神様
いつも読んでくださってありがとうございます。
玉座の間。
俺とリリア、ダルカ、姫の四人は転移で旧大聖堂地下一階から移動した。
王や家臣たちは俺達を手放しに賞賛し、褒め倒した。
正直おっさんズに詰め寄られても暑苦しいし辛いだけなんだけど。
今回の主犯はどこかに移送されたようだ。
転がしておいたあたりに血溜まりが出来ているが、気にしてはいけないんだろうな。
「この御恩、決して忘れませんぞ!」
「流石勇者様、我等一同信じておりました!」
「いえ、俺達は敵を倒していただけです。一番の功労者はリンデーラ姫でしょう」
王や大臣ズはそれを聞いて、姫を見た。
視線に晒された姫はビクッと体を震わせた。
姫はHP1で瀕死だから優しくしてあげて!
「リンデーラ王女、バンザーイ!」
「バンザーイ! バンザーイ!」
大臣ズは姫を囲んで万歳三唱していた。ダルカもその輪に交じっている。
そんな事する前にHP回復してやれよとは思うが。
放置しておくか。
「それで、王様」
「バンザーイ! ……ん? コホン、なんじゃ? 今少々忙しいんだが」
「もう帰ってもいいですか? もうへとへとで」
褒めてもらいたくてやったわけじゃないしね。
俺、早く帰ってリリアに膝枕してもらうんだ。
「火急の用は片付いた。後は城内の兵士達を弔うのみ。勇者殿もお疲れであろう、休むが良い」
王はそう言って、俺の左手に握っていた杖に興味を示したのか首を傾げた。
「おや? 勇者殿、その手に持つ杖は……失われた国宝の焔の枝、では?」
まずい、格納のスキルで隠しておくべきだったか。
王の目に晒したんだし、言い逃れをしてバレたら大変だ。素直に答える。
「その通りです。王様はこの杖の事を知っていたんですか?」
「おおそうであったか。伝え聞く形状がそっくりなのでな、もしや、と思ったのだ。何十年も前に失われたと聞いておるが旧大聖堂にあったのだな。ああ、心配せずともよい、取り上げたりはしない。元々なくした物だと思っていたのでな」
良かった。
苦労して手に入れたものを寄越せ、とか言われなくて。
言われたら実力行使してたかもしれない。
格納のスキルで焔の枝を仕舞っておいた。
鶫、悠香、シェマのパーティーと合流した。
かなりの数の亡霊を始末したらしく、スキル石をどっさり取りだした。
こんなに石を抱えて戦闘するのも不便だし、格納のスキルの便利さが急上昇中である。
「はい、これ」
「凄まじい量だな……。ん?」
鶫が抱えていたスキル石の中に光り輝くアイテムが混じっていた。
検査すると、反魂のスキル石と表示される。
持ち物と融合すると霊体付与。道具に霊を封印するらしい。霊体吸収とどう違うのかさっぱりだ。
「シェマ、霊体付与のスキルって知ってるか」
「ええ! ということはこれが噂の反魂のスキル石なのですか! 滅多に見られないと聞いていましたが……。霊体付与とは霊をアイテムに封じて知能を持たせるスキルなのです。基本的に付与する霊体が強ければ強いほど強力なアイテムとなります。しかし霊を宿らせるので歴史上呪われたアイテムとなってしまうことが殆どだ聞いてます」
どの噂だよ。
シェマが驚いてマジマジと輝く石を見つめた。
「何か集めていたと思ったけど、そんなにすごいの?」
悠香も興味を持ったらしく会話の輪に入ってきた。
五十はあるだろう石ころ。でもそれは全て金の塊だ。
オークションに流すか、王宮に引き取ってもらうか。
在庫を一緒に処分できるなら融合の代金コミでもいい。
オレイル辺りに持ちかけてみるか。
