表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔とぼっちの七日間  作者: 百円
第五章
20/23

第19話

「ただいまー、悪魔さん」


 ヒナタは頬が緩みきった顔でドアを開けた。そして俺様の顔を見ずに、ベッドに直行してダイブする。俺様がどんな思いで何時間も痛みに耐えてきたかもしらないで、ヒナタは「ふふふ」なんて笑い声を漏らしている。藤崎とのデートは上手くいったらしい。めでたいことだ、俺様の気も知らないで。今まではこんな笑顔を見ていると、俺様まで幸せになっていたのに、今は何だか無性に腹が立つ。自惚れ悪魔の警告のせいだろう。びりびりと流れる電流が、今までと違って強く俺様の頭を締め付け、理性を蝕んでくる。

 ヒナタは、「キャー」とか「へへへ」とか変な声を上げながらベッドをごろごろした後、起き上がって、壁に寄りかかったまま、一言も発していない俺様のところへ近寄ってくる。


「悪魔さん、見て見て! これ、藤崎くんにプレゼントしてもらったんだあ。幸福のお守りだってー」


 ヒナタは首元に何かを付けている。四葉のクローバーを象ったいかにも安っぽそうなペンダントだった。


「悪魔さんがどんなに私を不幸にしようとしても、きっとこのペンダントが守ってくれるよ」


 さっと、冷たいものが心を撫でたようだった。


 ――そんな安っぽいペンダント程度で、俺様がくたばるだと?


 何だ、この感触は。理性がどんどん剥れて、本性が剥き出しになっていく。

 違う、ヒナタはそんなつもりで言っているんじゃない。俺様の心のどこかで叫んでいる声がした。だが、その声も、がんがんと容赦なく締め付ける頭痛が揉み消していく。


 ――俺様は、悪魔だ。ヒナタを不幸にするのが使命だ。どうすれば、ヒナタは不幸になる?


「ヒナタは、俺様のことが好きなのか?」

「え? ど、どうしたの、いきなりー」


 ヒナタは頬を赤らめ、目をぱちぱちさせる。少しだけ視線を宙に彷徨わせた後、はにかみながら言った。


「うん、大好き、だよ? どうしたの?」


 俺様は、ヒナタの首につけたペンダントを無理矢理奪い取る。ヒナタは突然のことでびっくりしたのだろう。小さく悲鳴を上げて、目を瞑った。その間に、俺様は窓を開けて、手の中にあるペンダントを思いっきり外へ放り投げた。ひどい頭痛でさっきまで立ち上がるのも苦しかったにも関わらず、今は体が軽い。


「俺様はヒナタがだいっきらいだ!」


 思わず、口をついて出た。そんなこと、全く思っていないのに。

 ヒナタは、びっくりしたように固まっていた。ぷつりと、今まで流れていた電流が嘘のように無くなって、頭がくらくらした。それでも、どくん、どくん、と煩いほどに心臓が高鳴っている。悪魔の血だ。直感的にそう思った。悪魔は、人間を不幸にするために存在している。だからこそ、悪魔の本能は、人間を不幸にすることなど、全く厭わないのだろう。今ならば、魂だって喰えるんじゃないのか。

 それが例え、とても大切に思っている存在だとしても。

 そう思った瞬間、急に理性が戻ってきた。俺様が俺様でないような感覚がして、急に恐ろしくなる。


 ――「お前が正気に戻っていると願ってるよ」


 自惚れ悪魔の言っていたことを思い出す。これが、俺様の“正気”なのか?

 ヒナタは唇を噛んで、そのまま、部屋を出て行ってしまった。しばらくして、玄関のドアが開き、乱暴に閉まる音がする。俺様が投げ捨てたペンダントを取りに行ったのだろう。ここは二階だ。しかも、俺様が投げたところは空き地になっており、伸びきった草が無造作に生えている。空は灰色で重々しい雲に覆われており、薄暗い。こんな状態で、あの小さなペンダントを見つけるのは難しいだろう。窓越しに、ヒナタが空き地に足を踏み入れているのが見えた。


「すまん、ヒナタ」


 消え入りそうな小さな声だった。こんな声が、外にいるヒナタに届くわけがない。これで、不幸度がどれぐらい戻せただろうか。大好きな藤崎のプレゼントを投げ捨てて、大嫌いだと言った。

 きっと、まだ、全然戻せてない。ヒナタはひとりぼっちだったのに、人見知りを克服して友達ができたし、想い人の藤崎にも告白をしてデートをした。惨めったらしい最初と比べて、今のヒナタは自分自身に対して自信を持って、毎日を楽しんでいる。明らかに、俺様はヒナタを幸せにしている。

 ヒナタは草をかき分けながら、ペンダントを探している。黒魔術でペンダントを出してやろうかと思ったが、そんなことをしては、俺様のさっきの行動の意味が無くなってしまう。それに、また、ヒナタの不幸度を戻せるかどうかも自信がない。俺様は本能に頼らなければヒナタを不幸に出来ないほど、愚か者になってしまったのだ。

 ヒナタは、ちっとも悪くない。これは、俺様が俺様自身を守るためにやったことだ。いっそのこと、ヒナタも俺様のことを大嫌いになってしまえばいい。大好きだなんて言われた後に不幸にするのは心が痛むからな。

 当たり前だが、今はちっとも電流が流れていない。だんだん体がだるくなり、視界がぼやけてくる。これが眠気、というやつなのだろうか。悪魔は睡眠など本来はとる必要がないのだが、極度のストレスを与えられると眠くなるらしい。しばらくして、ぷつり、と意識が途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