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悪魔とぼっちの七日間  作者: 百円
プロローグ
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プロローグ

プロローグ、エピローグを含めると、全23話です。

ちなみに、この話の悪魔には、モデルが居ます。もし知っている方は、もっと楽しめるかもしれないですね。

 俺様は悪魔だ。今日は、悪魔見習い学校の卒業試験として、初めて人間界へ降り立つ記念すべき日だ。まだ夏の日差しが残っている日本は、雲ひとつない快晴。これほどすっきりとした快晴なら、さぞ、人間どもも清清しい朝を迎えていることだろう。


「だが、この俺様が、いきなり現れる夕立の如く、人間を奈落の底に突き落としてやるのだ! ハッハッハ!」

「突き落とせればいいけどね、バカ悪魔さん」


 不愉快極まりない声。十万三十三歳である俺様は聞き飽きるぐらいに聞いてきた声だが、何度聞いても鳥肌が立つほど不愉快になる。ちらりと声のする方へ視線を移すと、また見飽きるぐらいに見てきた姿が目に入った。俺様と同じフードつきの見習い服を身に纏い、人間に化けた顔の額には「666」の文字が刻まれている。化けた顔も整っているから尚更タチが悪い。


「出たな、自惚れ悪魔」

「お褒めに預かり光栄です。バカ悪魔」

「褒めてねえ。あとバカって言うな」

「じゃあ、落ちこぼれ悪魔?」

「もっと嫌だ!」


 にっこりと嫌味なまでに爽やかな笑顔を浮かべる通称「自惚れ悪魔」は、俺様と同期の見習い悪魔だ。俺様たち見習いは、まだ名前がない。だから、俺様はこいつを自惚れ悪魔と呼んでいる。見習い学校で落ちこぼれだった俺様と違って、いつも成績トップの悪魔だ。だが、そのことを必要以上に俺様に自慢してくる自惚れ野郎で、十万年間ずっとともに時間を過ごした幼馴染でもある。


「ところで、君はどんな人間を獲物に選んだの?」

「日本の女子高生だ。見た目からして不幸オーラを纏っていたからな。すぐ決めた」


 名前は日下部ヒナタ。黒魔術で人間界を覗いていたときに、俺様の目に真っ先に留まってしまった可哀想な人間だ。顔は長い髪が邪魔でよく見えなかった。ひなたどころか、猫背気味の背からきのこが生えてきそうな地味女だったことを覚えている。見習い学校では、俺様たち悪魔がとり憑くべき人間は、いかにもとり憑いてくださいと言わんばかりのオーラを放っていると聞いていたが、まさにその通りの女だった。


「あ、一緒だ。僕も日本人を獲物に決めたんだよ。僕はいかにも性格が悪そうな政治家にしたけどね。不幸にさせ甲斐があるし」

「お前らしいな」


 俺様がそう言うと、自惚れ悪魔は嬉しそうにニコニコしだしたから「褒めてないけどな」と付け加えておいた。

 期限は一週間。自分達が見つけた獲物をとことん不幸にしちまうってのが、俺様の卒業試験の課題だ。これをクリアできれば、俺様は一人前の悪魔として名前を与えられ、不死の力と強大な魔力を手に入れることが出来る。とはいえ、この課題をクリアできない悪魔などいない。もし間違えて獲物を幸福にしてしまっても、その魂を喰っちまえばいい。ただ、そんなことはどの悪魔にも出来てしまうから、いざ悪魔になったって、強大な魔力など貰えない。つまり、この試験では自分のステータスが決まるというわけだ。


「まあ、バカ悪魔さんのことだから、きっと、この試験が終わったって、ろくな悪魔になんかなれやしないだろうね」

「何だと! この俺様はな、獲物を不幸のどん底まで叩き落し、その魂を喰ってやるのさ!」

「奇遇だね。僕もそうしようと思ってたんだ。絶望に突き落とされた人間の魂は、この上もなく美味いらしいし」


 余裕の笑みを浮かべる自惚れ悪魔に、俺様は、ふん、と鼻を鳴らした。


「自惚れ悪魔は頭は天下一品かもしれないが、実技の方はどうなんだろうな。案外、最終試験では俺様がトップで、お前は落ちこぼれ、なんて結果も有り得るぞ」


 自惚れ悪魔は、ははっと爽やかに笑った。その爽やかさは相変わらず俺様の神経を逆撫でする。


「有り得ないね。じゃあ、勝負してみる? どれだけ人間を不幸に出来るか」

「望むところだ! 後で泣いたって知らねーからな!」

「それはこっちのセリフなんだけどなァ」


 ギリ、と歯軋りをしながら、このムカつく爽やか笑顔が、俺様に負けた悔しさで歪むのを想像する。いや、想像じゃない。これは、予知だ。俺様は愚かな人間を思いっきり不幸にして、その魂を味わい尽くし、生温い不幸しか与えられなかった自惚れ悪魔は悔しさで涙を流すのだ。

 俺様はこれから降り立つ人間界を見下ろし、乾いた唇を舌で舐めて潤した。

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