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2話

 陛下に拾われてからそろそろ4年になる。

今の俺は、陛下直属の騎士になっていた。あの時のことをぼんやりと思い出しながら

俺はセトリの家の前にたった。10日前から姿を見せない親友に少々呆れながら

家の戸を少し乱暴に叩き声をかける。


「セトリ! おい! いるんだろう!」


すると開いたのは玄関ではなく、2階の窓だ。


「ああいるぞ。俺様に何のようだ」


あの日から、家族とサシャを殺された日からセトリが立ち直るまで

3年と半年がかかった。俺が魔族に落ちたということもセトリを苦しめる原因だったのかもしれない。

しかし……。


しかしだ。

立ち直ってからのセトリは、依然のセトリとはまったく違う人間になっていた……。

誰にでも優しく、礼儀正しく、穏やかだったセトリ。

魔法騎士の中の騎士といわれるほど、騎士としての誇りを大切にしていたはずだ。

間違っても、俺様などと言う人間ではなかったはずである。


「お前! 俺の仕事を手伝う約束はどうした!」


「そうだったか?

 悪いな。出かけていた」


「どこに行ってたんだよ?」


(アオイ)の世界へ行っていた」


返ってきた返事に俺は呆然とする。

アオイ、セトリを立ち直らせた女性。しかし彼女と彼女の弟はこの世界の人間ではなく

セトリを殺す為に召喚された違う世界の人間だった。


自分の世界に戻る為には、セトリを殺せといわれたらしいが

自分の命に興味のなかったセトリ。抵抗することなくカケルに殺されようとしていたが

アオイがカケルを止めた。元の世界への帰還とセトリの命を天秤にかけ

セトリの命をとったのだ。


姉を守るために、必死にこの世界で生きてきたカケルも

本当は殺す事などしたくなかったはずだ。

唯……2人で自分達の世界へ帰る為に、その剣をとった。


傷だらけのセトリに、アオイが手を伸ばし怪我を治す。

彼女は光属性の魔法が使え、病や傷などを癒す力を持っていた。

以前は、セトリも光の属性を持っていたが……あの日から光属性だけは使う事ができなくなった。

その代わり、光属性以外の魔法の威力は陛下の次に強い。


闇が光を喰ったから、光属性が使えなくなったのだと陛下が教えてくれた。

大体あれで生き残る事が奇跡に近いと、面白いと笑っていたが……。

当事者の俺は、到底笑える話ではなかった。


アオイが傷を治し、セトリが恨めしげにアオイと瞳を重ねた瞬間。

セトリの頭の螺子が緩んでいたのか、それとも良心や常識と言うものも一緒に

闇に喰わせてやったのか……何がどうなったのかわからないのだが


セトリがアオイに口付けた……。


その光景に呆然とする俺。

剣を取り落としたカケル。

面白いなっと笑う陛下。


成すままにされているアオイ。


結果から言えば、セトリの時間の歯車を動かしてくれたアオイには感謝している。

カケルが別の意味で、セトリを殺そうと躍起になったのは言うまでもないが……。


傷だらけのセトリを前に、俺は何をしていたのかと問われると

面白い余興だと見物している陛下の横に立っていた。手を出すなと命令されれば

見ている事しかできない。しかし、アオイにセトリは殺せないと陛下は知っていたようだ。


俺の疑問に陛下が答えた。


「ああ、あの子はサシャの生まれ変わりだからね。

 時間軸の異なる世界に生まれてしまったけど、セトリに逢いたくて来たんだ

 セトリを殺すわけがないよね。まぁ、カケルは巻き込まれただけなのが

 気の毒と言えば気の毒だけど」


全くカケルに対して、気の毒だとは思っていない表情で語る陛下。

その後、様々な事があったがセトリがアオイ達を元の世界へ戻す為の魔法を完成させる。

嫌だと泣くアオイの背を押し「お前の世界はここではない」と言って帰したはずなのに……。


(カケル)も元気だったぞ。

 会ったとたん、俺様を殴ろうとする度胸は感服した」


絶対、感服したなどとは思っていない事はその表情から分かる。

しかし世界を超えたと言うのに、平然と隣の家に行ってきましたという感覚で話す

