空間軽便鉄道
空間軽便鉄道
それは空間鉄道法に基づいた超小型輸送軌道の通称であった。
空間鉄道は銀河中に張り巡らされた超光速移動を可能とする半固定空間を利用する移動手段であり、その形態から鉄道を基本にしている。その技術は30億年ほど前に銀河を訪れたとされる超先進文明の残した痕跡から発見された物で、現代においても理論を完全に証明できる者はいない。いないが理論を証明できなくても利用されている技術はいくらでもあった。
超先進文明が何故意図的に痕跡を残したのかは様々な論争があった。あったが、現在ではこの二つが主流である。定期的に『ラ・ムー』と言う情報媒体が取り上げて記事にしているのでお目に掛かることも多い。
1.ブービートラップの可能性。
痕跡を使える者が現れたら確認に来る。
好意的か悪意を持っているのかは不明。
対応
一応悪意を持っている場合に備えて軍備は備えるが
超先進文明に対抗できるとは思われていないし、軍人達も思っていない。
2.消し去るのが面倒だ。
銀河間を平気で渡るだろう超先進文明からすればたいした技術では無い。
この程度の技術なら片付けるのが面倒だとされた可能性が有る。
実際の作業は自動機械にさせていただろうと推測される。
理由としては駅に設置された人用設備が大型の駅でも4人分程度しか無い。
管理するためだろう事は推測できる。
対応
他の有益なゴミを探そうと銀河中で宝探しをしている連中がいる。
空間鉄道は空間の隙間を縫うように軌道が設定されていて複雑な軌道を描いていた。この空間は運用当初人類が識別できる空間では無かった。やがて理論解析が進み、ようやく人類にも何故この空間軌道がこの場所にこの軌道でと理解できるようになってきていた。
軌道は一方通行で同じ軌道を往復で使えない。必ず複線になる。
そして人類が空間軌道の開設に乗り出した。600年前だ。今の段階では人類が自由に設定と管理を出来るのが超小型輸送軌道で路線長50光年。小型で20光年。中型は10光年程度。大型だと精々5光年。超大型だと3光年も設定できない。1光年が限界だった。
地上の鉄道に倣うと超小型輸送軌道が直径4メートルで軽便と呼ばれる。小型は空間直径が7メートルで狭軌と呼ばれている。中型は空間直径10メートルで標準軌。大型は空間直径13メートルで広軌とされている。超大型は超大物輸送用で都度設定される。最大直径は30メートルであった。シュプールバーンと呼ばせようと頑張った勢力もいたが現在では特軌と呼ばれている。
これは駅に停車させるためだろうレールが設置されており、超小型が813ミリ、小型が1068ミリ、中型が1482ミリ、大型が1872ミリとなっている。
空間軌道は直径で表されるように円形断面で角形断面では無いため、実効面積は小さい。直径を変えようと挑むもオーバーテクノロジーの塊であり成功する気配も無い。
運転間隔は最短30分。どの軌道でも同じである。
最大輸送質量は軽便で1便200トンだが車両や運転士などの質量を除くと100トン程度。駅の仕様によるが最大1日4800トンが可能だった。
狭軌で1便1000トン。同じように実効輸送力は1便500トンから700トン程度。1便500トンとしても最大1日2万4000トンにもなる。
標準軌で1便1500トン。実効輸送力は1便800トンから1000トン程度。
広軌だと1便2200トンにもなる。実効輸送力は1便1200トンから1600トン程度。
特軌は1便2万トンとされているが特軌は運転が別扱いであった。
ただ同然のエネルギー単価でこの輸送力。
超先進文明が開設した軌道には超先進文明にとって有用な惑星や星系が多数在ったであろうが、人類にとって有益かというとそうでない惑星や星系も多い。人類が自力で設定した軌道は人類にとって有益な軌道しかない。
勿論超先進文明の設定した軌道に接続も可能だ。接続点は多く、各所の駅で分岐・集約している。
