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俺様な相棒  作者: 緑青・薄浅黄


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1話

 うっそうと木々が生い茂る森の中で、息を殺し追っ手達がこちらに気づかずに

通り過ぎてくれる事を唯願う。本来ならば、十数人の追ってなどに隠れる必要もないが

満身創痍の俺では、傍にいる2人を守れる自身がない。


家族を、婚約者を殺され心を闇に喰わせることで更なる力を得て

友だと思っていた裏切り者と、その兵を皆殺しにした親友セトリとその妹のリトリを見る。


正気と狂気の狭間で、戦っているであろうセトリは苦悶の表情を浮かべながら

横たわっていた。家族を殺される所を見せられていたリトリは

セトリの横で、何の感情もなくただ座っている。


何か言葉をかけたほうがいいのは分かってはいるが

俺も家族を殺され、余裕がなかった。この2人を守ってここまで逃げるだけで精一杯だった。

せめて、セトリの意識がはっきりしていたなら状況はもっと違っていただろうが。


それに……もしセトリが狂気に飲まれたのなら、俺が殺さなければいけない。

意識がはっきりしているリトリの前で、親友のセトリを殺せる自身はなかった。


追っ手が諦める気配はなく、この2人をこれ以上動かす事ができないとなると

俺が囮になるしかない……しかし、俺が殺されればいずれこの2人も死ぬ事になるだろう。

それならば、いっそ俺がここで2人を殺した方が苦しまないのかもしれないと考える。


-……この2人を殺した後、1人でも多くの追っ手を殺す……。


横たわっているセトリの横へ行き、剣をセトリの胸に向ける

後はこの剣を突き刺すだけでいい……。


そう思うが手が震えて動かない。

強く唇をかみ締めたせいか、小さな血の円を地面に描いた。


なぜ俺が、なぜ俺達がこんな目にあわなければいけない。

主に忠誠を誓い、それを裏切った事など一度もない。

友だと思っていたものに嵌められ、俺達は家族も国も失った。


なぜ俺達が……。憎しみは後から後から沸きあがってくる。

なぜ俺達が……! セトリに剣を突きつけながら動けない俺の耳に声が届く。


「殺せ……」


「……」


セトリがうっすらと目を開けて俺を見た。


「殺せ……。殺して逃げろ」


そう言ってまた目を閉じる。

俺は、剣を地面に置いた。俺には殺せない。

狂っていないセトリを俺には殺せない……。


「殺さないの?」


セトリでもリトリでもない声が、俺の後ろから響いた。

声の響きから、とても近くにいるだろう何者かに俺は息を呑む。

気配を全く感じなかったからだ。背中に冷たい汗が流れるのを感じながら

剣を握りなおしゆっくりと振り向いた。


そこに居たのは、俺達とは異なる身体的特徴を持った者達だった。

俺達種族、人は総じて茶色の髪に茶色の瞳だ。それ以外の色は魔族といわれている。

魔族といっても、物語に出てくるような角が生えていたり尻尾が生えていたりはしない。

人と色が違うだけだ。戦闘力は人間の比ではないが……。


数千年前は、人と魔族で争っていたらしいが

何が理由で、争う事をやめたのかは定かではない。

今は、魔族と人の国は一応は良好な関係を結んでいた。


魔族と人の国同士争いはないが、人と人の争いは無くならない。

絶えず何処かで、どこかの国が戦争をしていた。

魔族と争う事がないのは、魔族と同じ戦争をできるだけの力が人間にはないからだ。


しかし、良好な関係を結んでいると言っても仲が良いわけではなく

魔族の領土に人間が入り込むと、問答無用で殺される事が多い。


彼等がここにいるという事は

逃げている間に彼等の領土に踏み込んでしまったのかもしれない。

声をかけられてから、嫌な汗が止まらない。


「ねぇ? 殺さないの?」


俺を見て首をかしげている青年は、銀の髪に金の瞳を持っていた。

その瞳の色があらわすのは……魔族の王である魔王しかいない。

