外伝:千年寵姫
かつて千年を君臨する竜王が居た。彼には、常にともにいる、最愛のただ一人の寵姫が居た。今日は、その話をしよう。
始まりは、彼が君臨して最初の頃だ。彼にはかつて思い人である、黒髪の人魚が居た。彼は、彼女が忘れられなかった。いつも、どこかで、彼女の面影を追っていた。
あるとき、外の見回りで海岸沿いを歩いていた時に、黒髪の美少女を見つけた。少女もまた、人魚であった。
その少女にかつての思い人を重ねた竜王は、彼にしては大変珍しく、その場で口説いた。少女も、カッコいい男に口説かれて、結構その気になった。
少女は宮中に、竜王の寵姫として上がることになった。
最初は竜王も乗り気で話していたのだが、徐々に冷めてきた。かつての思い人は、大変理知的であったのだが、少女はどちらかというと、呑気な性格であったからだ。
なんか、違う……
自分で口説いておいて、大変失礼な話ではある。まあ、竜王とて男である。そう言うこともあるだろう。
しかし、問題が起きた。それは、彼が竜王であるからだ。
竜王が、黒髪の美少女に懸想している
これが、下々の者に広まってしまった。こうなると、話がややこしくなる。
竜王の覚えを良くしようと、黒髪の美少女を献上する者が現れ始めた。女の方も、竜王の妃になれる可能性があるならと、髪を伸ばす者、髪を染め者が現れ始めた。
竜王が気づいた時には、遅かった。宮中は、黒髪の美少女で埋め尽くされていた。
竜王は、困った。男の夢ともいえる光景かもしれないが、困った。なぜなら、かつての思い人は、こういうのが、大っ嫌いだったからだ。
宮中には、そんな思い人とシルエットの似た美女が溢れている。宮中に帰ると、そんな彼女たちが笑顔で出迎える。その笑顔がこういっているように見えるのだ。
何をやっているんだ?お前は?
これは気まずい。滅茶苦茶、気まずい。竜王は、宮中に帰りづらくなった。
竜王が宮中にあまり寄らないので、宮中に上がった女たちも、徐々に宮中から出て行った。竜王は別にそれでも構わなかったし、流石に色々と失礼ではあったので、帰るのであればそれなりの便宜は図った。
また、それにこのころになると、竜王が歳を取っていないことに、気が付く者も出始めた。竜王は、不死なのではないか?と、皆が噂をし始めた。何か呪いでも掛けられているのは無いか?と。
そうなると、また、話が変わってくる。不死であれば、子供など作る必要が無い。実際、竜王は正室を持とうとはしなかった。子供を作る気も、無さそうだった。
宮中からは、更に女が減っていった。とうとう、一人を残して、皆居なくなった。
残った一人は、最初に竜王が口説いた、あの人魚だった。彼女は呑気だったので、実家よりも居心地のいい、宮中に、なんとなく居続けた。
彼女は、本当に、なんとなく居続けた。なんとなく、宮中の役人たちとお喋りをしたり、なんとなく、歌を歌っていたり、なんとなく、お茶をしたりと、なんとなく、居た。
宮中の皆も、彼女が居ることを、なんとなく、受け入れていた。
あるとき、竜王は宮中に帰ってきて、まだ彼女がいることに驚いた。そして、言った。
「……君……まだ……居たんだね」
自分で口説いておいて、自分で召し上げておいて、自分で放っておいて、大概失礼な話ではある。しかし、彼女は呑気だったので、こう答えた。
「そうなんですよ。もう長いこと、お世話になってます」
その日以来、彼女は竜王のそばに、なんとなく居るようになった。竜王も、彼女がなんとなく居ることを許した。
彼女は、なんとなく、居た。食事の時も、寝る時も、仕事の時も、危険だから来るなと言った時も、彼女は、なんとなくいた。
竜王は、なんとなくいる彼女が、心地よかった。食事の時のお喋りや、一緒に寝ている時の、その日にあった時の話も、優しい目で、聞いていた。
彼女もまた、心地よかった。お喋りを聞いてくれたり、時々気の利いたことをサラッと言ってくれる竜王と一緒に居て、心地よかった。
彼女も不死の人魚であったので、不死の竜王と一緒に、ずっと、なんとなく居た。千年くらい、居心地よく、ずっと一緒に居た。
千年の後、竜王は悪魔と戦い、深い傷を負った。その傷が原因で、彼は亡くなった。その時、彼女もまた、自ら果てたという。
今現在、彼女の名前は残っていない。ただ、「千年寵姫」という名でのみ、聞き伝わっている。




