ラーメンの具材を採りにダンジョンに行かされるバイト、日給3万円
「なぁ押田くぅん。いいバイトがあるんやけど」
胡散臭い関西弁を喋るオーナーが、ニンマリとした顔で俺を覗き込んだ。
俺は押田勝也。ラーメン屋でバイトする、ちょっぴり金欠な大学生だ。
「バイトなら既にここでやってますけど」
俺はカウンターの箸立てに、割り箸を補充しながら答えた。
「ちゃうねん、ちゃうねん! もっと割のいいバイト、興味あらへん? 押田くん、推し活でよく東京とか行ってるやんか。でも遠征っていうの? そういうの、お金かかるんちゃうん」
「まぁ……」
頭に、推しのアイドルであるマホちゃんの顔がよぎる。
今月末はマホちゃんのバースデーイベントがある。ファンとして是非お祝いにかけつけたいところだ。
けれど、先立つものがない。
先月もツアーファイナルを盛り上げるべく、東京へ馳せ参じたばかりだ。
俺が住むのは地方都市。東京までは新幹線か夜行バスで行くことになるが、今は比較的安価な夜行バス代ですら捻出できないくらいに金欠だ。
「押田くんが東京まで行ったら、マホちゃんも喜ぶと思うねんけどなァ……」
オーナーは俺のファン心をよく理解している。
マホちゃんにとっては俺なんて大勢いるファンの一人にすぎない。けれど、ファンの俺からすれば、マホちゃんのメンカラの青ライトを一本でも多く灯してあげたい。彼女がステージからそれを見て、笑顔になってくれたら嬉しい。
「それで、その割のいいバイトっていうのは……」
まさか闇バイトではないだろうな。
「おっ、押田君、やる気になってくれたやん! バイトいうても、雇い主は俺や。ほんで君にはダンジョンに行ってほしいんや」
「はぁ⁉ ダンジョンだって⁉」
日本各地にダンジョンが現れて早数年。
そこにはアニメや漫画でしか見たことがないような、バラエティに富んだモンスターがうじゃうじゃいる。あまりにも危険なので、最初の数年は訓練された自衛隊しかダンジョンに入ることを許可されていなかった。
しかし最近は、ダンジョン内もあまり奥まで行かないという条件つきで、一般人も入れるようになっている。と言っても危険なことには変わりないので、そこに入るのは命知らずの馬鹿だけだ。主に、目立ちたがり屋の動画配信者などだ。
「なんでダンジョンなんかに」
「それなんよ。俺が欲しいのは、ダンジョンで自生してる食材なんや。それをこのラーメン屋の目玉にしたいねん! ダンジョン産食材を使ったお手軽B級グルメ! な、流行りそうやろ?」
そういえば、先日テレビでダンジョン産食材を扱う高級レストランの特集を見た。おそらく、オーナーはそれを自分の店でやりたいのだろう。最近は客足も減って、店もあまり儲かっていないように見える。ここで起死回生を図りたい気持ちも分かる。
しかし——
「お断りします。さすがに危険すぎます」
「そんなん言わんとォ。バイト代もはずむで? 日給3万でどうや?」
「3万? ……いや、それでもさすがに危険だし……それで怪我したら元も子もないし……」
「3万あったら、東京までの往復の夜行バス代と、マホちゃんのライブのチケット代がまかなえるやろ」
「んぐっ! ……確かに」
「それにいざとなったらダンジョンに常駐しとる自衛隊が助けてくれるんやし、そんなに危なくないと思うで?」
悪魔の囁きだ。
大けがをするかもしれない対価として、3万円なんて安すぎる。
しかし、それがあれば今月もマホちゃんに会える。
俺は悩みに悩んだ末、オーナーに返事をした。
「よ、4万ならやります」
4万あれば、遠征費にプラスして、バースデーライブの限定グッズも買える!
待ってて、マホちゃん!
