5話〜デュオゲーム(2)〜
5話〜デュオゲーム(2)〜
讃絵さんとのデュオが始まって1時間。俺にしては女の子と二人きりでのゲームと言うのに、上手く話せている気がする。
「akaiさんはストリーマー学園に招待されたんですか?」
「はい、招待されましたね。」
「え!そうなんですか?てっきり大型の箱とか有名な人が招待されているものだと思ってたので。以外!」
「うっ、正直っすね。」
「akaiさんは気を遣われてる様な話し方をされた方が気まずいのかなと思って。」
その通りだ。相手に自分なんかが気を使わせていると思うのも嫌だし、気を遣われていると喋りにくい気がする。
不思議と讃絵さんは話しやすい。俺がどう感じているかを考えて、意識的に素直に喋ってくれている。でも失礼やグイグイと距離を積める感じがない。流石はVtuberというところか、人と話す技術が上手い。
※実際はコウが振る話題に当たり障りのないことを答えているだけ。akaiの会話の基準は低い。※
「ありがとうございます。そっちの方が接しやすいです。」
「良かったです。」
その声は配信で聴く様な綺麗な声だ。でも少し違う、声を張らずに喋っている声、自然でオフの雰囲気だ。
「なんかラッキーな気分です。」
「何がですか?」
「讃絵さんがオフのテンションでやってるので、配信外感があって。リスナー達はあまり見る機会の無い讃絵さんを見れてラッキーです。ファンの人に殺されそうっすけど。」
讃絵さんが接しやすく話しやすいおかげか、素直に話す讃絵さんに釣られたのか、俺は思ったことをそのまま声に出す。
「え?ファンww?」
「いや、違いますよ。あ、違うって言うとあれですけど、そのこっそり配信見てたんですよ。」
「え、ちょ、ほんとに?」
「はい。この間のセンスさんとのデュオも観てました。」
※センス、超人気の大型Vtuberプロジェクト「プロジェクトブイシング」に所属する男性Vtuber。
「いやぁ、同じ配信者の友達に見られるの恥ずかしいな。」
「ん、」
いま、友達って言ったよな。この人の友達基準はどうなっているのだろう。ゲームを一緒にやったら友達なのか?喋ったら友達なのか?それは流石に陽キャ過ぎない?その基準で行くと、よく当たる野良の暴言厨も友達って事になるぞ。
「ん?どうかしました?」
微妙な反応を返したせいか疑問に思われてしまった。
「いえ、なんでもないです。」
1時間くらいが経った。かなりゲームの調子も上がり温まってきた頃、讃絵さんがある提案をする。
「配信つけないですか?」
「配信っすか?いいですけどいいんですか?」
「え、ダメなことあるの私?」
「はい、配信に支障が出るかなって。あ、@1誰か呼びます?あ、でも俺の知り合いって居ないしな。rigるさん?夜まで予定がとか言ってたよな。」
「え、なんで@1?集めるのも面倒くさいのでデュオでいいですよ。野良ありでもちょいちょい盛れてますし。」
「あ、いやその、俺とデュオの配信はいいのかと思い。」
讃絵さんは大人気Vtuberだ。俺の様な底辺はたまたまチームになっただけで、普通接点はない。他企業のVtuberやプロとならいいだろう。でも俺は個人の男配信者、さらに極めて小規模チャンネル。コラボのメリットもないし、ましてデュオなんて特に仲良い人同士でしかやらない様な配信だ。
「あー察した。akaiさんってそーゆータイプね。」
ん、まずいなんか反応悪くない??讃絵さんが明らかに呆れてる様な声を出してる。
「確かに私の方が人気あるけども、akaiとコラボしてデメリットは無いし、自己評価低いですよ。」
「よく言われます。」
「もー、いいから配信付けますよ私は。」
「はい、了解です。」
「あと、私は敬語取っていきますね。」
「距離の詰め方エグくないっすか?」
「私たち練習スクリム、本番スクリム、その後のお疲れちょい延長配信、そして今日、合計で約15時間以上一緒にゲームやってますよ。」
「あら、随分やってますね。」
「あらじゃ無いですよ。もう敬語くらい取っていい中だと持ってたんですけど、ダメですか?」
