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悪魔とぼっちの七日間  作者: 百円
第二章
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第4話

「今回のロングホームルームでは、いつも隣に居るクラスメイトに長所を見つけてもらいましょう!」


 担任の先生は、にこやかにそう告げた。授業始まりのチャイムと共に配られたプリントには“私の長所を教えてください”と書かれており、その下には大きな記入スペースがつくられていた。


「皆さんの中には大学で推薦を受けることを考えている人も多く居ます。面接ではいかに自分をPRできるかということがとても重要です。しかし、皆さんは自分の長所を自信を持ってはっきりと言えますか? 言える人は少ないですよね? それを隣の人に見つけてもらおう、という企画です」


 悪魔さんは眠たそうに欠伸をしてる。でも、私の心はどきどきと高鳴った。でも、朝みたいに恥ずかしくってどきどきしてるのとは違う。


「じゃあ、隣の人とプリントを交換して、その人の長所をびっしりと書いちゃって下さい!」


 だって、私の隣の人は、藤崎くんだ。

 プリントを交換するとき、まるで故障したロボットのようにぎこちなく、体がきしむような感覚がした。ちらりと、藤崎くんの表情を伺うと、照れくさそうにはにかんで小さく笑ってくれた。私の体はロボット化してるから、うまく笑い返せなくて、でも、心臓は強く震えて、顔に熱が篭った。

 プリントを受け取ると、すぐに、シャーペンをさらさらと走らせる。勉強ができるところ。運動もできるところ。クラスメイトみんなから信頼されているところ。文化祭や体育祭ですごく活躍していたところ……。どんどん記入スペースが埋まっていく。


「なんとまあ、どこかの誰かさんに似て、むかつくぐらい完璧なヤツだな」


 悪魔さんは私のプリントを覗き込みながら憎らしげに呟いた。私はその言葉に心の中で、そうでしょ、と返す。何故か、自分のことではないのに、ちょっとだけ誇らしい気持ちになった。

 授業が終わる十分前になって、先生が、ぱんぱん、と手を叩いて、終わりの合図をする。


「はい。じゃあ、そろそろ交換してください」


 私の書いた藤崎くんの長所の欄は、びっしりと黒い文字で埋め尽くされている。交換して受け取ったプリントに、藤崎くんの字で“勉強ができるところ”、と少し大きめの字で書かれていた。す、とその字を指でなぞると、ちょっとだけ掠れてしまった。思わず、笑みが零れる。このプリント、ずっと大事にしよう。勉強に疲れたら、このプリントを見よう。きっと、疲れもふっ飛んじゃうだろうな。


「――っい゛!」


 うめき声がして、悪魔さんのほうを見ると、頭を抱えて、何だか思い悩んでるみたいだった。「嘘だろ」とか、「油断は禁物だな」とかぶつぶつ言ってる。私がじっと見ていると、その視線に気づいたのか、悪魔さんは慌てたように「なんでもないぞ!」といった。何も言ってないのに。


「お前の思考回路が分からん! どうして、こんなスッカスカのプリントを見て幸せになっているんだ! ……まぁいい。不幸度を戻せばいいだけだからな」


 悪魔さんは勝手に怒って、勝手に納得したかと思えば、急に手を振りかざした。


「ぐるぐるぐるどーん! その紙に藤崎の本音を写せ!」


 何言ってるんだろう。

 私が眉を顰めると、悪魔さんは、えっへん、と言わんばかりに胸をそらした。


「俺様流黒魔術だ! そのプリント、もう一回見てみろ」


 言われたとおり、プリントに視線を落とす。「え」と思わず声が漏れた。“勉強ができるところ”の後に、勝手に文字が浮かび上がってくる。しかも、藤崎くんの筆跡で。そこには続けてこう書かれていた。


 “ってゆーか、それ以外書くことない。今日の朝の挨拶で初めて日下部さんの声聞いたし。地味で大人しいし、勉強してる以外の印象ない”

「だろうな。予想通りすぎて、逆につまらん」


 悪魔さんはそのプリントを覗き込んで、そう毒ついた。

 これが、藤崎くんの本音?

 今まで熱を持っていた心臓が、急に冷たくなった気がした。今まで心の中ではしゃいでた自分がバカみたいだ。


「どうした? 二日間の付き合いである俺であっても、藤崎の本音は予想通りだ。本当はお前だって分かっていたんだろ?」

 “分かっていても、本当にそうなんだって改めて分かると、つらい”


 私はシャーペンを手に取り、プリントの隅にそう書いた。大事にとっておこうと思ったけど、これじゃあ台無しだ。家に帰ったら、真っ先に捨てよう。

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