7話〜打ち上げ〜
7話〜打ち上げ〜
「今夜私がいただくのは〜、生ビールです。」
「頼むもん頼んで乾杯と行くかぁ。」
俺は今居酒屋にいる。居酒屋陸路、駅のすぐ近くにある路地を少し進むとある、風情のある居酒屋だ。
結局rigるさんも合流し、讃絵さん、rigるさん、akaiによる、打ち上げ会が始まった。どうやら讃絵さんが個室の座敷を予約していたらしく、落ち着きのある部屋で三人、テーブルを囲んでいる。rigるさんが卓上の注文スイッチを押す。するとすぐに店員が個室に入ってくる。
「ご注文伺います。」
「生ビール、ジョッキを三つで。」
「あ、自分ビールはいらないです。」
「あれ、そうなんだ。」
「コーラを一つで。」
「はい、伺いました。生ビールジョッキ2のコーラ1ですね。」
「ご注文は以上ですか?」
「じゃあ、肝焼きと、この焼き鳥盛り合わせで。」
「いいね、焼き鳥。あー、あと生牡蠣ください。」
「はい、伺いました。肝焼き、焼き鳥、生牡蠣ですね。」
「それで以上で、」
「はい。」
そうして店員は出て行った。
「にしても、ビール苦手だった?ごめんね確認せずに。」
「あ、いや苦手かわからないです。」
「ん?」
「いや、僕まだ未成年です。」
「え、未成年!?」
rigるさんも讃絵さんも驚愕の表情を浮かべる。
「そっか個人勢だもんね。未成年でも活動できるか。」
「そーっすね。」
「今いくつ?」
「19です。大学一年の歳ですね、本来なら。」
すると讃えさんがジト目でこう問いかけてくる。
「大学行ってないの?」
「んー、えっと、活動が忙しくて。」
「あー、察し。」
微妙な表情で察してくる讃絵さん。
「じゃあやっぱ活動に時間割きたい感じか。」
「えっと、実際ダラダラしてばっかで、活動の為に行けない程忙しくは無いんですけどね。」
「ニートだ。」
揶揄うように讃絵さんが口を挟む。
「ひどく無いっすか。」
「なんか二人とも仲良くなったね。あれから冗談言い合える仲になったのか。」
冗談言い合うってより、讃絵さんが一方的に話題を振ってくれているだけだ。それを返している。それでも、少し讃絵さんが前よりも揶揄って来たりする。やっぱり、さっきまでやってた配信で距離縮まったかな。
それから色々なことを話した。主に讃絵さんとrigるさんが。どうやら讃絵さんもよく大学をサボっていたらしい。なんだよ、と思いつつも色々話を聞いていた。お酒が進み、案外色々不満に思っていることなんかも話始めたりしていた。そんな感じで約3時間経った頃。
「そー言えば、スト学にakaiさんも呼ばれたらしいですよ。」
と、いきなりスト学の話をする讃絵さん。
「あーね。スト学ね、俺がakaiくん推薦したからね。」
「そーなんですか?ってそっかrigるさんスポンサーのチームですしね。」
なんて驚きのあまり久しぶりに俺が発言する。
「そーそー、だから精々盛り上げてくれよ。スナイパー使いくん。」
「頑張ります。」
招待したと言う事は運営側?色々聞いてみようかな?と思っていると、同じことを考えたのか讃絵さんが先に口を開く。
「ぶっちゃけスト学って何やるんですか?」
「ぶっちゃけだね。えっと、詳しくは言えないけど、教えられるとこは全部教えたる。」
「やった!」
「まーまず、今回の大型配信番組の企画として設立されたのがストリーマー学園。学校型の施設になっていて、参加者はそこで寝泊まりを行う。通常の授業日は各教室、各部屋で普通に配信活動、でも定期的にテストを行っていく。そのテストの結果に応じてランキングが付く。基本的にランキングを巡ってテストを重ねる。そんな様を、ストリーマー学園と言う番組でネットに配信する。それがストリーマー学園。」
「一応招待状にある通り、エンターテインメントなんですね。その舞台としてゲームで競う学園と。」
「まーゲームが全てじゃ無いけど、そーゆーこと。」