でもアイツ今日処分喰らったばかりだしな。
「……全部合わせて幾らになるんだろうな。とにかく偉いよ、鶫」
「でしょ? 悠香は敵を殺したら先に行こうとするし、シェマはお菓子以外に興味ないから私がしっかり回収しなきゃって思ったんだ。多分取りこぼしはないよ」
鶫は得意そうに微笑んだ。
「私が沢山殺したのに」
悠香が若干不満そうに唇を尖らせた。
「勿論、悠香の腕あっての話だけど。殺しただけじゃお腹は膨れない。売ってみないと分からないけど、かなりの額にになりそうだぞ」
「じゃあ一つ売ったらお菓子どれくらい買えますか?」
「シェマの腹が破裂するくらい買える」
シェマが破裂しちゃダメです! とお腹を押さえた。
「食べなきゃいいだけだろ」
「そんなことはないのです! お菓子があったら食べるのが正義なのです!」
力説するシェマ。
うんうんわかるわかる、と鶫と悠香が頷いた。
「というわけでお腹が減りました! 働いた分糖分を補給しなきゃいけないのです! お昼もまだですし城下町へ行きましょう!」
いや、シェマよ。お前戦闘中もぼりぼりクッキー貪ってたじゃないか、というツッコミはなしにしておく。
「よし、じゃあノジュとラフラを回収したらお店巡りの続きをするか」
はーい! っとリリアとシェマが手を挙げた。悠香も顔を赤らめながらこっそり手を挙げていたのは見逃した方がいいんだろうな。
●聖剣士と魔剣士
探査の反応を調べると、訓練場にいるようだ。近くにオレイルの反応もある。
「だあああああっ!」
ラフラとノジュを探して三千里。気持ち的に。
訓練場に踏み入った途端、連続して剣と剣がぶつけあう金属音が響いた。
一方は聖剣士オレイル。もう一方は魔剣士ラフラ。
訓練用の剣に持ちかえてはいるが、風を切る一振り一振りが加減のない一撃だ。
「ハッ! ヤッ! ……どうだっ!」
ラフラが大型の剣を力任せに振りまわす。
力強く踏み込んで上段から袈裟斬り、オレイルに回避されるとそのまま剣を脇に構えて胴に打ち込む。
オレイルは上手く盾を使って弾き、
「オラオラオラッ!」
剣でラフラの急所を狙って連続で突く。
プロテクターをしているとはいえ、一歩間違えれば死ぬレベルの一撃だ。
それらの連撃をラフラは巧みに剣で捌き、最後の突きに合わせて前に出ながら回避すると同時に下段に構えた剣で脛を叩いた。
堪え切れずに転ぶオレイルと距離を取って中段に構えたラフラ。
ラフラは転んだオレイルに駆け寄り、立ち上がろうとしたオレイルの左足で胴を抑え付け、剣を逆手に構えると首の傍にぐさりと大剣を突き刺した。
「勝負ありー! オレイルー、もう五回目だよ。いい加減負けを認めたら?」
ぱちぱちと拍手する見学の兵士達。その真ん中でノジュがだるそうに審判をしていた。
菓子を咥えながら喋るなと言いたい。
シェマも食べていた細長い形状のお菓子だ。人気なんだろうか。
「ぬおおおおおおっ! 何で勝てないのだああああああああああっ!」
オレイルはごろごろと転がって仰向けになって叫んだ。
「どんな状況でも冷静になれば勝機はある。と言いたいところだが、私とてご主人様に会う前にお前とやっていたなら五分以下だっただろう。奇跡の剣、堪能させて貰ったぞ」
「くっそおおおおお! お前なんで聖剣技の奇跡の剣を使えるんだよ! インチキだああああああああっ!」
奇跡の剣とは某RPGの装備品のように攻撃したらHPが回復するわけではなく、攻撃を加える度にボーナス修正を受ける事が出来るスキルだ。
間違えないようにしたい。ちなみに剣で攻撃してHPをドレインする攻撃スキルは吸魔の剣である。
