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8話〜入学〜


 8話〜入学〜


 山奥にポツりと聳える四角い箱。一見何かの工場や施設に見えるだろう。だがその実態は学園。なんの変哲しか無い箱、これでも学園である。


「ひっろぉ。」


 俺は今体育館にいるらしい。豪華な内装、天井のシャンデリアに紅い絨毯。目の前には大きな校章が描かれたカーテン。それらを纏う木の壁。赤、金色の第一印象が入ってくる体育館。というかコンサートホールの様だ。ここで今から入学式らしい。

 周りを見ればすごい奴がたくさんいる。先頭の列にいるのは競技に出てたり、元プロだったりするストリーマー達。


「すげぇ、本物だ。」


 競技に出てたりすると顔が公開されている事が多いから、現実でも誰が誰だかわかる。それに大会様のユニフォームやプロチーム、スポンサーのロゴの入る服着てる奴が大半だから分かりやすい。まじで競技組ともやれるのかな。


「あそこにいる奴らも分かりやすい。」


 その次の列に居るのが事務所所属組Vtuber達だ。それぞれがLive2Dのイメージの色の服を着ているから分かりやすい。それにそれぞれの箱ごとに分かれて並んでいるからなんとなくイメージしやすい。ブイカノの列を見ると讃絵さんらしき頭の人がいる。


「って事は横にいるのが。」


 金に翡翠色のグラデーションの髪色の人。あの人が天使さんか。

 そしてその後ろの列がグループストリーマー系の人達。非プロのゲーミングチームや配信者の仲良しグループなど。顔出してる人も居るから分かるな。


「うわ、あれBBHの大会MVPのsupさんだ。」

 ※BBHとはビーストバレットハンターの略。猛獣だらけの世界でハンティングポイントを競うゲーム。※

 ※sup、アマチュアでありながらプロもいる大会でMVPを取ったプレイヤー。BBHの全11シーズン全てで最高ランクに到達している。※


 そしてその後ろの列。俺が並んでいるのは、個人勢の列だ。とにかく無所属のやつらVtuberとかの括りも無い。


「総勢何人いるんだ?」


 俺がここに来てから発した言葉は、周りに聞こえないくらいのボソボソである。だが、


「ねぇ、貴方先程から何を言っているのかしら?」


「へえ?」


 突然横の女の人に話しかけられた。


「え、いや、すごい人いっぱいだなぁって。」


「へえ?貴方誰かしら?」


 こいつ質問するだけして答えずにすぐに次の問かよ。図太い奴だな。


「はい?」


「自己紹介なさい。」


「はっ?え?は?」


 我ながら吃ってんのきもい。


「私が自己紹介なさいと言っているのよ。早くなさい。」


 なんだ、このお嬢様喋りの野郎は。


「えっと、個人ストリーマー?配信者?のakaiです。」


「個人なのは知っていますわ。そんな事。」


「はあ。」


「何故登録者と最高同接数を言わないのかしら?」


「はい?」


「名前なんてどうでも良いですわ。私が知りたいのは貴方が私を脅かす程の数字を持っているか否かですわ。」


 何を言っているんだ。


「えっとお恥ずかしながら。」


「大丈夫ですわよ。10万?20万?私には及びませんが、そこまで恥ずかしがる事じゃ無いですわぁ。」


「えっと、登録者200人弱で最高同接数は2000人ですかね。」


「も、もう一度言ってもらえますか?」


「だから登録者200人最高同接数2000人だって。」


 明らかに動揺した表情の目の前の女性。


「そ、そんなゴミカス底辺野郎でも呼ばれるんですのね。」


 口悪いなこの人。丁寧なのか粗雑なのか。


「失礼しましたわ。お口が悪くなってしまいました。」


「はあ?」


「そ、それにしても、どーゆー事ですわ?こんな底辺実況者と私の様なトップVtuberが同じ列。はからずしも屈辱ですわ。」


 っとものすごい小さい声で呟いているが、隣の俺には。


「聞こえてますよーーーって。」


「え、あら聞こえてましたのね。」


 Vtuber組は誰が誰だか初見じゃわからないが、こいつは直ぐに誰がわかった。この喋り方、それに似つかぬ口の悪さ。自信家な性格に数字ジャンキー。「英和那 美姫(あいわな みき)


