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死者

不定期更新につきあっていただきありがとうございます。

マイペースにがんばります。

 槍や剣を杖代わりに、ゆっくりと立ち上がる死体。死体。死体。二十よりも多いだろう。数えるのも億劫だ。

 一様に青白い肌と、爛々とした眼光。

 そして口から零れ落ちる涎。

 一番前の死体の目玉がずるりと零れ落ちた。

 グロい。吐きそう。胃の中がムカムカする。

 ここにリリアがいなかったら思う存分吐いていた自信がある。

 地下大聖堂の廊下を塞ぐ大量のゾンビの群れが、こちらを見てカパッと口を開けて歯を剥き出しにした。

「来る! 注意しろ!」

 【光雷の波】を詠唱中のリリアは無言で頷いた。

 火炎の魔眼を使って牽制するが、頭部が燃えるだけで効果はない。

 走り出すゾンビの群れ。

 数十体もいてはいなすことが出来ない。数は力だ。

「うわっ! 走るのか!」

 ゾンビはのそりのそり歩くものだと思い込んでいたがどうやら違うようだ。

 走ると言っても元兵士だけあって重装備をしている為、そんなに早さはない。

 それともこっちのステータスが上がり過ぎてそう見えるだけなのか。

 物量だけで押し潰されそうな圧迫感に、背筋に寒気が走った。

 まともに相手すべきじゃないな。

 即座に判断して空間上に【氷の盾】を三枚連続して展開し、通路を塞いで前面にいるゾンビ達の足を止める。

 ゾンビ達は呻き声を上げて盾に体当たりしてきた。【氷の盾】は低レベルゾンビの体当たりくらいで壊れる程脆くはないが、時間制限がある。

【凍土】を唱えてゾンビ全体の足を凍らせた。

 止め損ねたゾンビは硬直の魔眼で竦ませて、ハームで鎧ごと斬り捨てる。 

 詠唱中で無防備になっているリリアに襲いかかろうとしているゾンビには、抹消で退場してもらう。

 HPが3割になった。

 抹消は使えて後一回だ。

 使用する度に最大HPの20パーセントを支払う必要があるので、一発分は緊急用に安全マージンで残す必要がある。

 回復アイテムの錠剤をポケットから取り出して苦みを我慢して飲み込む。

 名称は『命薬』。そのまんまなネーミングだと思ったのは内緒だ。

 効能は体力10パーセント回復。

 いきなり回復するとか美味しい話はそうそうなく、5分くらいの間に時間を掛けて徐々に効果を発揮する。

 しかも連続して飲んでも効果がなく、一度飲んだら30分程時間を開ける必要がある。

 再生のスキルと重複しない事が唯一の救いだ。

この世界ではHP回復は至難だ。

 薬草やポーションみたいなお手軽簡単HP回復手段がない。

 【癒しの風】も固定値回復だから、イマイチ使えない。宿屋だって泊っても全快しないときがあるしな。

 ハームを振りまわしてゾンビの胴を二つに斬り裂く。

 内臓が飛び散っても気にしてはいけない。

 早く殲滅したいが、単体攻撃スキルしかないのが辛い。

 


「いきますッ! 【光雷の波】!」


 リリアの詠唱が完成したようだ。辺りに光が溢れ、光に飲み込まれたゾンビが一体一体と消滅していく。

 そういえばあるゲームで敵を光の彼方に消し去る魔法があったな。

 その魔法は経験値が手に入らなかったが、この世界では勿論そんなことはなく経験値は手に入るようだ。

 ゾンビ化した肉体だけが消滅し、廊下にはからんからん、と彼らが身に着けていた装備が音を立てて転がった。

 骨さえなくなってしまったのは哀れだが、せめて彼らの冥福を祈ろう。装備は量産品なので拾わない。一部アクセサリーで気になるものだけ拾っていく。

「はぁ。上手く行きました」

 額の汗を手の甲で拭うリリア。

「いや、ヒヤリとした場面があった。二人だとやっぱり危険があるな」

 特に火炎の魔眼でゾンビが止まらなかったのには焦った。

 パーティーを分割したのは迂闊だったかもしれない。 


 パーティーメンバーを探査のスキルで検索してみると、悠香・鶫・シェマのパーティーは順調に亡霊を仕留めているようだ。

 千里眼で確認するとラフラとノジュのコンビも悪くはないようだ。

 リンデーラ姫とダルカを探査で探して見ると、地下一階の大広間に何人もの兵士と固まっている。しかし、敵も同様に居るようだ。

 千里眼で姫様達の様子を見ると疲労はしているが、絶対絶命という程ではない。

 しかし急いだ方がいいのは間違いないだろう。

 未来視に切り替えると、兵士の槍に貫かれて絶命するリンデーラ姫が見える。

 