◇
翌日、俺はオーナーから大きなバックパックを借りてダンジョンへと潜った。
ダンジョンの入り口には受付があり、そこで身分証を呈示し、予定する探索ルートなどを申請する。バッチ型のGPSの貸し出しもあり、万が一の場合はGPSのボタンを長押しすれば自衛隊に救助を要請できるようになっている。
「思ったより手厚いな。これならすんなり無事に帰ってこられそうだ」
俺は受付で手渡されたバッチを胸に取り付け、地下ダンジョンへつながる階段を下りていく。手には、オーナーから借りた対魔獣用の鍬を持っている。ダンジョン内のモンスターは魔獣と呼ばれているのだが、こいつらには普通の武器が通用しないらしい。おまけに、植物にもウネウネと動き回るタイプがいるため、ダンジョン内の動植物は全部まとめて魔獣扱いになっている。
オーナーが貸してくれたのは、そいつらにも応戦できる専用の素材で作られた鍬だ。
ちなみに今日採りに行くのはバンブートと呼ばれる、タケノコのような食材だ。ダンジョン内に自生しているらしく、動き回ったりはしないらしい。オーナーはこれで特製メンマを作るのだと張り切っている。
そもそも何故オーナーが自分で行かないかというと、「膝が悪い俺にタケノコ掘りなんて無理に決まっとるやろ」ということらしい。
というか、オーナーは太りすぎなんだよ……痩せたら少しは膝の痛みも改善するんじゃないのか。そんなことを考えながら、俺はダンジョンの奥へと進んでいく。
時折、小型の魔獣らしき生物が俺の前を横切ったりするが、奴らはこちらには興味がないようだ。なんなら見た目もモルモットみたいで可愛かったし、魔獣っていうのも案外危険じゃないのかもしれない。
そうこうしているうちに、やたらと天井の高い場所へと出た。
奥には竹のように背が高くて細い植物が生い茂っているエリアがある。
「おっ、ここにバンブートがあるのかな」
ダンジョン内は自衛隊が設置したライトのおかげで地下の割に明るいのだが、竹藪は違う。どうにも薄暗い。死角から魔獣が飛び出してこないとも限らない。
対魔獣用鍬を抱え、おそるおそる竹藪に足を踏み入れると……
ガサガサガサ!
急に草を踏み分けるような音が近づいてきた。
「ぎゃああああ! 魔獣だぁぁぁ!」
「こんにちは! 動画配信者のミーコでっす! おや、今日は他の配信者さんもいるみたいですねぇ」
現れたのは魔獣——ではなく、スマホのカメラをこちらに向けた、ハタチくらいの女の子だった。ノースリーブにショートパンツというやたら露出の高い服装をしている。
「なんだよ、アンタは!」
「私は配信者のミーコです! お兄さん、同業者ですか?」
ミーコとやらは俺にカメラを向けながら話しかけてくる。なんだ、頭のおかしい命知らずの配信者か。
「俺は配信者じゃない。ダンジョン産の食材を採りに来たんだ。バンブートってやつ」
「ええっ! ダンジョン産の食材? おもしろそう、動画に撮ってもいいですか?」
断ったら大人しく引き下がるのだろうか。まあ、俺も一人じゃ心細かったし、手元を映すくらいならいいだろう。
「好きにすれば。その代わり、顔は映さないでくれよ」
俺は土の上をくまなく見て、バンブートの先端を探す。土からわずかに見えているそれを発見すると、その周りの土を慎重に掘り起こしていく。
あまりバンブートに近寄りすぎると、本体を傷つけてしまうから要注意だ。
土をある程度柔らかく掘り越せたら、バンブートの根元に向かって、鍬をぐいっと差し込む。あとはテコの原理で鍬を手前に倒せば、バンブートが根本から掘り起こされるという訳だ。
