3話
気がつくと草の生えた地面に転がっていた。
俺がここに転がっている原因が、セトリだと分かっていたから
命の危険はないだろうと判断する。
辺りを見回しても、セトリの姿がない事から探しに行く事に決める。
何がいるか分からないので、愛用の剣を抜こうとして腰に剣がないのに気がつき
落ちていないかと見渡すが落ちていない。そこで、自分の服装も変わっている事に気がついた。
「どうなってんだ……」
とりあえずセトリを見つけない事には、先に進まないと思い
歩き出す。暫くすると、少し開けた場所から妙な声が聞こえてくる。
「にゃ……にゃ……ひっく……にゃ……」
泣いているような感じだが、泣き声にしてはおかしい。
気配を殺し、ゆっくりと近づき座り込んでいる何かを見つけた。
頭の上に猫のような耳をつけ、お尻のほうには猫のような尻尾が揺れている。
このような妙な生き物は見た事がない。困惑しながらもゆっくりと距離を縮めた。
その妙な生き物は、俺の気配に気がつくことなく両手を地面につけて
やはり妙な声で泣いているのだった。
「にゃ……にゃんで……」
しかし……何処かで聞いた事があるような声だ……。
座り込んでいる何かとの距離を
4歩ぐらい開けた位置で、警戒しながら声をかける。
「おい、ここで何をしている?」
いきなり声をかけたからか、予想以上に驚いて飛び跳ねて立ち上がり
警戒する様子を見せながら、こちらを振り向いた生き物の顔を見た瞬間
俺は言葉を失い……ただ、その妙な生き物を凝視した……。
「にゃ……にゃ……リディにゃ! うわーん、リディ~」
大泣きしながら、俺に駆け寄りしがみつくリトリ……。
抱きつかれて動揺する俺……。
今のリトリは、太ももを露にした短いパンツを身に着け
上半身は、シャツの裾を胸を強調するように縛っていた。
シャツの襟は、谷間が分かるほど開いている。
硬直する俺に、リトリは容赦なくしがみつく。
「おい……リトリ……。ちょっと離れろ」
「いやにゃ!」
「てか……お前、妙なものでも食ったんじゃないだろうな」
「食べてないにゃ!」
本人は真面目に話しているんだろうが……。
にゃぁにゃぁ言うリトリに、思わず噴出して笑いそうになってしまう。
耳と尻尾はリトリの感情と繋がっているのか、耳は極限まで寝ているし
尻尾は下がっている。
男を煽る衣装と、嗜虐性を擽る姿に理性が飛びそうになるが
リトリがいると言う事は、絶対近くにセトリもいるだろう。
「とりあえず、泣きやめ。そして離せ」
「いやにゃ~。離したら消えそうにゃ」
「消えねえから離せって……」
俺の理性がやばい。
「本当に消えないにゃ?」
涙をためながら上目遣いに俺を見るリトリに
めまいがするが、腹に力を入れて耐える。
「ああ」
やっと俺を離したリトリから、すかさず距離をとる。
「なんでにげるにゃ!?」
「逃げてないだろ。
で? リトリはここで何をしてたんだ?」
「わからないにゃ」
「わからない?」
「おにぃに、何か貰ったと思ったらここにいたにゃ……。
頭の上ににゃんこの耳がついてるし……尻尾まであったにゃ」
「で、吃驚して泣いてたと?」
「そうにゃ」
「全てはセトリの責任ってことだな」
「おにぃが悪いにゃ!」
尻尾をフルフルとさせるリトリ。
怒っているようだが、怒っているように見えない。
歩いていれば、セトリを見つける事ができるだろうと考えていたが
リトリと2人きりは色々と自信がないために、魔法で探す事に決める。
しかし、魔法を起動しようとするが起動しない。
何度やっても結果は同じで、魔法が起動しなかった。
「なぜ魔法が使えない?」
首を傾げる俺に、リトリが告げる。
「魔力がないにゃ」
「……」
「リディの体の中に、魔力がないにゃ」
「はぁ!?」
「私も試したにゃ。でも使えなかったにゃ……」
リトリに言われ、俺の中の魔力を感知しようと試みるが
捉えることができなかった……。
「いったいどうなってんだ」
困り果てている俺を、リトリがじっと凝視している。
「どうした? 何かいい案が浮かんだか?」
「リディいつもと感じが違うにゃ。
かっこいいにゃ~」
そう言って頬を染めるリトリ。
全く関係ない話題に、呆れながらも俺も思ったことを口にする。
「そういうお前は、扇情的だな」
「扇情的にゃ?」
「ああ」
「どこがにゃ?」
「お前……自分の服装を見てみろ」
「服にゃ?」
そう言って、自分の服を見たリトリ。
「足にゃ? お腹……にゃ……。む……。」
「……」
見る見る間に全身赤くなっていく。
「ぎにゃーーーーーーーーーぁ!!!!!」
そして、それは凄まじい叫び声がこだました。
俺はとっさに、両手で耳を塞ぐ。
リトリは、両腕で腹を隠すようにしゃがみこんで震えていた。
「なんでこんな変な服を着てるにゃ!」
真っ赤になって俺を追及するリトリに、俺は肩をすくめる。
「俺が知ってるわけがないだろう?」
「おにぃにゃ……おにぃのせいにゃ……」
羞恥で目に涙をためながら、セトリに恨みの言葉を吐いていた。
「なんだ、なにがあった。
ここら辺はまだ、何もいないだろう」
リトリの叫び声に反応してきたのか、セトリが俺たちの前に姿を見せる。
リトリはセトリを目に入れた瞬間立ち上がり、胸倉をつかんで揺さぶった。
「おにぃ! これはなんにゃ! ちゃんとはなせにゃいわ!
