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14話〜天使再生 SIGN-S!(2)〜


14話〜天使再生 SIGN-S!(2)〜


 あの夜の出来事から二日。あかいさんの言葉をきっかけに、封じ込めていた弱さも、悲しみも、苦しさも、全部を吐き出して本気でぶつかった。今まで迷惑をかけたコウへの思い、まだ少し後ろめたいけど、それでも前に進もうと決めた私を応援するコウの気持ち。今度こそ答えてみせる。

 あれもこれも全部あかいさんのおかげだ。


 まあ、あの時は少し、いやだいぶ失礼な物言いにムカついたけど。でも今ではすっごく感謝してる。ありがとうって、何回伝えても伝えきれないだろう。でも!


 〜チャットにて〜


 天「あかいさん!昨日はありがとうございました。本当に感謝してます。」


 akai「まあ、別に大した事は。」


 天「いやいや!言いずらいだろう事を私の為に考えてくれて。」


 akai「いや、別に言いずらいってか、本心なんで。あと強いて言うなら讃絵さんのためですね。」


 天「そうなんだ、でもありがとうございます。」


 akai「はい。」



「っとこんな感じ。なんなの?無愛想っていうかさ!」


「あぁ、まああかいくんってそういう人だと思う。多分天が思ってるのと違う。」


「何それ?ねぇ!コウなにそれ!」


 むしゃくしゃする気持ちで思わず叫んでしまい、さらに思いっきり机に手をつくと、すごい音が鳴ってしまう。


「普通に距離感わかんなくて文が硬いだけでしょ。」


 そうあしらいながら、コウは平然と私が今のでこぼした紅茶をハンカチで拭いている。


「あ、ごめん。」


「いいよ、配信場では天使天使って可愛さだけで言われてるけど、私とかメンバーの前ではわがままお嬢様のツンデレ天使だもんね。んねソラちゃん。」


「なにそれ、そんなんじゃなくない?」


「本気で言ってるなら、うん、私とのコラボアーカイブ見直しな。」


「うるさい!」


「はいはい、それより天も紅茶拭いて!」


「はい、ママ。」


 コウはジト目で「だれがママだ。」と目で訴えてくる。


「はあ、あかいさんとの距離感むずいなぁ。」


 そう呟きながらスマホをつつくと、ある一見のチャットが来ていることに気づいた。



 akai「あの、ピークする時無駄に大きくキャラコンすると後ろの鬱木の弾吸われるんでやめましょう。」


 っと来ていた。


「ねえ、何これ。あの会話ぶった斬ってこれ打ってくる?」


 そんなスマホのチャットをコウに見せるが、ケタケタと笑って私の話を聞いていない。


「ねえ、この人なんなの?ねえ聞いてる?」


 ひとしきりバカにする様な笑いが終わると、コウは先ほどと同じくらいのジト目をこちらに向けて。


「気使ってんのよ、あかいくんはあかいくんなりに。」


 やれやれと言う素振りをするコウ。


「お互い不器用でオモシロ。」


 っと呟く。


「そんなに無理に感謝しなくていいと思うよ。天は天らしくマイペースに関わっていけばいい。」


「そっか…」


「それに多分あかいくん今頃悶えてるよ。」


「はい?」



 〜akai視点〜


「なっんんんんで!なんであんなこと言っちゃったんだぁああ。失礼にも程があるだろあの態度。チャットもミスったっぽいしさぁ。」


 天気もいい昼、スト学内にあるデパートにでも出かけたりなんかして過ごしたい休日。(休日無いけど)だと言うのに俺は自室のベットで小さくなり悶えていた。


「さっきのチャット、話題変えてみたけどどうだったかな?悪い雰囲気変わったかな?」


 まるで好きな相手にメッセージを送る時の厨房の様に悩んでいるが、俺は誰にでもこうなってしまう。厨房以外だ。


「だぁぁ、このままじゃ回避率だけ上がってってHPは下がっていく一方だ。光合成して体力管理だ!!外でるぞぉ。目指せ特性葉緑素!!」


 テストまであと三日か。エイムも立ち回りもいい感じ、俺の方は。問題は天使さん、ではなくて鬱木だ。

 なんであんな事のあった天使さんより鬱木の方がパフォーマンス悪いんだ?


「すこし鬱木と立ち回りの見直しを。でも鬱木にチャット送るのかぁ?送れんよなぁ。」


 まだ、まだまだまだ、ギリギリ天使さんの方がチャット送りやすいかなと思いチャットを送る。


「んっと、今日の夜チームでミーティングしませんかっと。」


 そういやチーム名も決めてないや。今日のミーティングで決めるか。


 〜夕方ミーティング〜


 通話にてミーティングを行うことにした。


「んって感じで、今の基本形は崩さず、クオリティを上げてく感じです…だい、じょぶ、でしょうか?」


「おっけー、私もデュエルの腕上げる練習思いついたし、連携も学べたから満足。」


「私もそれでいいよ。」


「よし、んじゃあそんなもんですかね。」


「それにしてもよく構成やらムーブやらを支持できるよね、ソロなのに。」


「あれあれ、天使さん煽ってます?」


「いやいや、べっつに?ミーティングの連絡返したのに、そっから既読無視なの別に何も思ってないし。」


「すみません…」


「ねえ聞いてゆめちゃん!!あかいさん結構失礼な奴なんだよ!!」


「人聞き悪く無いですか?」


「黙れあかい!!お姉様をむかつかせるな!!」


「そっかこのメンバーだとニ対一だったわ。」


 なんて談笑をしていると、少しの沈黙の間が産まれた。楽しく話せているし、天使さんも本来こんな感じの人らしいから、気持ちは戻ったっぽいけど、それでもまだ少し気まずい。全員がなにか後ろめたいというか、ただ普通にコミュ症というか、だからたまに会話が詰まる。

