第1章
いつも五月蝿い教室が今日はさらに五月蝿かった。
黒板に並んだ自習の文字は子どもたちの好奇心を駆り立てる。それに相乗して彼らを浮かせたのが、今宵行われる天体観測だ。好奇心旺盛な小学校高学年には、親公認で夜に出歩ける一大イベントなのだ。
いつもと同じメンバー、いつもとは違う夜の勉強会。そう考えるだけで皆の胸は高まる。
「先輩連れてきちゃいなよ」
教卓周辺をジャックしお喋りに花を咲かすのはクラスの目立つ女子グループ。話題はクラスで一番人気のアイドルなあの子の恋愛事情。最近6年の野球部の先輩と付き合ったらしい。
それを知り壁に拳を打ち付けた者は少なくない。
「でも恥ずかしいな」と言いつつ満更でもない顔で自慢のツインテールを揺らした。
そんな様子を遠目で見ながら窓際の席で回ってきたプリントを受けとる。地球にエコな古紙を使用しているその紙には、担任の乱雑な文字で天体観測の知らせが書かれていた。
─夏の正座を観察しよう!─
日にち:今日
時間 :20:00ごろ
場所 :松尾公園
内容 :さそり座、夏の大三角形を探そう!
花より団子、夜空より云々。天体観測に興味が湧くはずもなく、視線は窓の外へと移される。校庭と運動場が見渡せるこの席が僕はお気に入りだ。運動場では下級生がサッカーボールを追いかけている。午後の程よい陽のひかりを浴びて、元気に動きまわる。三十路を過ぎたおっさんの様に、「若いなー」なんて思えてしまうから困ったものだ。世間的に見たら僕らはひとくくりでガキ、なのだ。それ以上も以下もない。
季節は夏を迎えていた。この席からは校庭の様子がよくわかる。進級当初はまだ黄緑だった木々は、いつのまにか日を重ね緑へとなりつつあった。もう夏なのだ、とはっきり認識させられる。窓から吹き抜ける風は湿気を帯びたこの時期、この地独特の生ぬるい風。嫌いじゃないけど、たぶん住んでいるうちはすきになれないと思う。
鬱陶しい梅雨は幕を閉じ、本格的な夏が始まる。