なぜ魔王がこんな所にと、俺は声を上げそうなのを必死にこらえていた。


「……」


俺とセトリとリトリに視線をやり、何か呟いた魔王。

そして何かを納得したように頷いた。


「あぁ、あの煩わしい集団は君達を追いかけてるのか。

 でも君、もう戦えそうにないよね。その肩の傷も深い。

 良くここまで持ちこたえたね……。そんなにその2人が大事?」


「大事だ……です」


緊張しながら、相手の機嫌を損ねないように注意して返事をすることを心がける。


「そこの黒い髪の男。それもう駄目だよ。

 狂化一歩手前だ、それ以上待っても苦しむだけだから

 殺して上げなよ」


「……まだ狂ってません」


「時間の問題だよ?」


「……」


「君は大切な友人を苦しませるのが好きなのかい?」


魔王の言葉に、剣の柄をぎゅっと握る。


「まだ……狂ってません」


魔王の言ってる事は正しい……だが、それでも俺は……。


「ここで狂われたら迷惑なんだ。

 君達を探しているやつらもすぐ傍まできているし

 君さ、そいつらと戦いながら狂化した彼を殺せるだけの力はないだろう?」


「……」


「そいつが狂化したら、その子も死ぬよ?」


「……」


矢継ぎ早に言われる事に、俺はただ黙る事しかできない。


「大体、そんな足手まとい捨てていけばいいだろう?

 全て捨ててしまえば、君だけは生き残れる。

 狂いかけている男と、心をなくした女なんて邪魔なだけじゃないかな?」


魔王のこの言葉に俺はとうとう耐えることができなかった。

立ち上がり、渾身の力で魔王に切りつける。

その瞬間でさえ、魔王は笑い微塵も動くことなく俺を魔力でねじ伏せた。


見えない魔力で指一本も動かすことなく地面に押し付けられ、呼吸さえままならない。

目だけを動かし、魔王を睨み付け彼の側近に殺気を放つ。


しかし、魔王の横や後ろに居る魔族達は一歩も動いていなかった。

俺の力など、彼等の前では無力だと……彼等の主に傷をつける事などできないと

確信しているその目に、俺は悔しさを抑え切れなかった。


俺に力があれば……。

俺に力があれば……。

俺に力があれば!!!


家族も、セトリもリトリも……セトリの婚約者のサシャも守れたかもしれない。

俺に力があれば……。セトリが闇に心を喰わせる事もなかったかもしれない。

そして、この状況を覆せたかもしれない……。


追っ手を殺し、ここには踏み込まなかったかもしれない。

無力な自分が悔しくて、自分自身に殺意が沸いた。


「力が欲しいの?」


押さえつけられ動けない俺に、魔王が聞く。


「力が欲しい?」


「……」


「君が望む力を私があげてもいい」


魔王の言葉に、隣にいる騎士が始めて口を開いた。


「陛下」


「君は黙っててくれるかな? 私はこの男と話している」


「……」


「ねぇ? 力が欲しい?

 君達の追っ手を殺せる力が欲しい?

 この男と女を守れる力が欲しい?」


魔王は綺麗な笑みを顔に浮かべているが、その瞳は冷めていた。

俺は、そんな魔王に躊躇することなく力を求める。


「欲しい」


2人を守れる力が……俺達を殺しに来るやつらを殺す力が俺は欲しい。


「素直だね。素直な子は好きだな。

 私は君に力をあげる事ができる。

 だけど、何かを手に入れるにはそれなりの覚悟が必要だけどね」


魔王はどこからか小さな杯を取り出し、それを隣の騎士に持たせ

懐から短剣をとりだし、自分の手のひらを切りつけ杯をその血で満たした。


「私の血を飲めば、人間では到底もつことのできない力を手に入れられる。

 だけど、この血を飲めば君は人間ではなくなるよ。人間ではない君たちの言う魔族

 化け物に変わる。君は人間である事を捨ててまで力を求めるかい?

 君は人間であることを止めてまで、この2人を助けたいと願うのかい?」


「……」


「後は……そうだ。この血を飲めば、君は私に逆らう事はできなくなる。

 一生、私の下僕として働く事になるけれどその事も考慮して決めるんだね」


薄っすらと笑う魔王。


「……」


「今の君の選択肢は4つかな?