「おおっ! 視聴者のみなさん見てください。バンブート? ってやつが出てきましたよォ~! なんだろう、タケノコかな?」
横で見ていたミーコが歓声をあげる。
「意外と大きいんですね。これってスーパーに売ってるタケノコとは違うんですか?」
「スーパーに売ってるやつは大きくても1キロぐらいだろうが、俺が今掘ったやつは持ってみた感じだと3キロはありそうだな」
俺はそのまま他のバンブートも何本か掘っていく。全部で8本掘ったのだが、ミーコは途中から明らかに飽きていたようだ。スマホの配信画面を通じて、視聴者とのお喋りばかりに興じている。
「ふぅ。こんなもんかな」
俺が額の汗を拭うと、ミーコがこちらにカメラを向けた。
「お、バンブートニキ、掘り終わりましたかね?」
「なんだよ、その変な呼び名は」
「視聴者さんとつけた、お兄さんのあだ名ですよ! バンブートを一心に掘り続けるアニキ、略してバンブートニキです! おやおや、視聴者のみなさん、バンブートニキのバックパックから大きな鍋が出てきましたよ~。ここで食べるんですか?」
「ここで食べる訳じゃないが、ここで下処理をするんだ。水と大型の鍋は持って来ている。どういう訳か、ダンジョン産の食材はすぐに加工しないと急速に腐ってしまうらしいんだ」
俺はオーナーから借りた大きなアルミ鍋に、ペットボトルの水と酢をドボドボと注ぎ入れる。ラーメン屋からここまで、液体を何リットルも運ぶのは本当に重かった。
「ああ、聞いたことがあります。だから魔獣を倒しても、すぐに素材を剥ぎ取らないとダンジョンの地面に吸収されてしまうとか」
「そうだ。だから俺は手早くこれを処理してしまう必要がある」
俺はオーナーから鍬とともに借りていた対魔獣用ナイフを取り出し、バンブートの底の固い部分を切り落とした。下から上に切り込みを入れ、そこに一気に指をつっこむと、皮は意外にスルリと剥ける。
また普通のタケノコと違い、可食部が多そうに見える。これはなかなか良さそうだ。
「手慣れてますね」
「昔ばあちゃんちで手伝ったことが何回かあるからな」
カセットコンロに火をつけ、鍋にバンブートを放り込む。あとはアクが抜けるまで放置だ。
ここでミーコは一旦配信を止め、スマホを胸ポケットにしまった。またバンブートの下処理が終わったら配信を再開するという。俺は鍋の番をしながら、ミーコに問いかけた。
「アンタ、いつもここで配信してるのか? 危なくない?」
「だいたい週2くらいで配信してますね。まぁこの辺は大型の魔獣も出ないから、あんまり危なくないですよ。ただ、それはすなわち配信としての見せ場も少ないということで……最近はもっと奥の方で、気性の荒い魔獣から逃げ回るような配信の方がウケますね」
「うへぇ。なんて命知らずな」
「でも、ダンジョン探索の生配信も結構メジャーになってきたから、そうでもしないと見てもらえないんですよ。だから今日はバンブートニキに会えて助かりました。ここで食材を探す人なんてめったにいないですもん。そういう変わった人に密着するだけで、いつもと雰囲気の違う配信ができるから、新規の視聴者さんもゲットできるかも」
ミーコは顔を綻ばせた。
「普段は高校に行ってるから、毎日ダンジョンに潜る訳にもいかないですし」
「げっ! アンタ女子高生だったの⁉ てっきり俺と同い年くらいかと……」
「げってなんですか! 未成年だと何か問題ありますぅ?」
未成年であることを売りにしてるであろう女子の配信に、俺のようなどこの馬の骨とも知れない男が突然登場するのだ。好意的に見てもらえているかは分からない。
顔を映さないように最初に言っておいて正解だった。炎上とかしたくないしね!