人類にも超光速技術は有ったが、初期費用は掛かるものの空間軌道の方が早く安く大量に輸送できた。コスト差は数年から数十年で回収でき長く使うほど差が出る。どちらを使うかは考えるまでもなかった。駅の設置にはてこずるが、駅で動力を加えれば軌道は維持できた。軌道と駅を運用維持するのに必要な動力は無限とも言える太陽エネルギーを利用する太陽電池で賄えた。そして超先進文明の軌道は全て恒星系に駅が設置されていた。ただ太陽系にすると水星軌道の内側に駅が設置されている事もあった。
そんな空間軌道が人類にも開設できるようになって400年ほど経った時代の惑星カナルクル。
超先進文明の軌道が無かったこの惑星は人類が自力で発見し開発した。当初は宇宙船による開発だったが、惑星開発に高い有用性が見られるとして空間軌道が開設された。
ただ、結節点の惑星ドロコニア軌道駅から30光年という距離の問題があり開設されたのは超小型軌道。いわゆる軽便だった。中継点を作るにしても標準軌とまで行かないが狭軌でもコスト的に釣り合わないとされ、直通できる軽便相当の超小型輸送軌道になった。30光年は駅間だが通常10時間で連絡された。
惑星の人口は18億人。一つの惑星としては平均より多い方である。30億人を超えれば狭軌に格上げされるかもしれない。
その惑星が内戦になった。経緯は良く有る支配階級と被支配階級の衝突だ。
銀河連合が間に入り停戦させた。原因を調べると支配階級が一方的に搾取し利益を独占する構造になっていた。銀河連合による停戦は銀河連合の戦力不足で支配階級に破棄され、現在戦闘中であった。支配階級が一方的に銀河連合からの独立を宣言したのだ。
広大な版図を持った銀河連合は、その戦力が版図に対して小さかった。余りにも広すぎて戦力を適正に配置出来ないというのが実情であった。
そして反乱独立勢力は多い。いくつかの星系社会では成功していた。それが余計に独立反乱勢力に謎の自信を持たせてしまっていた。
支配階級はレゲスタと名乗っている。支配階級の頭文字を組み合わせた品の無い名前だ。とても良く有る。何故こういう奴らが次々と出現するのか。学者は理屈をこねるが人の心は理屈では無いということだろう。
銀河連合が戦力を送るには宇宙船か空間鉄道しか無いが、近場の基地からだと空間軽便鉄道が逸早く戦力を送り込めた。
惑星ドロコニア。銀河連合軍基地。
『各員、装備を確認せよ。これが最終確認になる。忘れ物をしても取りに戻れないぞ。そんな間抜けはいないと信じているがな』
先任曹長の声がヘッドセットから聞こえる。これで4回目だ。さすがにいなかった。3回目にやった奴は笑いものになっていたが。
今度は突入部隊小隊長の声が聞こえた。部隊と言っても50名の小隊だ。
『総員傾聴。これより惑星カルナクルの治安維持行動へ出動する。出動に先立ち基地司令からの訓示がある。静聴せよ』
『これより貴部隊は惑星カルナクルの治安維持行動作戦に出動する。現地の作戦行動は頭の中にたたき込まれていると思うが不測の事態もある。けっして狼狽えること無く行動できると期待している。・・・・・・・・現地での作戦目的は現地勢力と協力して橋頭堡を確保することだ。では最後に。いいな、死ぬな』
少し?長い訓示が終わった。そして搭乗1時間前にドロコニア衛星軌道上の駅にいる。
『総員搭乗』
先任曹長の声が聞こえた。
俺たちがパワードスーツで乗り込んだのは空間突撃列車。空間突撃列車というのは、要するに強行突入専門の装甲列車であった。目標地点の駅を突破して自由空間に出てから目的地に自力で突入するという気の狂った列車のことだ。
ただ、こいつは軽便鉄道規格で小さく狭い。おまけに輸送質量限界が低いので運べる総質量も小さいし装甲も薄く固有武装もショボい。だが軌道速度と軌道外での飛行性能などは特別製で標準軌の奴と変わらない。