「使えるものは使えるのだ。仕方あるまい」
まあ犯人は俺なんだけどね。まさかオレイルに事情を明かすわけにはいかないし。
ラフラも涼しい顔をして流しているし、まあ問題はないんだろう。
「お、ご主人様じゃないか」
「おっすー!」
ノジュとラフラはこっちに気付いたらしい。オレイルは不貞寝だ。ノジュはぶんぶんと手を振っている。
ラフラが駆け寄ってきた。
そしてラフラがグレンディールを自然に掴んで、不自然に腰を落とす。
刹那、凍りつくような殺気が背筋を走った。
一閃。
火花を散らす音。
一瞬で悠香が飛び出ると疾風の毒刃を抜き放ち、居合の要領でラフラのグレンディールを弾いていた。
悠香さん男前です。俺が女だったら惚れてた。
「ラフラーッ! 何すんだよ!」
「ふふふ、ちょっと試しに斬られてみてくれないか? すごいんだよ、この剣」
グレンディールの剣の腹を指先で愛おしそうに撫でるラフラ。
「そんなうっとりした笑顔で言ったって駄目だから! 死ぬから!」
グレンディールは不死殺しの剣。
魂を吸っちゃうらしいから、蘇生スキルがあっても駄目っぽい。
ぶんぶんと首を振る俺。
「つれないじゃないか、ご主人様」
溜息を洩らしたラフラがグレンディールをひゅん、と振って納剣した。
「ラフラ。犬のじゃれあいじゃないんだからシュンにグレンディールを向けちゃ駄目。そんなに戦いたいなら私が相手になるけど」
殺気を迸らせる悠香。
「まさか。ハルカが防がなくてもご主人様ならあの程度の剣避け切れると思ったまでさ。それにその提案は無理だ」
それはどう考えても買い被りです。
そうだ、霊体吸収の効果を確認しておこう。
存在感が増したように感じるグレンディールを検査する。
霊体吸収(293)。
そしてその横に書かれた攻撃力修正値+146……!
元の攻撃力は1だが、霊体吸収のスキルで際限なく強くなるというのは本当らしい。
加えてグレンディールの能力も幾つか増えていた。
怨念解放、吸魔剣、吸生剣、闇隠れ。
ラフラは元々吸魔剣と吸生剣のスキルを持っている。
しかしどうも俺以外は常在スキルは5つまでしか装備出来ない。
装備欄が空く分有用だ。
闇隠れはラフラが元々持っていたレーバーにもあるな。暗がりだと剣が闇に同化するスキルだ。
怨念解放は霊体吸収の数字を0にする代わり、一撃だけ攻撃力を5倍に高めるようだ。
こんな感じで剣の能力が増えた代わりに制限も増している。
意志ー100からー146になっている。意志を代償に攻撃力を高める感じか。
「難点は攻撃力が高過ぎることだな。加減が上手くいかない。というわけだ。ハルカ、すまん」
ピシ、っと音を立てて疾風の毒刃がボロボロになって砕け散った。
「そんな……!」
涙目になった悠香がラフラを睨んでいる。
「だから悪かったと言っているだろう」
ラフラは肩をすくめた。
「だからって……!」
悠香は疾風の毒刃を壊されたのが気に入らないらしい。
ギャーギャーと怒りに任せてラフラを罵倒する悠香を鶫が慰める。
「まあまあ。初めてもらったプレゼントを壊されて怒る気持ちも分かるけど。折角王都にいるんだから新しい剣を買ってもらえばいいじゃん?」
「べ、別にそんなんじゃないんだからっ!」
「はいはい。じゃあさっさと買い物しに行こうよ! パーティーの皆、集合!」
鶫の掛け声にパーティーメンバーが集まる。
オレイルが手をひらひら振るのを尻目に、城下町に転移した。
あ、スキル石の話をするの忘れてた。
●それぞれの事情
「シュン! あれ買って! あの焼き鳥っぽいの食べたい!」