 リリアを促して更に奥へと進んだ。



● 結界


 

 地下一階の大広間。探査で確認したところ、地下の丁度中央だ。

 リンデーラ姫を守るように神官達とダルカが囲み、それを更に守る為に兵士が壁役となって円陣を組んで防いでいる。

 全員のスキルに霊視と霊体攻撃がついている辺り、精鋭中の精鋭なのだろう。

 ダルカの弟子であるノジュでも俺とパーティーを組み前は霊視を持っていなかったし。

 亡霊たちも一息に兵士たちを殺す事は出来ないらしく、兵士に襲いかかっている隙にダルカや神官が【光の矢】で亡霊たちを消し去っていた。

 リンデーラ姫はまるで神に祈りでも捧げるかのように膝立ちになって一心不乱に詠唱している。

 姫が結界を完成させれば外に亡霊があふれ出る事もない。

 兵士に襲いかかろうとしていた亡霊を【光の矢】で打ち抜いて、俺とリリアはリンデーラ姫を守る円陣に近寄った。

「おお! シュン殿ではないか。ここでの加勢は非常に有難い!【光の矢】」

 シャドウナイトがダルカの【光の矢】に貫かれて消滅した。

 ダルカのMPはそんなに残っていない。

 つまり、【光雷の波】を唱えられない。

 賢者の職業補正でMP消費量の減少があるのだが、それでも足りないらしい。

「とにかくこの部屋の亡霊たちを排除するか。リリア、もう一回出来そうか?」

「すみません……まだ待機時間が解除されていないようです」

 しょんぼりしたリリア。

 ごめんね、こき使って。十分役に立っているから。

「ダルカ、どうする?」

 火炎の魔眼でデスクリムゾンを牽制する。

「すまぬ、シュン殿。待機時間はないがMPが足りぬ、のだ!」

 知ってた。

 遂には手に持つ杖で霊を殴り飛ばす。ダルカも必死だな。

「しょうがないか……」

 手に持つハームを再び強く握りしめた。

 聖剣技があるのだし、何とか頑張ってみよう。ちなみに俺が光雷の波を唱える案はなしだ。魔法欄に登録されているが、詠唱が複雑なので舌が回らない。

 こんな事態になるのだったらもう少し詠唱の練習をすべきだった。

 盾系か矢系の魔法なら単純な詠唱なのでなんとか唱えられるのだが。

 

 ハームを振りかぶり突進する。 

 アンデッド特効の浄化の剣と霊体攻撃のスキルを装備しているので、一撃必殺だ。

 リリアは【光の矢】を連続して唱え、手が回らないミストマジシャンやデスクリムゾンを仕留めている。

 瞬く間に敵の気配が減っていく。

 姫の護衛の兵士も余裕が出てきたのか、三人がかりで堅実に亡霊を消滅させていた。

「出来た……!」

 ぶつぶつと詠唱していたリンデーラ姫が、ようやく立ち上がった。

 両手を頭上にかざすリンデーラ姫の周りを幾つもの神々しい光が舞う。

「正義の神クシュセロナよ、聞き届けよ我が祈り! その目は邪を祓う希望の刃、その言葉は闇を照らす光の刃、その剣は魔を斬り裂く聖なる刃、三なる刃の加護を今此処に、穢れ無き聖域を授けよ! 秘蹟《三刃結界》!」

