『静けさの残響』
第一章:「夢のかたち」
午後の光のなかで──
わたしたちは、
同じ夢を見ていたような、
そんな気配に包まれていた。
それは、
遠くの庭先で、
咲いていたはずの花、
風にほどけた布、
指先に触れかけた記憶の縁。
けれども、
それがほんとうに同じ夢だったのか──
もう、誰にも、確かめようがなかった。
ただ、
その淋しげな錯覚のなかで、
わたしたちは、
目を伏せたままの微笑で交わした約束を、
そっと手にしたような気がしていた。
そしてそれは、
暮れゆく日のなかで、
誰にも届かぬ、
過ぎ去った一片の想いのように、
いまも、どこかで、
ひっそりと、漂っている。
第二章:「綾なう記憶」
あの夢の話をしたとき、
あなたは、
屋根の色を語った。
わたしは、
揺れるもののそよぎに身をゆだねていたけれど、
あなたは、
風の冷たさだけを残した。
あれは、
同じ夢だった──
そう、ふたりは思っていた。
けれども、
その夢のなかのまどろみが、
ふたりを──
すれ違わせていた。
夢は、
絵のなかで言葉を失ったまま、
そこにあった。
その沈黙は、
見つめるたびに、
かつての彩りを忘れながら、
すこしずつ、
別の絵を描いていた。
それは、もう──
ふたりの絵ではなかった。
第三章:「音のない喪失」
夢が、
遠ざかっていったあと、
時は、静かに積もっていた。
午後の光は、
あの日と同じように、
庭の石を照らしていたけれど、
咲いていたはずの花の影も、
もう、そこにはなかった。
わたしたちは、
手にしたはずのものが、
指先から、こぼれ落ち、
薄れていくのを、ただ、見ていた。
こぼれ落ちた夢の残響は、
夕暮れの空気のなかで、
ひとしずくの静けさとなって、
ひっそりと、消えていった。
そして、
その静けさだけが、
ただひとつ、
手に残るぬくもりのように──
今もなお、
わたしのなかに、
息づいている。




