだし、彼女達が持っていけばいいだろう。
それから魔法使いの【火葬】で二人の遺体を焼却した。冥福を祈ろう。
ラフラの遺体は俺がもらった。
鎧を剥がしてみたら、引き締まった肉体に盛り上がった二つのふくらみ。実は女でした。男だと思ってたぜ。
方針を急遽変更!
手足を融合する。
強いし蘇生して俺のハーレムに入れよう!
殺してからそろそろ十分制限を迎えそうだから生き返らせる。
リリアも鶫も僧侶も魔法使いも、そして勿論悠香も何が起こったかわからない顔をしている。そりゃそうだ。普通そうなるよね。
「何が起こったというのだ……」
蘇生するとラフラがHP5の状態で生き返る。転移も魔法も使えないから帰れない。
「お前、俺に負けたんだから俺の奴隷な」
この場にいる全員が俺の行動を理解出来なかったのは言うまでもないか。
●ラフラ
「ふ、ふざけるなああああっ!!!!」
ラフラが怒鳴った。腕や足を切り落としてあまつさえ命を奪った男性からいきなり奴隷になれと言われたら、まあ普通の反応だ。俺だって怒る。
「だったらもう一度死ぬか?」
だけど俺は引かない。こういうのは最初が肝心だ。俺はレーバーを構えた。
黙るラフラ。
「奴隷になるか、もう一度死ぬか。好きな方を選べ。次はなしだ」
どう見ても完全にヤクザのセリフだ。後ろから刺さる視線が痛い。
わかるぜ、二人を殺した張本人で、悠香の腕を切り落としやがったからな。生き返らせたのが気に入らないのだろう。
キッと俺を睨むラフラ。
「……わかった。お前の奴隷になるからその剣を返してくれ」
「断る」
剣を返したら吸生剣で適当な相手を切って転移でそのままトンズラだ。
いや、あえてそれをさせてみるのもいいかな。
「いや、奴隷になるんだったらいいかな?」
レーバーを大地に突き刺して3メートルほど距離を取る。
ラフラはその剣を手にとって俺に切りかかる。
行動が読めているならこちらの行動は単純だ。
ラフラが剣を取ってこちらに踏み込むと同時に【永久の闇】を唱える。
俺の周囲、半径100メートル程が暗闇に包まれる。ラフラは暗視がないが、俺には暗視がある。暗闇の中でもはっきりラフラが見える。【凍土】を唱えて足元を凍りつかせる。
脚が動かせずに闇雲に剣を振りまわすラフラ。
「くっ、卑怯だぞ! 私と斬り合え!」
こうなるとただのカモだな。
「いい加減負けを認めろ。お前を無力化する手段は一つじゃないんだ」
【豪雷】の魔法を唱える。落雷で蘇生で回復したHPが再びゼロになる。死亡したラフラはばたん、と倒れた。剣を奪って再び蘇生する。
「お前、俺に負けたんだから俺の奴隷な」
さて。後は根競べだ。
10回。ラフラを殺した回数だ。ループのしすぎで俺もどうにかなりそうだった。流石にこれだけ死を体験したせいか、最初にあった頃の気迫と怒りは鳴りを潜めた。残ったのは恐怖と怯えだ。
「ど、奴隷になるからもうやめて。私を殺さないで」
最後にはわんわんと泣き崩れるラフラ。泣き顔の女を切る趣味はない。
「最低」
悠香に最低と言われるのは二度目だ。確かに俺も最低な事をしていると思う。人を殺した感触で今にも吐きそうだ。
「じゃあ奴隷になる事を認めたラフラに質問だ。お前は何者で何故お前がここに居て、何故お前が悠香達を狙ったのか。最初から話してもらおう」