こいつが俺には理解できない。


「お前、アオイを無理やり帰しておきながらどういうことだ」


俺の言葉に、不敵な笑みを浮かべ言い切るセトリ。


「俺様が、アオイを手放すわけがない。

 アオイがあのままここにいても、向こうの世界の事を思い出し

 未練が残るのは目に見えていた。だから一度帰しただけだ。

 一度道を開いてしまえば、安定させる時間が必要なだけだったしな。

 それに、アオイを娶るためには両親の許可が必要だろう?」


セトリがアオイに求婚したとき、カケルがアオイの世界では婚姻を結ぶのに

両親の許可が必要だと言ったのだ。カケルにしてみれば、セトリが自分達の世界に

来るなどとは間違っても思わなかっただろう……。

その前に、帰れるとは思っていなかっただろうが……どこまでも、不憫なやつだ。


セトリの腹黒い行動に、俺はため息を落とす。


「お前、戻ってこれなくなったらどうするつもりだ

 リトリが悲しむとは思わないのか」


「リディル。俺様はそんなヘマはしない」


「……」


「大体、俺様が少し留守にしてもリトリにはお前がいる。

 何も心配はしていない」


そういうことじゃないだろう!


「それに、もう道は完成した。

 これでいつでもアオイを呼び寄せる事ができる」


セトリの満足したような笑いに、俺はアオイに同情する。

アオイはサシャの時の記憶はないが……記憶があれば、きっとセトリを選ばないだろう。

いや……選ぶ……のか? 記憶がないのに、セトリを求め世界を超えてきたのだから。


「んで? お前は10日も向こうにいたわけ?」


「いや。いたのは4日だ。安全の確認

 後はアオイの両親に許可をもらう事が目的だったからな」


「……許可はもらえたのか?」


「俺様を誰だと思っている」


「……」


もう何も言うまい。


「向こうの世界は、どうだったんだ?」


違う世界と言うものが、俺には想像がつかない。

アオイやカケルの話を聞いてはいたが、正直信じられない事が多かった。


「興味深い世界だ。こことよく似た所はあるが

 魔法が使えない分、それを補う事ができる技術が面白かったな」


「へぇ……不便じゃなかったのかよ?」


「不便だと感じはしなかった。

 アオイとカケルが、平和馬鹿な理由も理解できた。

 国によって多少の違いはあるが、アオイ達が暮らす場所は治安がいい。

 武器を持たずとも、戦う力を持たずとも夜、外を歩けるぐらいな」


「……そうか」


セトリは少しの憧れをその目に宿し、見てきたものを俺に語った。


「お前は、向こうでアオイと暮らすのか?」


俺の真剣な問いに、セトリは目を細めて俺を見た。


「リディル・エインワーズ。俺様は今の生活が気に入っている。

 それに、向こうの世界は血で汚れた者には似つかわしくない場所だ。

 アオイは血で染まった俺を受け入れてくれたが、向こうの国のものは無理だろうな」


「アオイに話したのか」


「ああ。求婚したのだから当然の義務だ」


根本的な所は、変わっていない親友に俺は苦笑した。

そういえば、こいつは生真面目な男だった。


「こことは違う世界か……俺も見てみたいものだ」


「……」


それはかなわぬ夢だ。俺は陛下から離れる事ができない。

陛下の許可がなければ、この国から出る事すらできないのだ。


「お前の変わりに、俺様が見てきて教えてやる」


そう言って口角だけを上げて笑うセトリに、嫌な予感がよぎったのだった。


「土産がある。とりあえず上に来い」


そう言って、窓を閉めてしまうセトリ。

俺は、扉を開けてセトリの家へと入る。そんなに広くはない家だ。

階段を上り、セトリの部屋の扉を開けるとソファーでリトリが眠っていた。


「どうした?」


リトリの体調でも悪いのかとセトリに尋ねるが、俺の問いには答えず

机の上にあったものを俺に投げて渡した。

思わず受け取ってしまったそれを見る暇もなく、俺の意識がストンと落ちたのだった。  




読んでいただきありがとうございました。

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