「さて、そろそろいいかな」
バンブートを茹で始めて、小一時間が経過した。俺は鍋の中から菜箸でバンブートをひとつ取り出すと、一部をナイフで切り取った。味見をするのだ。
「味はどれどれ……おお! 思ったよりもだいぶ甘いんだな。そして、スーパーのタケノコとは違う濃厚さがある……こんなの初めてだ」
俺がブツブツと言っているのを、いつの間にかミーコはちゃっかりと配信している。
「視聴者の皆さん見てください、バンブートニキが試食をしていますよ~。いいなぁ、おいしそう……」
ミーコのくりくりとした目が、物欲しそうに俺を見る。
「……一口だけだぞ」
俺はそう言って、もう一口分のバンブートをナイフで切り落とす。ミーコの口にポイと投げ入れると、ミーコはハフハフしながら目を輝かせた。
「うわ! おいしい! なんか超甘い!」
食レポは正直へたくそだが、美味しいものを食べてニコニコしている人を見るのはなかなか楽しい。
「あれ、もうバックパックにしまっちゃうんですか」
「ああ、本当は粗熱とかしっかり取ったほうがいいんだろうけど、こんな魔獣がいつ出るか分からないダンジョンに長居したくはないからな。とっとと帰るに限る」
俺がバックパックに荷物一式を仕舞う様子を見て、ミーコは唇を尖らせた。
「ちぇっ。せっかくならここでバンブートをもっと食べたかったです」
「バカ言え、俺は店のオーナーからの依頼でこれを採りにきたんだ。これは俺の所有物って訳じゃない。ダンジョンを出たら早く店に持って行かなきゃ」
「え、てことはバンブートニキは何屋さんなんですか? ゴハン屋さん? それなら食べに行きた——」
ミーコが笑顔でこちらに駆け寄ろうとした、その時だった。
シュッと、黒い影が俺達の間を横切った。
「きゃあああ!」
黒い影はあっという間に2体、3体と数を増やし、一斉にミーコに襲い掛かった。
「ミーコ⁉」
くそ、油断してた。魔獣か⁉
俺は対魔獣用鍬を振り回し、大声を出して威嚇する。
「ミーコから離れろぉぉぉ!」
ミーコに襲い掛かっているのは、よく見ると猿だった。いや、猿のような輪郭の、おぞましい魔獣と言ったほうが正しい。
体の大きさとフォルムこそ猿そっくりだが、左右に3つずつの目がある。瞳は赤く、白目の部分が黒い。明らかに普通の猿ではない。
「おい! 離れろ! 離れろってば!」
俺はデタラメに鍬を振り回す。一応対魔獣用となっているから、植物のバンブートだけではなく猿型魔獣にも効果はあるだろう。
しかし、これはあくまでも農耕器具だ。ちゃんとした武器じゃない。だからなのか、猿はこちらに臆する様子もなく、今度は俺めがけて飛び掛かってきた。
「くそ! こっちに来るな!」
しかし、猿は動きが非常に素早かった。俺が鍬を振り切った瞬間を狙って、俺の胸のあたりに思い切り手を振り下ろしてきた。
バキっという音とともに、胸につけていたバッチ型GPSが地面に落ち、そしてぱっくりと割れてしまった。
「ああ、GPSが! これじゃあ自衛隊に救助を要請できないじゃないか!」
自衛隊を呼ぶには、GPSに付属したスイッチを長押しする必要がある。でも、それはいま地面の上でまっぷたつになってしまっている。
「おい、ミーコ! アンタのGPSで自衛隊を呼んでくれ!」
「私、GPS持ってないんですぅ!」
猿から頭をかばって小さくうずくまっているミーコが涙声で言う。
「なんで持ってないんだよ⁉ 入り口のところで貸し出ししてただろ⁉」
「だって、あれレンタル料が一日5千円もするじゃないですか! そんな大金、ビンボーな高校生には払えませんよ!」
なんということだ。これじゃあ自衛隊に救助を要請できない。
バンブートを煮込んでいる間に、俺達はゆっくりと猿型魔獣に包囲されていたのかもしれない。ここまで攻撃的な魔獣に遭遇しなかったので、完全に油断していた。
ちくしょう、こうなったら——
俺は地面に落ちていたミーコのスマホを拾い上げると、スマホに向かって怒鳴るように言った。
「誰か、自衛隊に救助を要請してくれ! ここはナニワダンジョン内のルートFの竹藪だ! 猿型魔獣に襲われている!」
そうしている間に、先ほどよりも猿の数が増えていることに気付いた。
最初は3匹ほどだったはずの猿型魔獣は、今や20匹ほどまでに増えている。もしや、ここはこいつらの縄張りだったのか。
ミーコのスマホには、視聴者からと思しきコメントが並んでいる。
[さきちゃん:逃げられないんですか?]
[ケイスケ:バンブートニキ、頑張って逃げて!]