少し悲しそうな声でそう言う讃絵さん。慣れている言い方な気がする。
「言い方がずるい。これが大型Vtuberか。」
ファンの前でこんな態度取ったら、コウ姫からの申し込みを拒否するとは、万死に値する。ていって殺されそう。
「もちろんakaiさんも取っていきましょうね。」
「敬語?ですか?」
「もちろん。」
「了解っす。がんばります。」
そこからも、慣れない会話を頑張りながら数時間が経つ。自分から話題を振っている訳ではないが、それでも受け答えを必死にした。結局敬語を取ることは難しかった。慣れない。
やはり苦しい。人と喋るのも、合わせて会話するのも、どう思われているかわからないので気を遣って喋る。本当に人とゲームをすればする程、ソロなんだと実感する。
「どーもータタエヨー。」
「ゲリラ助かる」
「夕方配信レアだね」
「あれコラボ?」
「待機」
「挨拶適当w」
「間に合った」
「いきなりびっくり」
「待機」
「暇だったから助かる」
讃絵さんが配信を始めたので自分のスマホで讃絵さんの配信を開く。するとゲリラだと言うのにものすごい勢いでコメントが流れ始める。配信が始まってまだ数分だと言うのに、俺の最大同接を超えている。これが企業か。
「そーそー、コラボコラボ。」
讃絵さんと言葉に、コメントが反応する。
「誰と?」
「センスとじゃね」
「かわいい」
「閃光コラボきたか?」
「コラボコラボーw」
「あーみんなセンスじゃないよ。閃光デュオはまた来月。」
※センスとコウのコラボ名。センとコウを合わせてセンコウになり、それを漢字にして閃光デュオ。※
「今日はね。akaiくん。」
「なんであかい?」
「あーこの間の大会の奴か」
「うらやま」
「くん呼びけしからん」
「仲よくなったのか?」
「楽しみ」
「でたあかい」
「神スナの人ね」
「まぐれ乙言われてた奴やん」
「コウ姫可愛過ぎたろ」
「w」
「こいつなんでコラボできてんの?」
相変わらず当たり強いな。俺に対して嫉妬してんのか?コウ姫とうらやまって。他の配信者もいるやん。
「みんな反応微妙じゃない?w私がコラボしてってお願いしたのよね。」
そう讃絵さんが発言すると。
「うらやましい」
「コウ姫がコラボ誘ったのか」
「俺も誘われてぇ」
「俺のコウちゃん!!!!」
うん、なんとなくだけど、俺を否定するコメは無くなったな。俺を叩いたり、嫌に思う奴を、自分が誘ったって言うことで叩きづらくする。そりゃ自分の推しが選んだコラボ相手を否定はしにくいわな。狡猾で上手い奴だ、讃絵コウ。
「akaiくん?喋っていいよー配信ついた。」
「はい、わかりました。」
「敬語付いてるよ。」
「すみません慣れなくて。」
「akaiくんは枠取らないの?」
俺は人とコラボ配信はしたことが無かったので分からないが、どうやらお互いに枠を取るのは当たり前らしい。
それでも俺は。
「いえ、俺は取らないです。」
と返した。嫌なものがあったのだ。讃絵さんとコラボをすれば、讃絵さんのファンの方や俺を知らなくても讃絵さんを知っている方達が多少俺の配信に来てくれるだろう。だかそれは自分の実力ではなく、讃絵さんを利用して俺の配信を讃絵さんが盛り上げて数字だけ貰う形になって、それは嫌だ。それに俺如きが讃絵さんの恩恵を受けるなんて、おこがましい話だ。
自分の実力で人気になりたいってのは建前。俺はこの、のんびり一定層に見られる配信というのが性に合ってると言うか、落ち着くのだ。そして今回の様に、イベントや大会に少し呼ばれ実力を示す。なんてクールで格好いい配信像なんだろう。
なんてキモ過ぎて他人には聞かせられない様なことを考える。
そこから2時間程度が経ち。
「ランク結構盛れたぁ〜。」
「よかったですね。」
思ったより長く配信をしてしまっていた。いいのだろうか、こんな長時間。
「もう少し付き合ってよお。」
「はい。」
なんか讃絵さんと仲良くなってる気がする。どうやら讃絵さんのコミニケーション能力はプレデターらしい。