「思い出しましたわ。」


 目の前の女は頭の上にピピーンとびっくりマークを浮かべる様に何かを思い出し。


「あなたこの間讃絵コウとrigるとコラボをしていたakaiという個人底辺ストリーマーでは無いかしら?」


「いや、だからそうだってって、」


 こいつなんでコラボしていたことを知っているんだ。


「なんでコラボとか知ってるんですか?」


「あら、私の事を舐めないでもらえますかしらぁ。」


 すると英和那は頭に指をトントンと突き立てる素振りをして、


「活動者の情報は全て頭に入っていますわ。まあ敵情視察の様なものでしてよ、少しでも話題に上がればいち早く観に行き確かめる。そして一度観た情報はけして忘れませんのよ。」


 怖い。人生配信に賭けているのだろう。でも怖い。恐ろしい女だ。関わらないでおこう。


「それにしても私が、英和那美姫という事を気づいておらっしゃるでしょう。」


「ああ、まあ。」


「おかしいですわね。私の情報では、人と話すのがクソほど出来ない陰キャ野郎とインプットしていましたのに。私にはタメ口が多い気がするのだけど。」


「口悪いな。」


 簡単な話だ、無礼な奴には無礼で返す。気を使う必要もない。わかっている、全ては自信の無さと気を使うことが、俺の会話能力に邪魔をする。どう思われてしまうのかって。だからこういう手合いには、


「陰キャって言うなよ。」


 話しやすいのだ。


「まあ、よろしくと言っておくわ。」


「あぁ、よろしく。覚えておいてやるよ、その顔。」


「あら、覚えておく?あまりのこの美貌に、お前の脳みそは記憶を余儀無くされる、私を覚えられる事を光栄に思うんですわー。」


「何を言っているんだ。」


「あなたは私に覚えられる器ではないかしらね。」


「うるせぇな。」


「ま、寛大な私は覚えて差し上げますわ。」


「ありがとうと言っておく。」


「そろそろ式が始まりますわよ。あかいくん」


 英和那さんがそういうとホールの電気が消え、壇上の照明が光、男がその光の下へと立つ。


「あー、あー、えー、これを観ているオーディエンス。そして今から入学となる生徒の諸君。私が校長の「ガルガンチュア」だ。」

 ※ガルガンチュア、プロゲーミングチームセルリアン代表にして「LAVLLOW」の国内トップのプロゲーマー。※


「今から始まるストリーマー学園は、様々なゲーム、様々な配信者が関わる、おそらく史上最高のエンタメだ。」


 そうして、ガルガンチュアはストリーマー学園という企画の事を話し始める。一大イベントを起こす計画として立ち上がり、特設チャンネルで現在入学式を配信中ということ。


「現在、このスト学専用チャンネルでの全体ライブ配信の同時接続数は256万9623人。うん、舞台は整ったね。」


「同接260万人でスパチャON!ヤッベェですわぁ。」


 横で騒がしい奴がいる。お前の方がヤッベェですわ。

 ガルガンチュアはマイクを手に取り、一歩前へ出て、こう言う。


「ストリーマー学園入学式を挙行する!」


 そこから話されるのは、関係企業、ゲーミングチーム、などなど。そして多数のスポンサー達。


「と、こんな所でいいだろう。では今からストリーマー学園の大まかなルールを説明する。」


 ガルガンチュアは手元のリモコンを操作する。すると壇上に大きなスクリーンが現れて、映像が映る。


「このイメージ映像と共に説明を行う。」


 打ち上げの時rigるさんに教えてもらった内容からなんとなく予想していたが、実際はどうだろうか。


「まず、基本的に学園に入る君たちは学園寮に入ってもらう。学園敷地内に存在する寮だ。基本授業は自由。教室があるにはあるが、クラスのコミュニティスペースの様な使い方、そこで座学的授業はしない。毎日好きな時間に学生寮の自室から配信活動を行ってもらう。これは自分のチャンネルからの配信だ、配信サイトの指定もない。ただ寮に入るだけで普段と変わらないと思ってくれ。」