要するにやばい場所に放り込まれる突撃列車の中でも最悪な代物である。さらに最悪なのは俺たちが最初に突入する部隊だということだ。これ以上悪い状況はそうそう無いと思う。
この列車、車内は単列で乗り込む。パワードスーツがデカくて並列に乗れないのだ。先頭車両は操縦員と指揮官が乗る。4人乗りだ。3号車以降が兵隊さんの乗る車両だ。1車両に1個分隊10人乗る。7号車には重装備や各種補給品が積まれる。2号車と8号車は武装車両だ。都合8両編成の細長い列車になっている。
パワードスーツが車両に固定された。これでもう手足以外は動かせない。この体勢が現地到着する6時間後まで続く。手足を動かせるのは体が固まらないようにだ。要するに6時間後に俺たちは列車から放り出される。列車が撃墜されなければ。人間が内部に収まるタイプのパワードスーツの自立行動可能時間は100時間だ。その間内部環境は維持される。出たときには相当酷い事になってはいるが。ま、宇宙服の超ゴツい奴だと思ってくれればいい。
『カルナクル駅突破1時間前。各自最終点検をせよ』
『30分前』
『10分前』
『5分前』
『御不運前だろ』
『『『『『ウワッハッハ』』』』』
『誰だ馬鹿野郎。静かに出来ないお子様か』
先任曹長の声が怒っている。だが笑い声の方が大きい。先任曹長の声も笑いが含まれていた。
緊張がほぐれたかな。
『1分前』
『30秒前』
『耐衝撃姿勢を取れ』
『10秒前』
『5』
『4』
『3』
『2』
『1』
『0』
空間突撃列車は激しい衝撃と共に駅を突破して通常空間に出た。目の前に惑星カルナクルが見える。ディスプレイ越しだけどな。
激しい迎撃が始まった。対小型機ミサイルなら耐えられるが対艦ミサイルだと無理な空間突撃列車軽便版だと不安すぎる。ビーム兵器は対ビームシールドも有るしECMで照準も困難な状態なので余り心配していない。余りな。照準誤差は酷いが光学照準で追ってくることも出来る。ミサイルは画像で追尾してくるので厄介だ。
先に武装列車を投入させればいいじゃないか、と思うのはもっともだが駅を突破すると駅と路線の再構築に数時間かかる。その間に何があるか。なら始めから歩兵部隊を突入させて制圧または橋頭堡を確保させることになっている。
空間突撃列車を激しい衝撃が襲う。
『4号車被弾』
喰らったか。無事だといいが。
数回衝撃が続き、
『対ビームシールド崩壊』
『2号車被弾。10号車被弾。ミサイル迎撃困難』
そして、
『被弾の影響で目的地まで持ちそうに無い。不時着する』
目的地まで歩きか。
『不時着するぞ。衝撃注意』
手足を縮めて丸まる。パワードスーツでも耐衝撃の基本は同じだ。
激しい衝撃と同時に天地が回る。下手な不時着だな。オイ。次があれば、お客様にもっと優しくを望む。
ともあれ、俺たちの部隊は惑星カルナクルに降り立った。戦友は幾人か減ってしまった。
『警戒態勢を取れ』
『点呼』
『各自装備点検』
様々な指示が飛び交う。
俺たちの戦いはこれからだ。
超古代文明が設定した路と言えば、堀晃著「バビロニア・ウェーブ」というハードSFの名作があります。是非ご覧になって下さい。
鉄道と言えば佐久間レールパークに初めて行ったのは閉館の前日。それもサイクリングしていたら道の駅花桃の里で知人に会って今から車で家族で行くと聞き、向かった次第。ロードレーサーでです。
面白かったですね。レールもいろいろ展示されていたし、新幹線のタイヤも車軸ごと展示されていました。生女子大生の歌う銀河鉄道999も良かったよ。サクマのドロップも買ってきました。
地元には遠鉄奥山線(軽便鉄道)の後が歩道になって残っている所も多く、奥山には橋脚跡も有ります。
未成路線である佐久間線の後も結構ありますよ。トンネル跡はワイン貯蔵庫にも使われていたり。橋脚が残っていましたが歩道橋として天竜川を渡る橋に転用されていたり。