「いや、ひとまず屋台より武器屋だろ……お前武器失ったばかりだし」
俺の右手を引っ張って買い食いに精を出すのは悠香だ。
どうも買い食いになるとテンションが上がるタイプらしい。
手を繋ぐとかそんなキャラじゃないだろう。
「それじゃなくてあっちの大判焼きっぽい奴にしよっ!」
それに対抗したのか左腕に抱きつく鶫が指を差す。
どちらも居世界の屋台に興味津々だった。俺の意見は何処にいった。迷子か。
「俺にどうしろと……」
大岡奉行は此処にはいないんだぞ。
「ここは公平にあの串を皆で食べて、それから焼き菓子を皆で食べるのがいいと思います!」
リリア奉行がそう裁きを下した。
なら仕方あるまい。
でもお金が払われるのは俺のポケットからだという事を忘れないで欲しい。
まあ以前売り払ったスキル石の代金はまだ余ってるし、鶫がきちんと回収したスキル石も売りさばけば更に金が増える。
だからいいんだけど。いいんだけどさ。
「ふん、どうでもいいな。あ、私は塩で頼む、軟骨が食べたい」
「えー。ラフラー。皮こそ至高! 私はタレ! カラシたっぷりつけた手羽先もお願い!」
ノジュがマイペースに応じる。
「うふふ。ふふふ。ふっふっふっ! このパーティーはリーダーが食べ物を奢る習慣があるのですね! 素晴らしいです! 素晴らしいです! お菓子食べ放題ってすごいです! 大事な事だからもう一回言った方がいいですか?」
シェマがお腹を鳴らしていた。ひとまずこのちびっ子にはお菓子から遠ざかる事の重要性を説きたい。
いつの間に食べ放題になっているのかはさておき、シェマの呼び方がリーダーに変化したことについては何も言うまい。
俺のパーティーって……俺を財布だと思ってないか?
これがイケメンと財布の違いか。
とはいっても今日は皆を突然の戦闘に狩りだしてしまったし、いろいろ収穫もあった。
トータルではプラスだ。
というわけで出費に異論はない。
焼き鳥を買い食いし、大判焼きっぽいお菓子を買い食いし、それからシェマが先導した幾つかのお菓子屋を梯子することになった。
正直胸やけしそうだ。
しかし俺以外は平気だ。
「この程度、ねえ?」
「私達の世界に居た時も普通だったかも」
鶫と悠香は俺の態度に釈然としないようだ。
クッキー、ゴーフル、ケーキ、パイと散々奢らされてようやく解放された。
しかし更に昼食のパスタが入るんだろうか……。
女性の胃袋は謎である。
俺は食べる前から物理的に胃に入るか怪しいレベルなんだが。
「この辺で許してやるのです!」
とシェマが言うのだが、多様なクッキーを大量に買い込んでリリアに持たせていた。
格納のスキルがないからリリアにお願いしたらしい。
格納のスキルをそういうお菓子箱にするのはどうかとは思うが、シェマにも格納のスキルを複製しておいたほうがいいようだ。
早速コピーしておいた。
昼食を楽しんだ後、転職神殿に転移する。
またあのおっさんに会わないといけないのかと思うと気が重いが、シェマは無職だから何かしら職業をつけてやりたい。
「はい! 大司祭がいいのです!」
まだ何も言ってない。
「ええと、一応理由を聞いてもいい?」
「リーダーはのんきですね! 耳をすませば神様の声が聞こえますよ?」
シェマはそういって首を傾げた。
無事転職も終了。シェマは大司祭の職業に復帰した。
おっさんのセクハラはシェマには通じなかったようだ。
代わりに悠香が冷たい視線でおっさんを睨んでいた。
「これで準備が出来ました! プリストン様、お願いします!」
神様?