嫌とは言わせない。その為に奴隷になる事を認めさせた。勿論それ以上の事を要求するつもりだが、それを口にしたら今度こそ悠香がキレそうなのでやめておく。
さて、素直に口を割るか見物だ。
「……私は、魔族だ。バジャル王家の三女バジャル=アリア=ラフラ」
どうやら探査で引っかかった名前と相違ないようだ。
「バジャル王家と言ったら魔族の中でも名門中の名門。その三姉妹と言ったらチート紛いのお姫様じゃないか」
魔法使いが口を挟む。
「私は姉さま達より魔法の腕に疎くてね。魔眼すら持って生まれなかった。見返してやろうと剣の腕ばかり磨いていたらこうなった。だというのに結局魔眼と魔法にいいようにやられてしまった」
体育座りで落ち込むラフラ。
背中に悲しみが満ちているぜ。
「というわけで、私は実家を出奔中の身だ。腕試しに辻斬りをしていたのだが。そこのパーティーを狙った事は偶然だ」
なんだ、悠香を狙う悪の組織とかじゃなかったのか。それなら安心だな。
「なるほど。大体事情は掴めた。ひとまずこの場にいても仕方ないしこの場を去ろうか。そっちのパーティーはどうする?」
残り三人のパーティー。元はシルバー・ベアーを狩る為にここにいたはずだ。辺りを見れば確かに熊らしき魔物も狩っている。
「今回は大失敗さ。王国の警備兵も死んじまったし、うちらのパーティーのリーダーも死んだ。いくら狩っても王国兵が死んだ以上はパーティーの失敗さ」
自嘲気味に話す魔法使い。
「でも、命があっただけ運が有った方さ。あんたが気にすることじゃない」
それから魔法使いは俺の傍に寄って、
「あんた、私を買わないか? 若さは気になるけど、圧倒的な戦闘力とユニークなスキル。面白い」
そういって頬にキスされた。上気した頬の魔法使いは同じパーティーの僧侶にも声をかけた。
「セリナはどうする? リーダーは死んじゃったし、パーティーはひとまず解散することになるけど」
「わたくしは遠慮しておきます。一言でいうと彼は人間の屑です。教会でも働き口はあるでしょう」
「そっか。じゃ、私を買ってくれ。私はノジュ。いい働きをしてみせるよ」
ウインクする魔法使いノジュと。溜息を吐く僧侶セリナと。困惑する悠香と。我関せずの表情の鶫と。にこにこしているリリアと。悲しみを背負ったラフラを連れて俺はヒロロの村へ戻った。
●パーティー再編成
さて。ミラを加えて会議だ。さっきまでの顛末を話すとミラは目を白黒させた。
現在の俺のパーティーはリーダーが俺。奴隷のリリア。それから鶫。今回はミラも仲間ということで換算しておく。一応俺のハーレム要員だしな。
それから新しい奴隷のラフラ。裏切る可能性もあるが。こっちはひとまず放置。ハーレム要員だから、今後は丁寧に扱う予定だ。
僧侶のセリナ。彼女は教会に戻るつもりらしい。
魔法使いのノジュ。彼女は俺に買って欲しいらしい。買って欲しいといえば武器屋で誰かに声をかけられていたな。名前はなんだったか。
それから。今回の依頼の本当の目的。悠香。
悠香は机の上の山羊の乳をちびちびと飲んでいて、さっきから一言も話さない。俺をちらちら見て、目が合うとハッと顔を背ける。
え、俺何かした?