 リンデーラは腰に下げた三本の短剣を取り出すと、床に次々に突き刺した。

 検査してみると破邪の短剣という名だ。

 儀式用の剣らしいが、疾風の剣と同じくらいの攻撃力を誇る上にアンデッド特効の効果がついている。

 後で貰えないか相談しよう。

 結界の範囲が短剣を中心に広がる。

 禍々しい気配が浄化され、どんどん澄んだ気配になっていく。

 邪気が払われると同時に亡霊達の苦悶の叫びが辺り一帯に響く。

 振り返ると多くの霊体が崩れ去っていくところだった。

 「結界内では弱い霊体は直ちに消滅します。残るのは……あれみたいな奴らですな。もっと奥の階層にまで潜っていたと思ったのですが……。もうひと踏ん張りですな」

 ダルカが忌々しそうな目でいつの間にか現れたそいつを睨んだ。

 そいつは神官みたいな服装をしていた。

 随分とボロボロな服だ。

 真っ白な肌と白く濁った眼。頭髪は白髪で、手に持つ杖が紅の色を主張していた。

 この地下一階の敵影は目の前のアンデッドのみ。

 地上もなんとかなったみたいだし、サクッと始末して帰りたい。

「神気ガ満チテイル……生カシテハカエサヌ」

「奴はおそらく70年前に旧大聖堂浄化を指揮した大司祭でしょう。結界を張り直した際に殉職したと聞いていましたが。油断したら、死にます」

 ダルカがリンデーラ姫を庇う位置に立つ。

 それを更に庇うように神官達と兵士がアンデッドキングの前に立ちはだかった。

 リンデーラ姫のHPは残り1。MPは0。

 全てを使い切った状態で動けないでいる。ダルカや神官たちもHPに影響はないようだが、MPを全て持っていかれている。

 俺とリリアが戦うしかないようだ。

 転移で逃げても結界の礎である短剣を破壊されたら困るしな。 

 検査をする。

 魔王妃ネイには劣るものの、かなりの高ステータス。

 効果不明なスキルを幾つも抱えている。

 どうやら一筋縄ではいきそうにない。

 こっちは撤退不能でリンデーラ姫は虫の息。

 だが、恐れはない。抹消は後一回分使うことが出来る。吸生の口づけでHPを補給してもいいしな。

「シュン殿、姫様を最優先でお守りください。結界を固定する前に姫が死ねば結界も壊れます」

 そして、それは向こうも当然熟知しているはずだ。

「カカカ。無駄ナ真似ヲ。皆仲良ク我ノ配下ニシテクレル……【悪夢】」

 嘲笑うアンデッドキングが杖を振り上げると、突然周りの兵士たちが痙攣しだした。

「うわああああ! 誰か止めてくれ!」

 兵士達が抜刀した剣で手近な味方を突き刺す。首を刎ね、腕を切り落とす。

 動けないリンデーラ姫を突き刺そうとした兵士をダルカが【昏睡】を唱えて昏倒させた。

「お前達! 正気に戻れ!」

「クク、我ノ魔法ノ味ハイカガカナ? 無論、マダマダコンナモノデハナイゾ! 【穢土】」

 アンデッドキングが再び魔法を唱えようとする。 

「させるか!」

 封印の魔眼を開眼する。

「ムッ? 破呪サレタノカ? 味ナ真似ヲ」

 詠唱に失敗したアンデッドキング。

 魔王妃と戦った時は封印の魔眼を使いながらダルカ達を生贄に魔法を複製させてもらった。

 勿論、ここでもやる。

 一度取り逃すと二度と入手できない魔法やアイテムもゲームではあったからな。

 姫を殺されてはいけないというキツイ条件は我慢する。

 アンデッドキングのステータスは魔法使い型だ。

 封印状態で肉弾戦なら兵士達の数を考慮にいれれば五分だろう。

 しばらく任せる事にした。

 リリアに協力してもらい、複製のスキルで【悪夢】【怨恨】【穢土】【嘆きの群れ】【死者の囁き】の魔法を頂く。

 【悪夢】は同士討ちの魔法、【怨恨】は恨みを攻撃力に転嫁する魔法、【穢土】は死者を操る魔法、【嘆きの群れ】は死者を召喚する魔法、【死者の囁き】は即死魔法だ。

 更に邪眼のスキルを頂く。邪眼は見つめた相手にランダムでステータス異常を引き起こす。

 こういう魔眼が欲しかった! 