「ゲームの学園ならやっぱ普段のスクリムと一緒でゲーム上手い組が輝くのか。うええぇ。」
「いやぁ、そんな事ないよ、ゲームが全てじゃない。あくまでゲームはランクを測る為の物差しの一つでしか無い。」
「ん?」
「これだけは言えるけど、akaiくんには試練続きかも知れないね。とだけ。」
「「ん?」」
っと俺も讃絵さんも困惑である。
「二人でん?ってしないでよ。」
「もーrigるさんわかりずらいー!」
「まあ、始まれば分かるから。」
そこから少し話を繰り返し、解散という流れになった。
「んじゃ、二人とも若いんだし気をつけて。」
※路地裏で怖い人多い、近くはラブホ街※
「はーい、ありがとうございましたー。」
「お疲れ様でした。」
rigるさんのイケてるジャケットを着たかっこいい背中を見送る俺たち。
「では、俺も帰ります。」
「あーかいくん。待って。」
服の裾を掴まれる。
「はい?」
「この後もうちょい遊ばない?」
「え、二人でっすか?」
讃絵さんはムッとした表情をみせて、
「二人はダメだった?」
と、言って腕を組む。
「いや、二人がダメってより、いいのかなって。」
「あー、いいよいいよ、気にしすぎ。」
「はい…」
それにしても、二人か。女の子と二人で何処かに行くって、初めてでは無いけど、俺の人生にとってかなりレアなイベントだ。そもそも女性Vtuberとオフで会うってのも激レアイベントだってのに。
「あの、どこに行くんですか?」
「電気屋。」
「電気屋って、あー、MMO買いに行くんですね。」
「そー、もともと今日買う予定だったんでしょ。」
「そうですね。」
近くの電気屋に行ってMMOのゲームタイトルを2本買った。さらに「virtual diving」というゲームハードを買った。帰って早速やろうと思い、気持ちが浮き足立っている。※virtual divingとは、フルダイビングゲームハードのこと。わかりやすく言うならナーブギア。※
今日疲れたけど、楽しみだし帰ってやるかぁ。久々にFPS以外のゲーム買ったなぁ。しかも世界初の一般用フルダイビングゲームハードだ。今日は最高の日だ。
「ずいぶん楽しそうね。」
「そうですか?」
「うん、わかりやすくうかれてるよ。」
「子供っぽいんですけど、新しくゲームを買うとテンションがぶち上がっちゃって。」
讃絵さんは口角を上げ、ニシシッ!っと笑い。
「子供っぽいねw単純。でも私もそう。」
「やはり、全人類新しいゲームは浮かれるって事っすね。」
電気屋を出て二人で駅に向かい歩いている。暗い夜道になる時間帯、だがここは駅の近く。様々なお店屋さんが並ぶ街である為、とてつもなく明るい。そんな活気に溢れた道を歩いていると、讃絵さんが話を振ってくる。
「ねえ、スト学入ってからでいいんだけどさ。今度コラボしない?」
「え、いいですけど。rigるさん入れてですか?二人ですか?」
「いや、私紹介の子を一人メンバーに入れて三人でしたいの。」
「え、知らない人か。どーしよ。」
思わず微妙そうな反応を声にしてしまった。基本的に人と関わるのが苦手な俺はコラボをしない。讃絵さんと何故か結構仲良さげになっているが、実際無理をしている。讃絵さんはすごく良い方だ、話しやすいし聞き上手だ。多分配信者ってみんなコミュニケーション上手いから普通なのかも知れないが、讃絵さんはすごい。だからそんな上手い讃絵さんだから奇跡的に上手く言ってはいるが。讃絵さんと話すのですらかなり頑張らないといけない俺には新しく知らないやつとゲームなんて無理だ。野良VCの適当な奴とも違う。どうもこんにちはよろしくってやってやる会話。それも気を遣って、頑張って話を広げたりして、機嫌とって、なんて難しいことを考えてしまうし俺には出来ない。
「だからコラボはきついかもな。」
っと讃絵さんに聞こえないくらいの小声で呟く。
「そーだよね。やっぱakaiくんにはむずいよね。」
「んん、すません。」