変な耳はついてるにゃ! この変な服を着せたのは、おにぃにゃ!?」
言いたい事は分かるが、ちゃんと文章になっていない。
「2人とも似合っているな。さすが俺様」
ちっとも、リトリの話を聞いていないセトリに
リトリは、顔を真っ赤にして怒りまくっている。
「お前の言葉は、カケルが細工したものだ。
俺様には理解できないが、モエというものらしい」
「元に戻すにゃ!!」
「戻してもいいが、リトリは外で待っているんだな?
俺様は、リディルと暫くここにいるぞ?」
リトリはチラッと俺のほうを見て、セトリに着替えを要求した。
「……服だけでも着替えたいにゃ」
「無理だ。ここは俺様が作った空間で
本体が着替えても、ここでは関係がないからな」
「どういうことだ?」
リトリが、セトリの部屋で寝ていた事に関係があるんだろうが……。
「俺様が、アオイの世界に行っていたということは話したな?
その世界では、架空の世界を作りそこで生活をするような娯楽があってな。
カケルがそれで遊んでいたんだが、俺様にも遊ばせてくれたわけだ。
それが中々面白くて、こちらに戻ってから魔法で作り出せないかと試行錯誤した結果
完成したわけだ。まだ中身は空っぽだが」
「いや、俺はお前の言ってる事がわからねぇ」
「簡単に言えば、物語のような世界を実際に作り
その中で生活して楽しむ遊びだ」
「例えば何をするんだ?」
「アオイの世界では魔獣といっていたが、それを倒して経験をつみ
強くなっていく事が目的らしい」
「魔獣とはなんだ」
「こちらの世界で言い換えるならば、狂魔だな」
「……カケルの世界にも居るのか」
狂魔とは、闇に心を喰われた獣が凶暴化したものをいう。
「居ないぞ。言っただろう。架空の世界だと」
「カケルの世界に、魔法はないんだろう?」
「ああない。だが、それに変わるものがある」
「どんなものだ?」
「俺様も詳しくはしらない。カケルも仕組みはしらないといっていた。
ただ、遊ぶ為の道具だと言っていたからな」
「よく分からないな……」
「そこは深く気にすることもないだろう」
「ふーん。で? 強くなってどうする?」
「人間の物語にあるように、魔王を倒す」
「へぇ……」
陛下を倒すと聞いて、俺の心に不快な気持ちが沸き上がる。
「おい、勘違いするな。この世界の魔王のことではない。
カケルの世界の魔王だ」
「カケルの世界にも、魔王がいるのか?」
「いやいない」
「……。居ないものをどうやって倒すんだ?」
「だから、カケルの世界にはいないが
遊ぶ為の世界の中に、魔王という役割の人形を作って動かし
それを倒す為の遊びと考えればいい」
「何が楽しい? お前の話を聞いていると
本当は居ない狂魔を作り出し、敵である魔王を作り
わざわざ苦労しているようにしか思えないが?」
「遊びだといっただろう。
自分達が物語の主人公になり、役割を演じる遊びだ」
「へぇ……。ようは、子供達がやっている
人間を倒す騎士のような役割を、本格的にしたようなものか」
「そうだ。そのような感じだ。
その役割が多岐に渡って作られている。
物語りも1つではなく、選択肢によっては様々方へと分岐するようにできている」
「大人の危険な遊びってか」
「いや、危険じゃないぞ」
「狂魔と戦うんだろう?」
「自分の肉体を使うわけじゃないからな」
「どういう意味だ」
「俺様の部屋でリトリが寝ていたよな」
「ああ」
「しかし、ここに居るリトリは先程見たリトリとは違うだろう?」
「違うな……」
「肉体から意識を切り離し、意識だけをこの空間に呼び寄せると言ったら分かるか?」
「……危険はないのかよ」
「俺様が危険なものに、リトリを巻き込むわけがなかろう」
「……」
「……」
セトリの言葉に、大いに反論したいところだが
話が先に進まなくなりそうなので、止める。
「肉体と意識を切り離し、意識を自分の分身となる別の物に入れ
仮の肉体で、遊び……カケルの世界ではゲームと言うらしいが
ゲームを楽しむと言う事だ」
だから、俺の武器も魔力もなかったんだなと一部納得する。
「不思議な遊びがあるんだな」
「ああ。とても興味深い。
これは使えると思い、早速作ってみたわけだ」
「で、俺の仮の肉体がこれと言う事か」
「そうだ」
俺は先程から気になっていたことを、セトリに尋ねる。
「カケルの世界には、今のリトリの姿のようなものが居るのか?」
「いや、この姿は想像で作られたものらしい」
「リトリの衣装もか?」
「その衣装は、カケルの世界では普段着だ」
「はぁ?」
この露出の多い服と呼べない代物が普段着?
