第15話
何だか、最近、俺様は変だ。ちっとも、ヒナタを不幸にできていない。不幸にしようとしても、全部裏目に出てしまっている気がしる。しかも昨日はむしろ、ヒナタを幸せにするようなことをしてしまった。夕日を見せたり、ヒナタの怪我を治したり、思い出すだけでも、なんて愚かなことをしているんだと、むしゃくしゃする。
昨日は、ヒナタの父親の写真集に載っていた綺麗な景色を存分に堪能した。どれも魔界にはない景色ばかりだった。だが、その景色を見ていると、綺麗だ、と思うと同時に、ヒナタと一緒に見たい、という気持ちになったのだ。怒らせたり悲しませたりばかりじゃなくて、ヒナタを笑わせてやりたいって思ったのだ。ヒナタの笑顔を見ると、俺様は電流が流れて頭が痛くなるが、でも、すごく幸せな気持ちになる。本当に何をやっているんだ、俺様は。
今日は、昨日みたいにヒナタに甘くなってはいけない。心を鬼にしないと。
「あ、悪魔さん」
制服に着替えを終わったヒナタは、俺様に話しかける。
「何だ」
ヒナタはなかなか言い出さない。視線を泳がせながら、なんだか、言うことを躊躇っているように見える。
「何だ、早く言え」
俺様が急かすと、決心したように、息を吸って、言った。
「今日は、とり憑かないで、欲しいの」
ヒナタは唇を噛んで、少し恥ずかしそうだ。残念だが、俺様は今日は心を鬼にするデーだと、今さっき決めたのだ。ヒナタの要望に応えるわけにはいかない。
「悪いが、それは出来ねえ。今日もヒナタは俺様にとり憑かれて、大声で挨拶をして大恥を――」
「それじゃ、意味ない!」
ヒナタは俺様の言葉を遮って、真っ直ぐ俺様を見た。真っ直ぐで、強い目だ。
「悪魔さんにとり憑かれずに、ちゃんと、自分で挨拶したいの」
俺様は目をぱちくりした。予想外の提案だ。もしかして、そう言っておいて、実際は挨拶をしないって魂胆か? いやいや、ヒナタは俺様を騙そうとするヤツじゃない。それに、そんなことをしたら、俺様が倍返しするってことも、ヒナタは分かっているはずだ。
「意味が分からん。どうして自分から恥をかくようなことをするんだ」
「変わりたいの。私、気づいたんだ。悪魔さんと出会う前まで、友達が欲しいって思っても、自分から人に話しかけようとしたこと、一回も無かった。変わりたいって思ってるだけで、行動には、一回も出してなかった。今は、お母さんに本当のことを言えるようになったり、藤崎くんと友達になれたりしてるけど、それは悪魔さんの力だから。ちゃんと、自分で変わりたいの」
ヒナタの目は、凛として、芯の強さがあった。変わることから逃げるな。そう言ったのは俺様だが、ヒナタは、今、変わることに立ち向かっている。人見知りのヒナタのことだ。人前で俺様の力を借りずに挨拶することが、どれほど緊張するのか、俺様でも想像がつく。前言撤回だ。ヒナタが勇気をふりしぼってやろうとしていることを、邪魔したくない。
「分かった。だが、大きな声だ。俺様に負けないぐらいにな。もし出来なかったら、とり憑いて、みんなの前で裸踊りだ。いいな?」
そのぐらいはしなければ、悪魔としての威厳が無さ過ぎる。ヒナタは「う」と思わず言葉に詰まったが、少し考えてから、こくりと頷いた。




