『Story1』空間零移動の法則 (影武者と地下組織)
俺々シリーズ第二弾!新たなる主人公紹介、地下組織内に潜む誰も知りえない天才、
廣庭孝之(Takayuki Hironiwa)そして地下組織内に連れて来られた隠れた天才頭脳の持ち主?
安曇野涼一(Ryouichi Azumino)二人が織成す奇怪な開発と繰り返される心理バトルは、
近未来の想像を掻き立て新たなる未知を創造させる。
孝之は言った。彼はまた新たな定義を貪り始めたらしい。
「宇宙が無限に広がっていると定義した場合、同じ地点であっても時間のズレにより
違う地点と繋がってる可能性がある。それが正しいと考えた時、移動距離が零であったと
しても、時間移動が可能になれば空間移動が出来る事になる。
それは全く違う地点に移動出来る可能性があると言う定義である」
と・・・・・・
皆が彼の言葉に耳を傾ける。不穏な空気が周囲に響きわたる。
この静かで大きな地下にある
組織に中で。
普段は外に出る事のない孝之だ。それならどうやって外の人間とコンタクトを取っているのだろう。
孝之の考え等、誰も想定出来ないだろう。何故なら彼は凡人ではないからだ。
だけどその分彼は孤独でもある。しかしその孤独は面白い事に彼の餌にしかなりえない。
彼は何事にも動じない精神の持ち主だからだ。孤独ごときで動じるはずなどない。
彼は情報を得る為、
外の連中とコンタクトを取る場合、ある種の方法を用いている。その方法とはズバリ
「影武者だ!」
それは原始的であり尚、単純な方法だ。
「孝之は彼にそっくりな人物を世界中から集めればいいだけの話だからだ!」
勿論影武者が必要な理由は、それによってどの程度まで孝之自身の身に危険が迫って
いるかが逸早く察知出来るからだ。
その為には無理やり誰かを拉致し、組織内で整形させる事もありだろう。
しかし彼には情などもはやない。組織に中では想定出来ないあらゆる事が行われている。
そして次の実験こそが「空間零移動の法則」だ。
彼は大きな宇宙海図の様なものを広げた。
「こんなもの初めて見た!」
大きな声で驚き顔をする若い男の名は涼一、
彼もまた孝之に似ていた為ここへ連れて来られたのだろう。
しかし涼一には何も解らなかった。これから先はどうなるのか、整形を受けさせられるのか、
それともこのままで影武者として扱われるのか、だが年の若い涼一にとっては、
契約時に支払われた単なるはした金も、宝の山の様に映っていたのだろう。
そんな彼も何かを恐れず、何かに怯える事もなく、
そう言う意味では孝之と同じ精神の持ち主なのかも知れない。ただ世間知らずだとも言えるのだが。
涼一の顔を見て孝之が言う。
「お前の名前は?」
「安曇野涼一です。」
「年は?」
「18です。」
「お前に俺の仕事が手伝えるか?」
「えっ、それってどんな仕事ですか?」
「なーに簡単さっ」
そう言ってタバコに火をつける孝之。タバコを吹かしながら更に孝之の質問は続いた。
「いとも簡単な方法でタイムマシーンを作るだけさ」
「タイムマシーンですか?そんなもの作れるんですか?それもいとも簡単にって・・・・・」
「じゃお前の様な生まれたばかりのひよっこの為に極簡単に説明してやるよ。まずあの星を見てみろっ」
そう言って孝之が涼一に地下倉庫の隅にある仰々しい程の望遠鏡を覗かせた。
「見えるだろ?」
「星ですか?」
「そうだよ」
「しかしあなたが何を言わんとするかが僕にはさっぱり解りません」
「天才は語らなくても解るものだろ?それともお前は天才じゃないのか?」
「えっ僕が天才なんですか?」
「なんだ違ったのか」
そう言ってがっかりした顔をして孝之は部屋の外へと出て行ってしまった。
真暗闇の中に一際大きな望遠鏡が聳え立つこの地下組織の隅で、涼一は
たった独り星を見ては答えを探ていた。