『Story4』光の手によって生みだされる闇
不思議な闇を放つ光、涼一は自分が日頃何気なく利用して来た
あらゆるものの原点が、孝之の手によって生み出されて来た
事を知らされる。そして再び確信に迫ろうとした時、孝之から
話を逸らされあの空間零移動の法則について逆に問われてしまう。
そんな孝之の行動に涼一自身の何もかもを計算されつくしている様
に思え、ただ彼は押し黙るしか出来なくなってしまった。
「そろそろ本題に入ろう」
「はいっ」
そう言って今から何が起こるのか不安に見詰める涼一。
そこへ孝之が一本の剣を柄を取りだした。
「それは?」
その質問になにも答えないまま孝之は剣の横に
あるスイッチを押した。
「こっこれは!」
「そうだよ。今この時代には当たり前に使われて
いるものだよ」
「これをあなたが作ったのですか?」
「あぁそうさ」
それは空気中に黒い光を真直ぐに放つ剣。
従来映画の世界観でもあっただろう光の剣
とは全く逆の発想だ。
まさしくそれは闇の剣だ!
しかしここからが違っているのだ。
普通の闇の剣とは全く異なった性質を持っている。
一般的に光は、透過と反射、そして吸収する性質
を持っている。
その大部分は色によって異なっている。
黒や青緑の様な暗い色になる程、通常熱や光を吸収
する性質を持っている。一方明るい色は反射し熱を放出
すると言う逆の性質を持っているのだ。
しかし彼が見付けた光とは、一見闇に見えるが全て
を跳ね返す性質を持っている。
つまり明るい色とある意味同じ性質を持った異
なった性質の光を生み出し、光と闇の反発エネルギー
を利用する事によって開閉を作る事が出来ると言う。
つまりスイッチだ。
光のエネルギーを一方的に促すのではなく。
その方向性を反発によって自由自在に操れる。
同時に熱も思う存分操れるのだ。そして常にその形
を変化させられる。それは単なる光を止める遮断で
はなくエネルギーとエネルギーの大きなぶつかり合い
によって、そこに膨大なエネルギーが生まれると言うものだ。
この技術により、車は一気に電動式を超えてしまった。
大きなプラグを必要とすることもなく極端に時代は進んだのだ。
彼のエネルギーは半永久的であり、また蓄電の必要性もない。
そしてコンビナートで大気を汚す必要性も、
気紛れな太陽や風に膨大な出費を費やす事もなくなった。
そして何より人的危険性や被害はゼロ。
彼の零法則はここにも成り立ってると言えるだろう。
「しかし・・・・・
そんな凄い事をどうやって思いついたのですか?」
「なーに簡単なことさ まぁ慌てるなそれよりまず
お前のやるべき事を説明する」
そう言って孝之はまるで幼稚園児のお絵描きの様に、
画用紙にクレヨンで絵を描き始めた。
そして
「何ですかこれ?」
「これだよ」
そう言って涼一の前に描いたばかりの画用紙を置いた。
それは小さな一軒の可愛らしい家をロープで縛って
宇宙の遥か彼方に縛りつけてる様な絵だった。
「いったいなんなんですか?」
涼一は理解出来ず聞き返すと孝之はもう一枚の
画用紙を取り出し、今度はイラストの様なタッチで
宇宙の広がりを描き始めた。
そこへ何十光年、何百光年、何千光年、何万光年、
何億光年と次々に円の形に線を引き始めた。
そしてそこに年号の様な数字を書き記し始めた。
それを涼一へと差し出したのだ。 「
これはもしかして?昨日話してたタイムマシーン?」
「ふっ」
そう言って孝之は涼一に背を向けた。そしてそのまま
「まぁ少し捉え方は違うが、例えば子供の簡単なお
絵描きだとより説明がつき易いだろう。大気圏外も
高低差もなにも考えずただ原理的な説明だけだすれば、
家を吊って一日たてば次の日はアメリカに着くだろう。
地球が廻っている事位は幼稚園児でも理解出来る。
しかしこれが中学生ともなれば話が違ってくる。
彼らは詳しくは理解していなくても、恐らく相対性理論
に近い話を持ちだしてくるだろう。
まぁそこまではいかないにしても、例えば空を飛ぶ音速機
の中と地上にいる人の時間のズレについて問う。
零移動の定義が速度に関するものなのか、それとも
異なった外的要素を利用したものなのか。勿論零と言うだ
け自分では動かずして全てが周囲の動きによってそれを
利用するだけの事なんだけどさ。だけどこれも本当はある
意味移動に過ぎない。ただ自分から動かないと言う意味で
はこの名前が一番相応しいと感じた。そこでこの前の天体
望遠鏡を思い出して欲しい。今空に見える星はもう散って
しまったもの。遠くの星が光の速さの分だけ時間をかけて
地球上に届けていると言う事。つまりあの星はもうない。
それは未来の方へと目を向ければ自然に解る。
そこには未来の図がちゃんと浮かび上がっているからだ。
その幻想にも思える単なる過程を利用した結果、最も効率
の良いタイムマシーンが作れる可能性が出来たと言うだけ
の事なのさ。
「僕は何だか聞いているだけで頭の中がこんがらがって
きました」
「じゃ具体的にお前がするべき事だけを説明してやるさ」
そう言って孝之は突然振り返って言った。
「宇宙の広がりを単に利用した全宇宙レベルの移動装置さ。
それをお前が手掛けるのさ」
「えっ僕がですか?」
「そうさっ、この装置を作るのに一番適した奴はお前しかいない」
「だけど何故僕なんですか?」
「お前のその正確な性格さ。普段からきちんとした身形、
ピカピカに光る靴。どこにも落度がない。
一見無駄な様に思える事にも、力を注ぐ事を怠らないお
前は几帳面で勤勉な証拠さ。
それにお前には新しいものを知ろうと言う探究心も充分にある。
そんなお前がこのプロジェクトの責任者になるのは当然だろう?」
「・・・・・・・・」
涼一は孝之にもうそれ以上何も言い返せなくなってしまった。