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『静けさの残響』

掲載日:2025/11/09


第一章:「夢のかたち」


午後の光のなかで──

わたしたちは、

同じ夢を見ていたような、

そんな気配に包まれていた。


それは、

遠くの庭先で、

咲いていたはずの花、

風にほどけた布、

指先に触れかけた記憶の縁。


けれども、

それがほんとうに同じ夢だったのか──

もう、誰にも、確かめようがなかった。


ただ、

その淋しげな錯覚のなかで、

わたしたちは、

目を伏せたままの微笑で交わした約束を、

そっと手にしたような気がしていた。


そしてそれは、

暮れゆく日のなかで、

誰にも届かぬ、

過ぎ去った一片の想いのように、

いまも、どこかで、

ひっそりと、漂っている。



第二章:「綾なう記憶」


あの夢の話をしたとき、

あなたは、

屋根の色を語った。


わたしは、

揺れるもののそよぎに身をゆだねていたけれど、

あなたは、

風の冷たさだけを残した。


あれは、

同じ夢だった──

そう、ふたりは思っていた。


けれども、

その夢のなかのまどろみが、

ふたりを──

すれ違わせていた。




夢は、

絵のなかで言葉を失ったまま、

そこにあった。


その沈黙は、

見つめるたびに、

かつての彩りを忘れながら、

すこしずつ、

別の絵を描いていた。



それは、もう──

ふたりの絵ではなかった。



第三章:「音のない喪失」


夢が、

遠ざかっていったあと、

時は、静かに積もっていた。


午後の光は、

あの日と同じように、

庭の石を照らしていたけれど、

咲いていたはずの花の影も、

もう、そこにはなかった。


わたしたちは、

手にしたはずのものが、

指先から、こぼれ落ち、

薄れていくのを、ただ、見ていた。


こぼれ落ちた夢の残響は、

夕暮れの空気のなかで、

ひとしずくの静けさとなって、

ひっそりと、消えていった。


そして、

その静けさだけが、

ただひとつ、

手に残るぬくもりのように──

今もなお、

わたしのなかに、

息づいている。




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