シェマの視線の先を辿る。
そこには一人の女の子がいた。
ブロンドの長髪をお下げにして、白いローブを身につけ、……床に座り込んで指で【の】の字をひたすら書いていた。
何なの。
「ええと。……知り合い?」
困惑しながらシェマに聞くと、えっ! という顔をされた。
「リーダーは不勉強なのです! 最高神プリストン様を知らないなんて!」
え。あれが? 【の】の字を一心不乱に書いている女の子が?
キーン、と耳鳴りがした。
全ての視覚情報が色を失って、その女の子だけしか見れなくなる。
『失礼な。妾をあれ呼ばわりするとは』
脳内に声が響いた。
『妾はプリストン。この世界を創造し、そしてお主達をこの世界に召喚した存在だ。故あって目を開けることは適わん。許せ』
女の子が立ちあがって腕を組むと、目を閉じたまま不敵な笑顔を浮かべた。
背は低いな。全体的に華奢だ。靴は白い。白い手袋に黒い首飾りをつけているのが目立つ。
「すみませんでした、神様」
『ふ。それでよい。妾は最高神、寛大である。多少の不調法は許容しよう。ようやくお主の周りに神の加護を失った大司祭が現れたからの、こうして妾も姿を見せることが出来たのだ。監視していた甲斐があったというものよ』
周りを見るとシェマ、鶫、悠香以外の全員が金縛りにあったかのように硬直していた。
『この結界内で活動出来るのは妾の他には妾が許可したした者のみ。この場では妾の召喚したお主達と大司祭ということだな。説明したいことは多々あるのだが、この結界を維持するにしても神値を消耗する。妾の神値はほんのわずか。手短に用件を済ませよう』
「ってことは、私達は貴方にこの世界に召喚されたってことであってる?」
鶫が問う。その口調はどこか責めるようだ。まあいきなり異世界に呼び出されて呼び出した本人(神?)いるのだ。それも仕方ない。
『左様。本来は妾が召喚するつもりだったのはシュン少年一人だったのだがな。他の神の横やりであの場にいた全員を召喚することになってしまったのだ。許せ』
すまなそうに項垂れる神様。
「許せって……。そういえばメールには帰る手段があるような事が書いてあったけど、そのクリア条件って何?」
悠香も続けて質問する。
『それは此度の会合の最後に離そう。まず、妾は最高神であるが、神としての格と力はほぼ失われている』
神様は溜息を吐いた。
『この世界を創造し理をもたらしたのは妾なのじゃが……理は前の世界をそのまま流用していてな。お主達にステータスが存在するように、神にもステータスが存在する』
俺達の目の前に四角い画面が現れる。
最高神 プリストン=アール 神格 下っ端 神値 14 信徒 5
権能
『権能は腐る程持っていたのじゃが、神格が足りず全て封印されておる。神格は……声にするのも口惜しい事じゃが、まあ見ての通りじゃ。神値は神の消滅までの残存値。お主達でいうHPじゃな。シュン少年、ハルカ、ツグミ、リリア、シェマの5人なので信徒は5じゃ』
「いや、待ってくれ。俺達が信者ってどういうこと?」
私達別に貴方の事なんとも思ってないよ? とは鶫の弁だ。
直球だが正しいので否定はしない。
『ふむ、そこからか。まず妾が召喚したシュン、そなたは妾の召喚に応じた以上妾の信徒として扱われる。これはいいな?』
自分が召喚したんだから、自分の信徒。
そのロジックは強引ではあるが、理解は出来る。
「でもさ、何処かで洗礼受けて他の神の信者になっちゃったらどうするの?」
鶫が首を傾げた。
『ふむ。その場合は我の力が失われる事になるな。そしてシュン少年の神授スキルも』
神様は頷きながら答えた。
ちょっと待て。神授スキルって何だ。
『それはお主自身が一番感じておろう。……チートだ、と』
ニヤリと口元を歪める神様。
そして俺に近寄って、耳元で囁いた。
待て。待て待て待て!
それはもしかして……!
