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『Story3』名も無き偉大なる発明家

とんでもない所へと連れて来られた事に気付く涼一、しかし揺るぎない

精神の孝之を傍で見ていると、涼一自身も何かを変えられる様な錯覚を

覚え始めていた。そして天才とは何か?その答えを孝之から突き付けられ

再び困惑せざる得ない涼一。しかしそれはまだほんの始まりに過ぎない.


しばらくして孝之が戻って来た。

そしてタバコを咥え火を着けた。


一体、行ったり来たり何をしてるんだあの人は、

全く天才の考える事なんててんで解んないや

そんな事を考えていた浮かない顔の涼一を見て



「何つまんない顔してるんだよ」


「あっ・・・・・」



全く言葉にならない涼一。

そんな彼に孝之は肩を叩いて言う。



「なーに、何も怖がる事はないさ、

お前は選ばれたんだから、紛れもなく天才の俺にな」


「はっはい」



涼一は頷いた。



「随分周り道しちゃったけどね。

先程の話に戻すけど、俺の発明によって世界は変わった。

昔は石油に頼っていたこの世界も今は俺の技術のみに頼っ

ている。しかしそんな時代を終結させ世の中をガラリと変え

ちまった俺だからこそ、世界中の人間に喜ばれているとでも

思っているのか?そうじゃない、寧ろ恨みも同じだけ買って

いる訳さ。ちょっとこっちに来いよ。いい物見せてやるから」



そう言って涼一を誘導する孝之。

そして何も解らずただ着いて行くしか出来ない涼一。



「これは?」


「なんだと思う?」


「さぁ、全く解りません」


「これは鏡だ」


「鏡?」



その時、孝之がらしくない事を話し始めた。



「なぁお前は悪魔とか妖怪を信じるか?」


「えっ・・・・・」



孝之の口からあまりにも意外な言葉が飛び出したせいか、

涼一は思わず噴き出しそうになった。

・・・が堪えた。



「何故またそんな迷信じみた話を?

あなたらしくないですよ」



そう言うとほっとした表情を浮かべる涼一。

その時彼の心の中できっと天才とは言え、

孝之も自分と同じ普通の人間なのだと言う事を

少しだけ感じたのだろう。

しかし孝之の方向性は全く違っていた。



「お前はどう思う?」


「何がですか?」


「今言った事を聞いていなかったのかよ?」


「あっすみません」


「しょうがない奴だな、天才の悪い癖だ」


「天才の悪い癖?」


「ああそうさ、天才の悪い癖」


「と言うと?」


「例えば凡人と天才が20回以上簡単な事柄を

記憶する様に他者から指令されたとする。

それはテスト勉強の様なかも知れないし、

仕事に当て嵌めたものかも知れない。

その時、覚えの悪い凡人はその資料を何度も見るだろう。

何故なら何度も繰り返しそうする事によって

頭の中へと記憶を定着させようとするからだ。

一方天才にはそんな必要などない。

もう言わなくても解るだろう。お前も天才なのだから、

だが今回はちゃんと説明してやるよ。

天才は一度見れば覚えるのさ。方程式であれ、

難しい語学であれ、何であれな。

だから天才には何度も確認する必要等ない。

ましてや20回以上にもなると、天才にとってこれ

程苦痛で退屈なものはない。

もう理解している事柄に不要な時間をかけなくてはな

らないからさ。

そんな暇に他の事を考える方が先決だと思うからね!」


「なるほど・・・・・しかし難しくて僕にはなんだか

さっぱり、僕は天才ではなく寧ろ頭の悪い男なんです」


「そうだなっ天才はある意味紙一重と言うだろ。

それは紛れもなく正解だ。天才の考える事は

所詮凡人からはマイナス面にしか写っていない。

ただ彼等は先の時代を読めなくて随分遅れを取って

いるだけの事に全く気が付けないでいるに過ぎない。

そして天才をバカ呼ばわりする。

しかし時間が経過し、いずれ凡人は己の浅はかな

恥を知るだろう。ただそれだけさっ!」


「あなたは凄い。それは良く解りました。

だけど孤独ではないのでしょうか?」


「良い質問だな」



そう言ってタバコを揉み消す孝之。その後更に涼一

の傍に近付き再び話し始めた。



「孤独は良いものだ。俺には富がある。

だから自分に都合のいい対人関係をいとも簡単に築ける。

そこにはいらぬ感情などはない。金がものを言うだけさ。

これ程スムーズで円滑な関係等

他ないだろう。金が切れなければその縁も切れない。

逆にこちらから縁を切りたければ

いつだって縁を切る事が出来る。

金にはつまらない感情は伴わない。

ただしその使い道を間違わなければだけどな」


「今度は解りました。

だけどそれは人として生きる為にはどうなのか

と多少疑問に思います。僕ならきっと、その寂しさに

耐えられない気がするからです」


「俺は元から孤独だからな。

寂しいと言う感情すら当たり前過ぎて

今ではもう解らないよ。

だけどその気持ちを取り戻そうとは思わないさ。

何故ならいらぬ感情こそが破滅へと導くものだからさ」



何を話しても自信満々の孝之を見ていると、

涼一自身も何かを変えられる気がした。

そしていつしかミステリアスで冷酷非道な孝之に憧れ

の様な感情を抱き始めていた。


緊張のあまり話の途中で一度部屋を出ようとした涼一に

孝之が呼び止める様に言った。



「お前にもっといい事を教えてやるよ」


「はい」


「本当の天才って奴はな、決して誰から何も教えられなく

てもそして見なくても、そのすべてを理解し

自ら把握出来るものなのさ!」


「え?」


「まぁもう一度そこへ座ってコーヒーでも飲めよ」



そう言って孝之は殺風景な部屋の中に置いてある

ソファーに目をやった。


涼一は心の中で呟いた。


「揺ぎ無い精神とは恐ろしい・・・・・。

まるで僕はマインドコントロールにでもハマって

しまったみたいだ。」



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