「おい、ミーコ、立てるか? ……ダメだ、ミーコが完全に腰が抜けてて、立ち上がれそうにない! 女子高生を見捨てて逃げれるか!」
[よしお:バンブートニキの顔を見せてくれたら救助要請してあげる]
「バカ言え! お前らのミーコが死んでもいいのか⁉ 早く救助要請しろってば!」
[ケイスケ:俺達はエンタメに飢えてるんだ。ニキ、早く顔をみせて]
「くそォ! お前ら、覚えてろよォ‼」
俺はスマホの配信画面をインカメラに切り替え、自分の顔を映した。
「これで満足か⁉」
[たくちゃん:ニキ、意外とイケメンだった]
[ぽん:このまま死なせるには惜しい人材]
[ももこ:いま自衛隊に通報したから、もう少し待って]
これで自衛隊に連絡がいったはず。あとは信じて待つしかない。
俺は頭を抱えてうずくまるミーコの側で、ひたすら鍬を振り回し、猿たちを威嚇し続けた。
自衛隊が到着したのは、そこから10分後のことだったらしい。
俺には1時間、いや永遠にも感じられるほど長く、心細い時間だった。
俺とミーコは大怪我こそしなかったもの、全身にきりきずと打撲を負った。精神的には瀕死も同然。もうダンジョンはこりごりだ。
◇
「押田くぅん、はい、この前のやつの日給の3万円」
ランチ営業前にラーメン屋に出勤すると、オーナーがほくほくとした笑顔で俺に3万円を手渡してきた。
「なんで3万なんですか⁉ 俺は4万って言ったはずですけど」
魔獣に襲われて(少なくとも精神的には)死にかけたのだから、4万でも安いくらいだ。
しかしオーナーは頑として譲らない。
「だって、押田くんったら猿型魔獣を威嚇? するとかで、俺が貸した対魔獣用の鍬を壊してもうたやん。その分の値段は引いとるで」
「え、逆に対魔獣用の鍬って1万で買えるんですか」
「新品やったらもっと高いで? たしかあれはフリマサイトで3千円だったような……」
「じゃあ1万も引かなくていいでしょう⁉」
「いやいや、自衛隊のレスキュー代がかかっとるやろ。1万円。普通の災害やったら自衛隊は金とらへんけど、ダンジョンは別やからな。完全なる自己責任っちゅうことでレスキュー代で1万円取られたぶんは、俺が払ってやったやないか!」
「俺は死にかけたんだから当然でしょう! 文句があるならオーナーが行けば良かったんですよ‼」
俺が文句を言うと、オーナーは聞こえないフリをしてキッチンの奥へと消えていった。
——と思ったら、手に皿を持って戻って来た。
「ところで、これ味見してみぃ。押田くんが持って帰ったバンブートで作った特製メンマや!」
オーナーは箸でそれを掴むと、俺の口のなかにぐいっと押し込んで来た。
やめろ、オッサンに「あーん」とかされたくない。でも……
「ん! 美味いっすね。いや、噛めば噛むほど……美味いっていう一言では表しきれないくらい濃厚で、素材の甘味と煮込むのに使った醤油とのバランスが絶妙で……」
「押田君、その感想をSNSにアップしといてや。あ、押田君じゃなくてバンブートニキだっけか」
オーナーが俺をからかうように言った。むっとして言い返そうとした時、ガラリと店の入り口が開いた。
「あ! バンブートニキだ!」
「ミーコちゃんが言ってたラーメン屋ってここですよね?」
どうやらミーコが自分の配信でここのラーメン屋を宣伝してくれたらしい。バンブートメンマ入りのラーメンは通常の3倍の価格となっているが、そんなの関係ないと言わんばかりに、いつもよりかなり多めのお客さんが入り口から続々と入ってくる。
「押田君! お冷とおしぼり出してや!」
「はい! いらっしゃいませ! カウンターの奥のほうからお座りください!」
まだランチの早い時間だというのに、あっという間に店は満席になった。やっぱりダンジョン産の素材を使ったラーメンというのは、なかなか話題性があるらしい。
自分の戦略がヒットしたことを確信したオーナーが、ニンマリとした顔で俺を見る。
「なあ、押田くんよ。次はダンジョンにいる豚型魔獣で作るチャーシューとかどうやろうか? もちろん対魔獣用の網はフリマサイトで買って用意したるからさぁ。来月も推し活で東京行きたいやろ?」
「もう勘弁してくださいよ!」