『妾がお主に授けたスキルは5つ。全能を与える《設定》、全知を守る《複製》と《検査》と《探査》、そして消滅を司る《抹消》』
最初から所持していたスキルのうち、5つだ。
じゃあ残りの蘇生、再生、融合、分離、全体化、言語は違うわけだな。
『理解が早くて助かる。残りは理がお主に与えたスキルじゃ。まあ唾を付けたい他の神が加護を与えている可能性もあるが。お主が妾のスキルに頼る限り、一連託生じゃ』
ククク、と笑って神様が離れた。
『まあそれはそうと、一つスキルを取り上げさせてもらうぞ』
神授スキル《抹消》が封印されました。
とステータス画面に表示される。
取り消し線がスキル欄の抹消に引かれた。
『すまんの。もうしばらくお主に貸す予定だったが、誰かさんが予想外にバカスカ使うので消耗が激しくての。抹消を1回使われる度に妾の神値が1減るのでな』
話を総合すると、抹消を1回使う度に神様のHPを1減らす。神様は瀕死だからもう使わないで! とこういうことか。
「それなら仕方ないか。じゃあ他のスキルは?」
「いや、残りは10回使う度に1減る程度じゃ。10を割るまで取り上げないつもりじゃよ。それに神値が回復したらまた渡すつもりじゃし』
となると、複製や設定はまだ使えるのか。それに神値を回復させればまた使ってもいい、と。
「ねえ。さっきからシュンとこそこそ話しているけど。私達にも分かるように話をしてよ」
悠香が不満を洩らした。
『良かろう。一言で言うと、シュンは妾の信徒で妾の信徒を増やす義務があるということだ』
勇者から宣教師に転職? 無茶言うな。
「まあ間違っちゃいないんだろうけど。なんで神様の信徒を増やさないといけないんだ?」
『まず、お主達に設定したクリア条件の一つが、帰還の権能を使える程妾の神値を回復させる事だからだ。召喚の権能を使った際、神値を大幅に消費してな。妾は本当に為す術がない状態なのじゃ』
クリア条件の一つがようやく一つ開示されたわけだ。
ちょっとだけやる気が増えた。
「でも神様の権能って何もないけど」
鶫が突っ込んだ。
『うむ。さっきから無礼な物言いだがいい質問だ。それに答えるにはまず、妾の神値を回復させることが必要だ』
「何で? それに神値ってどうやって回復させるの?」
『神値の回復は簡単だ。信徒に妾への祈りを捧げさせる事だ。信仰に基づく祈りによって消費されるわずかなMPによってのみ、妾の神値は回復される。神値、信徒の数は更に神格へと影響を及ぼし、神格の降下によって妾の失われた権能を復活させることが出来る』
「言いたいことはわかったけど。私達に結局何をさせたいのか、具体的に教えてくれない?」
イライラしている悠香が質問した。
『急いては事を仕損じるというぞ。落ち着くが良い。さて、質問の答えだが、まず冒険者としての振る舞いだ。盗賊や魔物に苦しめられる人物を救ったときに、《プリストンの加護が有らん事を》と告げるだけで良い。この世界の常識ではそれでお主達がプリストンの信徒であることが明らかになる』
コホン、と咳払いした神様が続ける。
『この世界には助けてくれた神に対して祈る風習があるからな。誰からも信奉されていない妾であっても祈られるわけだ』
「他に何かある?」
『神殿を作る事じゃ。それだけで妾の神値は一気に回復する。そこに大司祭や司祭を置けば更に神値の回復は速くなる』
なるほど。俺達は今まで通り普通に冒険をする。
冒険をしたらこの神様のお陰だよと吹聴して回ればいいわけだ。
俺にとってはスキルの使用回数が掛かっているから、まあやるしかないだろうな。
『そうそう、お主達に正式に加護を授けておこう。現在はないよりマシ程度ではあるが、後々役に立つであろうから』
《最高神 プリストンの加護》を得た。
《最高神に選ばれし勇者》の称号を得た。
固有スキルとか神授スキルとかややこしいですよね……。