 俺とリリアが口づけを繰り返している間、スキルと魔法を封印されたアンデッドキングは兵士相手に防戦を強いられていた。

 劣勢と見たアンデッドキングはその手に持った杖を振りかざした。

「小癪ナ! 唸レ『焔ノ枝』!」

 兵士達が炎に巻き込まれる。一番前に居た三人が悲鳴を上げる。炎が消えると黒焦げになった塊だけが地面に倒れた。

 尻込みしたのか、兵士は攻めかねているようだ。

 道具に頼ったスキルは封印されていても使えるらしい。

 封印の魔眼といえども万能ではないようだ。

「シュン殿ーー! まだですかーー!」

 ダルカが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 アンデッドキングを抹消のスキルで消すべきか。

 しかし、あの杖も消えてしまうかもしれない。ドロップアイテム扱いなら残るかもしれないが、ちょっと冒険はしたくない。

 仕方ない、真面目に戦おう。

「リリア、応援頼む」

「お任せ下さい、ご主人さま!」

 リリアが【光の矢】を五発、アンデッドキングに打ち込む。

 俺はハームに【光の刃】を唱えた。【光の刃】は手に持つ武器に光属性を付与する魔法だ。アンデッドに有効らしい。

 更にリリアが俺に対して【樫の力】を唱える。樫の力は攻撃力を増加させる魔法だ。

「! 纏エ『焔ノ枝』」

 アンデッドキングの周囲が炎上する。しかし、こっちにもやりようがある。

「【土の壁】!」

 土の塊を出現させ、炎の円に道を作る。

 土の壁を踏み台にし、飛び跳ねる。

 空中で大剣を頭上に構え、全力でアンデッドキングに叩きつける。

「馬鹿ナ……!」

 惜しい。アンデッドキングは間一髪で避けたようだ。しかし、右腕は頂いた。炎の枝を持っている方の腕だ。

 切り落とした腕にはしっかりと杖が握られていた。

 もう迷いはない。俺の左目は硬直の魔眼でアンデッドキングを捉えていた。

「消え去れ!」

 抹消を使う。

 アンデッドキングは跡形もなく消滅した。

 残った腕にハームを突き刺すと、腕も灰になって崩れ落ちた。戦利品の焔の枝は勿論頂いていく。


「シュン殿、流石勇者と言った所ですな! ところで炎に隠れて良く見えなかったのですが、アンデッドキングはどうやって仕留めたのです?」


 ダルカの疑問はもっともだ。しかし答えるつもりも全くない。話を逸らすに限る。

「ダルカ、そんなことより兵士の蘇生が先決だ。リリア」

「はい」

 リリアを呼んで、吸生の口づけと吸魔の口づけでHPとMPを補充する。

 蘇生は時間制限の他に、首が取れていたり、心臓が潰れていたりと肉体の損傷が激しい場合でも蘇生させる事ができない。

 融合のスキルで首や胴体をつなげないと蘇生のスキルは使えないのだ。

 まあ蘇生のスキルがあるだけで素晴らしいのは間違いないので文句は言うまい。

 融合と蘇生のスキルで兵士や神官を半数以上復活させる事が出来た。間に合わなかった分は、仕方なかったとしか言えないだろう。


「勇者様は素晴らしいスキルをお持ちなのですね」

 倒れ伏している姫を抱え起こした。

 兵士は全員ふらふらなので俺がやるしかなかったのだ。他意はない。

 リリアの拗ねた視線を気にしてはいけない。

 そう、これは勇者の仕事なのだ。

 仕事なら仕方ないね。

 ほら、俺ってイケメンじゃなくても勇者だからね、一応。

「いや、たまたまです」

「まあ。謙遜なさって。本当に勇者様のパーティーに入れてもらおうかしら」

 情報ダダ漏れは勘弁して欲しい。

 現時点でもかなり漏れている気はするけれど。

「じゃあ俺達はさきに戻ってます」

 姫の戯言は無視し、兵士と神官はもう安全だから歩いて帰るようにとダルカが指示を出すのを聞きながら、俺、リリア、ダルカ、姫の四名は王の待つ玉座の間へと転移した。


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