 ここは聞いていた通り。授業という名目で配信を好きにしろって事。


「ただし、月に一度テストを行う。生徒全員を対象にしたテストだ。内容はその時々で様々用意する。基本的に毎日配信、月一テストを繰り返す。」


 「テストってゲームかしらね。腕前で評価ではゲーム特化配信者の方々に部がありすぎるのよ。」


 横で英和那さんがそう言葉をこぼす。確かにそうだ、一概にゲームの腕では格差がある。


「おそらくゲームの腕によって決まってしまうなら不公平な気がすると思うものが多いだろう。だが、この学園では成績を総合的観点から付ける。もちろんゲームの成績や腕前、同接、注目度、などなど配信者としてより優れている観点の多いものは、それなりの成績がつく。」


 rigるさんの説明だけではわからなかったが、そういうことか。ゲームの腕がいいから成績が上がるわけじゃない、入学前の登録者が多い人はそれだけ最初から有利だ、なぜなら同接と話題声の二つの観点で差をつけられるのだから。だからrigるさんは無名の俺に試練続きと言ったんだ。

 そう考えていると新たな情報を話し始めた。


「この学園の敷地内には様々なものが揃う。公共施設から住宅街などまで。そこでの生活だ、外界と変わらない生活ができる。」


「あら、そんな施設を用意した所で、クソ陰キャストリーマー引きこもりどもが外に出るのかしらね。」


 ごもっともすぎる。


「次にレベルとクラスの制度の話だ。自身の成績やらなんやらをもとに上がっていくのがレベル。これは最初は皆レベル1だ。ゲームっぽくていいだろう。それとは他にクラスがあるまあランクみたいなものだね。成績がいいとクラスが上になり、よくないと下がる。A〜Eクラスの構成だね。よくアニメにもある感じ。」


 レベルは個人の入学からの努力の数値、クラスは世間からの評価を元にしたランクって感じか。


「そして今日この場で、現在入学時点の能力による独断と偏見で学園がわけたクラス発表をする。時給した学園内専用のスマホに自身のクラスを送った。時給したスマホは学生証の役割と普通に私生活を支えるスマホの役割があるから大切に。」


 俺のランクはどうだろう。そう言って入る時にもらったスマホを付ける。どうやら周りも確認している様だ。

 

 俺のクラスは「E」か。まあ、そうだとは思ってたよ。


 話題声があまりにも周りより低いからな。こうなると横の人が気になる。


「なあ、クラス聞いていい?」


 そういうと英和那さんはこちらを向く。向いた瞬間もう顔がニヤついていた。


「その顔って事は。」


「ふふーん!もちろん、Aクラスですわぁーーーッ!」


「流石400万。」


「あなたはEですの?」


「ああ、」


「お互い頑張りましょう。」


 そう言って握手を求めてきた。


「あれ、こう言う時はバカにしてくると思ってたんだけど。」


「私がバカに?私は人をバカにしたりはしませんのよ。」


「嘘つけ。」


「私が先ほどあなたの数字を驚いたのは、決して人気がない者をバカにしたくて行ったわけではないですわ。」


「はあ?」


「この企画に呼ばれる者は人気な者が多い。当然人気のない無名を読んでもリスナーは湧かないからですわね。それでも呼ばれている。あなたはあんなに低い数でもなお呼ばれている。」


「うれしくないな。」


「つまりは、なにか数字を超える突出した何かがあると言う事、バカにするどころか警戒していましたのよ。」


「本当かよ?」


「まあ、それとは別に私との数字の差で横に並ぶのはどうかと思いますけどね。」


「バカにしてるのか褒めてるのかよくわからん奴だな。」


「ふふん、警戒していると言ったではありませんか、だからこそよろしくと。これから研磨し合いましょうあかいくん。」


「まあ、はい。俺だけ削れまくって、あなたはピカピカそうですけどね。」


「ふふん、そうなったらそうなったで私が美しいのは不動という事ですわぁぁ。」


 どんなことでもポジティブに返してくるのは素直にすごい。おそらく学園最高の数字を持つ女と学園最低の数字を持つ俺の共演に波乱の空気を感じる。これからどうなるのか。

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