「少し話していい?」
「はい。」
「私と同じ箱にさ、「天使 天」って子がいるの。」
「あーなんとなく知ってます。確か同期の…」
「そう、私と同期の同じ四期生。」
「だいぶ前の大会で優勝してたっすよね。ソロカップ。」
「そう、私よりも何倍もゲーム強い子。」
「でもその人って。」
「そう、この前まで炎上してた。」
「そうっすよね。」
「本当にごめん。もう本当のことを言う。すごいお願いをするから無理なら容赦なく言って。私ね、君みたいなた立場の人を探してたの。」
「引きこもりって事っすか?」
「いや、違う…」
「っす。」
「私はそらを救いたい。今活動はスローペースで一人でやってる。炎上後にどう配信を再開するか、周りとどう接するかって大事なの。だから今誰ともコラボして無い状態。今回の件、そらはそんなに悪く無い。だから復帰の仕方さえミスらなければどうにか元に戻ると思う。けど今元気のないそらがダラダラ配信をスローペースでやってても、誰も見にこない。視聴者にそらの炎上を感じさせない、頭から忘れさせる雰囲気の配信を繰り返すことが大切。活気のある配信、切り抜きでの良いリアクションが欲しい。やっぱコラボってその辺すごく良い。上手く楽しいコラボ配信の姿を見せられれば、炎上後も周りとも気まずくない、良い雰囲気だと思われる。すごく悪いことをした人なら開き直りだと思われるけどね。印象の良い人達の態度は正当化される。周りのコラボ相手が、そらは悪く無い、大丈夫この人とコラボは変わらずして行くって態度を見せると、視聴者の脳内から、疑念が薄れる。だからコラボで上手く復帰させたい。ついでに楽しい配信でそらを勇気づけたい。」
「讃絵さんがやれば良いじゃ無いんですか?」
「そう、なんだけど、私は同期だし、裏でも仲良いから。」
「確かに効果薄いかも。関わりがそこそこ、もしくはあんまり無いやつとでもコラボ出来る。何故なら炎上の理由的にさほど問題ないからだってとこを見せたい。」
「そー言う事。」
「なるほど、悪い奴っすね。讃絵コウは。」
讃絵さんと関わりのある配信者は皆そこそこ有名。もしミスをしてまた炎上かなんかをする、もしくは話がぶり返される事があったりしたら、そのコラボ相手に迷惑が掛かる。だか俺は超底辺、ダメージなど合ってないようなもの。だからローリスクローリターン。だか最悪をケアすると俺みたいな底辺配信者を使いたい。けどそれ目当てで急に知らん底辺と関わるのもおかしな話。それはそれで問題だ。だらか讃絵さんは待っていたのだろう。自然に関わりが出来て、自然に仲が深まる、底辺配信者を。
「そうだね。ごめん。でも今日打ち上げに誘ったのも、昼間ゲームしたのも、そう言う魂胆の元って訳じゃない。」
「言っても無駄ですよそういうのは。」
「そうですよねぇ。」
讃絵さんは俯き諦めた様な態度である。
「やりますか、コラボ。」
「へっ?いいの?」
「はい。俺に被害無いですし。」
「で、でも。」
「正直、炎上云々より、話すのキツい問題の方が俺にとっては深刻っすね。」
「じゃあなんで?」
俺は最近変わったと思う。むかしならこんな事引き受けるなんてありえない。そもそも讃絵さんとだってこんなに関係は深くならなかっただろう。苦しい、辛い、過去の経験が俺をそう叫ばせる。それでも変わろうとしている。讃絵さんの陽キャ具合に影響されたのかな?我ながら気持ち悪いな。
「俺も、人と関わる良い機会になりそうですし。それに、今シーズンランクまだ低いんで、強い人とやってちゃちゃっと上げちゃおうかなって。」
讃絵さんは呆気に取られた表情をするがすぐに変わり、
「そ、それって私はあんまり強く無いからもっと強い人を入れたいって言ってない?」
「え、いや、そんな。」
「ちょっと?」
「そっちも利用しようとしてたみたいなことしてたんだから、言えないでしょ。」
その後も少しやり取りをしてその日は解散となった。スト学入学まで後数日。