 いち、このまま3人で仲良く死ぬ。

 にぃ、君が囮になって彼等を引き離しこの2人を助ける。

 さん、私の血を飲んで私の下僕になり追っ手を殺す。

 よん、この2人を捨てて自分だけ逃げる。

 ああ……私は君がどの選択を選ぼうともこの2人には手を出さないと約束しよう。

 君が4番目を選んでも、私は手を出さない。

 ただ、彼が狂化したら私が殺すけどね。迷惑だから」


俺が選べる選択肢を魔王が丁寧にまとめてくれる。

魔王の言葉を聞きながら、俺は頭を一生懸命動かすが混乱した思考と心では

何が最善かなど分かるわけも無い。分かっているのはこのままでは誰も助からないと言う事だ。


だが、魔王の血を受け入れれば俺は人ではなくなる。

力は手に入るが人では無くなる。そして一生魔王に尽くす事になるだろう。

だが、このままでは俺もそしてセトリもリトリも遅かれ早かれ死んでしまう。

様々な想いが俺の胸を駆け巡る。人間として生んでくれた両親が脳裏に浮かぶ。

人間に裏切られた俺達。憎しみ、悲しみ、苦しみ。


俺は……俺は、どうすればいい……。

悩んでいる俺の耳に、俺達を探している者たちの声が聞こえる。

目を動かせば、苦しんでいるセトリが見える。その横には表情のないリトリ……。


俺は……。俺は……この2人を守りたい。

人であることを捨てても。化け物だと呼ばれても。


「俺は強くなりたい」



「そう」


魔王は目を細めて俺を見た。

ふっと体が軽くなる。魔王が首だけを動かしたのを合図に隣にいる騎士が

俺に杯を渡した。その杯を受け取り満たされている血を凝視する。


俺の震えが振動となって、杯の中の血は微かに揺れていた。

喉が鳴る……。これを飲めば後にはもう戻れない。


だが、これを飲めば……2人を助ける事ができる……。

ゆっくりと杯を口に運ぶ。あと少しというところでセトリが苦しそうに叫んだ。


「やめろ!」


「……セトリ」


「止めろ……! 止めるんだ、リディル。リディル・エインワーズ!」


セトリの声に、魔王が感心したような声をあげる。


「ほう、その状態でまだ正気を保てているのか」


苦しそうなセトリを見て、俺を止めるセトリを見て俺の心は決まる。

俺は一気に杯の中の血を飲み干した。


魔王の血を体に入れた瞬間、俺の体に激痛が走る。

全ての骨を折られているような、神経をひとつひとつ千切られているような

強烈な痛み。凄まじい痛みにのた打ち回り叫び声をあげる。


遠くでセトリの声が聞こえた……。

駄目だ……叫ぶな。声を出すな。俺は痛みで震える手ですぐ傍の枝をつかみ

口の中にいれ歯を食い縛る。体を完全に作り変えようとしている痛みに気が遠くなりかけるが

痛みで意識を引き戻される。そんな状態がどれだけ続いたのか俺にはわからない。


まだ少し体に痛みは残るが、我慢できないほどの痛みではなくなったころ。

俺の意識がはっきりとしてくる。陛下と陛下の騎士達はずっと俺を見ていたようだ。


「珍しい、生き残ったようだね。

 おめでとう。これで君は今日から魔族だ」


陛下の言葉に、俺はゆっくりと体を起こし膝を突き頭を下げた。

陛下は自分の剣を抜くと、剣を俺の喉元に向けゆっくりと俺の顔を上げさせた。


「中々いい色になったね。その色味は綺麗だと思うよ」


俺の髪の色と瞳の色が変わったと言う事だろう。


「ああ、自分では見えないか。

 髪の色は白色。瞳の色は、血の色に似た赤色だね」


俺は自分の手で髪を触ってみるが、触った感じではどこが変わったのかはわからない。


「まぁ、後でゆっくり確認するといいよ。

 人間でいたころより、体が軽いだろう? そろそろ動けるよね?」


「はい」


陛下が剣を鞘に戻し、短く俺に告げた。

その目は冷たい光を帯びている。


「私の領土を荒らす人間を殺せ」


俺は、立ち上がり陛下に深く頭を下げ顔を真直ぐ上げる。

そして、セトリとリトリを見た。


「あの2人、私が守ってやろう。

 だから、君は思う存分暴れておいで。

 ちゃんと全員殺して来るんだよ?」


「御意」


人のときに使っていた剣を握り。

ゆっくり、追っ手へと向かって歩く。


その時、俺の目から雫が落ちた。それが痛みをこらえていたときのものか……。

それとも別の何かから来るものなのかは、俺にも分からなかった。

読んでいただきありがとうございました。

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