過剰な自意識過剰は人を殺すのだと
目が合う度に気まずくなった。共に熱い夜を過ごしたと言うのになぜか無性に顔が熱くなる。
それは静音も同じようだった。
雄也の世界にはとある禁忌があった。
暴走魔霊
それはこの世界の住人が最も恐れ、10年に1度必ず訪れる。普段群れない強い魔物や呪霊が人の命を奪っていた。朝日が昇るとその集団は元いた場所へ帰ることでも有名だ。
そして今年はいいや、今夜は…来るのだ。暴走族が…
「本当にくるのか…」
「雄也様も1度は経験なさってるのでは?」
「…」
「どうかしたのですか?」
行っても良いのか…?転生者であること…仮に静音に言ったとしても恐らく状況が変わることはない。なんなら歓迎されることの方が多い。だが稀に歓迎されない作品もある。だからこそ怖いのだ。
「生憎、その日はぐっすり寝ちゃっててさ…」
我ながら下手な嘘だと思う。
「はぁ…左様ですか」ため息混ざりにつぶやいた静音は怪しそうに疑うように顔を除いてくる。
現在時刻は6時半、毎回暴走魔霊は7時頃から訪れる
そう決まっているのだ。
「あと30分ですね。」
「あぁ…」
雄也はこれ以上にない興奮を胸に臨むのであった。
「きたぞぉ!」咬ませ犬のような発言だがこの状況では非常に助かる。
「南の方角だ!全員構えろぉ!」
この国は柵でぐるっと一周しただけの本当に脆い国でこうして戦える者が前線に出ないと全滅があり得るのだ。そして南の方角はひらけた草原があり、それを縁取るように木々が生い茂っていた。
「やるぞ。静音!」
「はい、雄也様…」いつもより少し冷たい声で言い放った静音は暴走族の方に手を銃の形にして、
「壊れて」と小声で囁いた。
すると暴走族はみるみるうちに体がボロボロと崩れていった。
「凄いぞ!静音!」
「身に余るお言葉、感謝いたします。」やはり今日の静音は素っ気ない
もう一度構えたその時
最前線にいた人たち全員がその場に倒れ込んだ。
「…?!」驚いて声も出なかった。怖かった。凄く、だって倒れた奴らが暴走族に変わっていたから。
足が震えた。頭の中で嫌と言う言葉が反芻される
「俺が救うんだ…!静音!」
静音も足が小刻みに震えていた。
もうここには俺たちしかいなかった。逃げても誰も責めはしないだろう。
だけど、「全員殺す!」
俺は主人公なんだ…英雄なんだ!
手に闇を纏い放つ確かに当たった。けれども全然効い
ている様子はない。
ザクッ
自分の首元からそのような音がした。ナイフで刺された。それだけは確かだった。だけど刺さる位置にいたのは静音だけだ。どうしてそんなことをしたんだろうか。
身体中の細胞が腐る感覚がする。何か弾けるように脳が臓器が血が皮膚が肉が、全身が腐っていく感覚には吐き気を覚えた。
そっかぁ…俺も俺もかぁ。俺は主人公じゃなかったのかなぁ。
体は無慈悲にも暴走族になる。
体が本能のままに静音を襲う。
「やめて、やめてください!雄也様、雄也様ぁ!」
静音の肉を噛みちぎる感覚が脳に刻まれた。
(やめろ、やめろやめろ。やめろぉぉぉ!)
頭の中で叫ぶ。だが本能には、逆らえなかった。
「うがぁぁ、いやぁぁ、いやぁぁぁ!」
もうどっだっていい。俺の体がどうなってもいい。だからだから、静音だけは静音だけは殺さないでやってくれよ。止まれよ、止まれ止まれ止まれ止まれ。
俺は俺はぁぁぁ!もう彼女の温もりは亡くなっていた。
これは誰が悪かったのか。やぁお前ら読者よ。
戻ってきたかい?こいつはサタンの力を信じ、全然扱いきれてないのに自意識過剰にも強いと思い込みすぎた。だから無理に力を引き出しすぎて暴走族になった。
と言うわけなんだ。あ、そういえば言ってなかったな。このAnother world共通認識なんだが、自分の心が割れてしまうと暴走族になってしまうんだ。
かと言って最初に暴走族になった奴らはどうして暴走族になったんだろうね。もしかしたら星術者がその理由を語るかも…知らない世界はひと時の期待を宿す。
ただし、期待に見合うかは人それぞれだけどな…