「もっと露出の高い服を着て歩いている女も居たぞ」
「すごい世界だな」
「ああ。俺達の世界とは違うな」
頭の中で、セトリの話したことを簡単に纏めその意味を飲み込む。
理解できない事の方が多かったが、聞いても結局は分からないだろうから
そういうものだと理解する。
「結論を言えば、俺たちはお前の創ったこの世界に招待されたって言う事か……」
「そうだ。カケルとアオイも手伝ったがな」
「あの2人が来てるのか?」
「ああ。今は疲れて寝ている」
セトリはその顔に、あくどい笑みを浮かべていた。
どうやら、2人はこれを創る為にこき使われたようだ。
「珍しい体験ができるんだ、喜べ」
「喜べないにゃ。おにぃの変態!」
「……」
「こんな衣装を着せるなんて、変態にゃ!」
「俺様が変態だというのなら、その姿に欲情していた
リディルは、俺様よりも変態ということだな」
「お前っ!」
「本当の事だろう?」
こいつ………。
「……」
じっととした視線を俺とセトリに向けるリトリ。
「まぁ、リトがいやだと言うのなら部屋に戻してやる」
セトリの言葉に、即答するリトリ。
「……ここに居るにゃ」
「そうだろな。リディルの格好はお前の好みど真ん中だろう?」
口角を持ち上げ、リトリをからかう様に笑うセトリに
リトリが、頬を染めながらセトリから視線を外した。
「それに、リトリの格好はリディルの……」
「黙れ」
少しの殺気をこめてセトリの言葉を止めた。
リトリは、首を傾げ数回瞬きするとセトリの頭の先から
足の先までゆっくりと視線を動かす。
「おにぃの格好も、アオイちゃんの世界の服にゃ?」
リトリにつられて、俺もセトリの姿を凝視する。
「いや、俺様とリディルはアオイの世界にとっては架空のものだな」
「リディは私の好きな物語の、剣士の格好に似てるにゃ」
「向こうの世界でもそんなものだ」
「おにぃの格好はなんにゃ?」
今のセトリの姿は、頭の上に厳つい角がついており背中には真っ黒な羽があり
そして体には、黒く重厚感のある鎧を纏っていた。
「俺様の姿は、アオイの世界の魔王だ」
「……」
「アオイちゃんの世界の魔王は、強そうにゃ」
リトリ……それは、陛下が弱そうに見えると言っているようなものだ。
確かに、見た目的にはアオイの世界の魔王のほうが強そうではあ……る。
と考えた瞬間、背中に嫌な視線を感じた気がして背筋が伸びる。
思わず辺りを見るが、誰かが居る様子はない。
「アオイの世界の、最強の悪役であり黒幕という考えから
作り出したモノのようだからな、強そうに見えて当たり前だろう」
「俺達が読んだ、物語の魔王を作ればそんな感じなるんだろうな」
子供のころに読んだ本を思い出しながら、セトリの姿を眺めた。
「ふーん。陛下とどちらが強いかにゃ?」
「この世界の魔王だ」
「陛下だ」
セトリと俺が同時に同じ答えをリトリに告げる。
「やっぱりにゃ」
実際には居ないらしいから、強さを競う事などできないだろうが
例えどの世界の魔王であっても、陛下が一番強いに決まっている。
リトリもなんとなく聞いてみただけのようだった。
読んでいただきありがとうございました。