「ということで、今後のパーティーはこんな感じでお願い」
俺がぼーっとしている間仕切っていたのは鶫だ。コミュ障じゃないのかよ。
「どんな感じになったんだ」
「しっかりしてよ。オガはリーダーなんだから」
鶫に呆れられた。
「オガと私は中衛。後衛はリリアとノジュ。前衛が悠香とラフラ、それにミラもっていう話をしていたんですけどね。どうなんですかね」
鶫はやれやれ、といいながら俺の頬を抓った。痛い。
「それで問題ないと思う。俺も鶫もまだ使う武器すら決め切ってない状況だし。ラフラはとりあえずレーバー、悠香は双剣で前衛。弓と魔法のリリア、魔法専門のノジュは後衛。ミラは一応戦士なんだから前衛」
あれ、話を聞いていたの?という顔を鶫がした。あれですよ。ロールプレイングゲームに注ぎ込んできた情熱が違うんですよ。これくらいはね。
「さて。ノジュ達のパーティーの依頼は兵士死亡で失敗ということだけど、何かペナルティーあるのか?」
ミラが答える。
「兵の等級によって王国軍への賠償額が決まるので、ノジュ達についていったザスは30000プライムだろうな。遺族や軍への補償に使われる」
うわ、それは膨大な額だな。といっても有毒のスキル石三つ分か。そう考えるとあんまりたいしたことないのか? かなり金銭感覚が麻痺してきたかもしれない。
あちゃー、という顔をしてノジュがぺちん、と額を叩いた。彼女の赤く長い髪が揺れた。
「そうなんだよねー。そこが討伐依頼の痛いところ。借金しなきゃ払えない額よ。パーティーが潰れたところのメンバーは基本的に避けられるからね。おたくのパーティーで拾ってくれないと私達多分行き場がないの」
チラッとこっちを見るノジュ。うーん。そう言われると弱いな。結局ノジュをパーティーに加えるのは規定路線のようだ。
「でも、私達が今受けている依頼はどうするの? ゴブリン討伐」
鶫の意見に俺はちょっと考えた後、
「今日はやる事が結構ある。ゴブリンの討伐は明日にしよう。鶫、悠香はついてきてくれ。タタールの村へ行く。他はここに残って周囲のモンスターでも狩っていてくれ」
ラフラを残していく事に若干の不安があったが俺の近くに二人を集めるとタタールの村に転移する。悠香は納得のいかない顔だったが、他のクラスメイトは全員いるんだから、と説得すると不承不承という感じではあるが着いてきてくれた。
タタールの村、宿屋。久しぶりにクラスメイトが全員集合した。級長と富田がぴたっと寄り添っているのは指摘しない方がいいな。
俺はクラスメイトに約束をした。
装備品と冒険。この二つ。それからチレットの街へと連れて行く。持っている毒牙は、新しい装備を手に入れたら俺が全部回収させてもらう事を断っておく。差し引きではプラスが出る。有毒のスキル石はまだまだ需要過多なのだ。
鶫と悠香の出で立ちを見て、他のクラスメイトは大体信用したようだが、まだ納得していない奴がいる。
例えば下川だ。お前俺に腕の骨を折られてまだ懲りていないのか。
おまけに骨折を治せと言ってきた。杉山と中野もそうだそうだ、と野次を飛ばす。
俺は下川の両腕を掴んで融合と念ずる。これで折れた骨は接合したはずだ。
それから腕試しをしたいと言ってくる奴もいた。タツだ。そんなに自分の腕っ節に自信があるのか。
鶫がむかっと来たのか殴ろうとするが我慢してもらう。それは俺の役目だ。
広場で構える。タツは斧を取りだした。当たったら死ぬな。こっちは魔法で迎え撃つことにしよう。
級長が審判を務めるらしい。はじめ、の合図でタツが駆け出した。俺は【凍土】を唱えてタツの足元を凍らせる。動きを封じたところを【火炎弾】で遠距離攻撃させてもらう。当てたら消し炭になってしまうかもしれないので、タツの足元を狙って魔法を放つ。爆音とともに地面が抉れた。
級長はそれで勝負あったと判断。他の連中も全員大人しくなったようだ。どうやったんだよ、と駆け寄ってくるクラスメイト。タツは一人ぼっちで肩を震わせていた。そっと近寄り肩に手を置く級長。そしてタツを抱きしめる級長。背筋に悪寒が走る。俺は何にも見ていない。何も見えていない。
こんな感じで紆余曲折があったが全員を転移でチレットの街へと届ける。それから装備品代を渡した。一人2000プライムあれば十分な装備やアイテムを入手出来るだろう。これで遊ぶも自由。冒険するも自由。冒険するなら俺はサポートするつもりだ。74000プライムは手持ちの有毒のスキル石を売り払って捻出した。タタールの村の小屋で8本の毒牙を持ちだして分離、売却。まだまだストックがある。
ダガーは村の子供にプレゼントした。
ついでに悠香の疾風の剣も疾風の毒刃にしておく。
チレットの街で渡辺を冒険者ギルドに案内しておく。装備を整えて冒険者ギルドに行けば受付のお姉さんが後はなんとかしてくれるだろう。周囲の面々と挨拶する俺を見て、信じられないものを見たような顔をする渡辺。
とりあえずこれでクラスメイトも無事ギルドに参加出来るはずだ。ステータスを整えたりサポートすべき事項が沢山あるが、まあなんとかなるだろう。