 そんな間を切り裂くかの様に、鬱木のやつが。


「ご、ごめんなさい!お姉様。」


 いつもの様に声はデカいが、それでも少しテンションが低い様に感じる。


「どうしたの?ゆめちゃん。」


「私、お姉様が一番困ってる時、何もできなかった。お姉様が少し元気になって、嬉しくて、でもそれと、いやそれ以上に何もできなかったのが悔しくて。最近ずっとそれ考え込んじゃって。ゲームでも迷惑かけたと思う。」


「大丈夫。何もできてないなんて無いよ。私気づいてたよ、ゆめちゃんが私の為に空気作りとか頑張ってたこと。」


「でも、そのくらいしか、しかもあんまり上手くいかなくて、だから。」


「んん、嬉しかった、上手くいってなくても、そうしてくれる事に救われたの。だからありがとう。」


 ここ最近、天使さんと関わって思った。ファンのみんなは天使と呼ぶ。それは容赦や世あたりの話だと思った。讃絵さん達には素が出ていて、それはわがままツンデレお嬢様だと聞いていたし、実際確かにと思う事が多々あった。けど、そんな一面があっても、この人は外見も中身も、根っからの天使なんだと、鬱木を励ます会話を聞いて思った。

 裏切られた、そう感じるファンが多いのが少しわかった、なんて言ったら不味いのかもしれないけど、でも確かに、純白の翼を広げて笑顔で空を舞う天使、惹かれるのも無理は無い。だからこそもうその翼を汚すわけには行かない。

 あの事件犯人は捕まっておらず、さらに部屋には「また来る」という置き手紙。きっとまた、純白の羽を毟り汚しに来る。

 スト学は警備が厳重だ。素顔バレで一発アウトのVtuber達がたくさん住んでいる施設。厳重で当たり前。ここに侵入するのは一般人じゃ容易じゃ無いはずだ。スト学が終わってからか?一年も待つとは思えないが。


「あかい!あかい!聞いてるかあかい!」


「ん、ぬぁ、悪い考え事してた。んでなに?」


「だから、今お姉様から聞いたんだ。お前お姉様に失礼な事言ったのか?」


「え、え、あ、結果的に?」


「まじ許さん!!!!殺してやる!!!!!!」


 通話越しだと言うのに、殺意の波動がこちらにヒシヒシと伝わってくる。確実に滅殺されてしまうな。コワイヨ!!


「まってゆめちゃん!少し揉めたけど、でもあかいさんのおかげで私元気になったし。色々決意も決まったから。」


「そう、なんですか?」


 そんな驚く鬱木に対して俺はあえて煽りを入れる。


「たしかに、お前はよく頑張ったよ。でも直接俺は天使さんを救ったんだぜ!!お前の大好きなお姉様をな。お前からも感謝をもらっていいんだけどなぁ。」


「ムキぃぃぃぃぃ!!!ふざけんなあかい!!自分で救ったんだぜ!とかキモい!!」


「すみません…でした…」


「あかいさん弱い。」


 人をいじってみるなんて、慣れた事はしない方がいいね。キモい呼ばわりは流石に聞いてしまった。


「天使さんもすみません。調子乗りました。」


「いいよ、事実救ってもらった形だし。まあ、結構ムカついてるけどね。」


「ほんとすみません。」


「いいよ感謝してる…」


 その感謝は少し詰まる様な言い方だった。なんだろうもしかして、

 

「ん?あれ照れてる?」


「うるさい、照れてない。」


「無理して感謝しなくていいっすよ。」


「それコウにも言われた。無理してるわけでは…」


「まじか、んあ、今の言葉、俺の場合はツンデレなんだらか無理してデレデレしなくていいよって意味っすw。」


「調子乗んな。」

 

 こちらも殺意の波動を感じる声になってしまった。やらかした、ほんとすみませんでした。


「なんかあかいとお姉様が仲良くしてる!!!あかい死ね!!」


「言い過ぎでは????」



 なんのかんのあり、その後もボチボチ雑談を続けた。せっかくだし配信付けてLLのチーム練やるかって事になったのだが。


「ちょっとゲーム配信する前にやりたい事あるから、二人のことこっちでミュートにするね。あ、でも夢ちゃんにもあかいさんにも聞いて欲しいから聞いてて。」


「はい?」


「お姉様どゆこ?」


「んー、決意ってか、覚悟?かな。」


 すると天使さんは配信を付け始めた。配信が開始すると自分の端末に通知が届いた。それを見て、通話画面を確認すると、俺たちは天使さんからミュートにされていた。すぐ横を見ると鬱木もミュートになっている。


「なあ鬱木?天使さん何するんだろう?」


「黙って聞いてましょう。」


 いつにもなく真剣な声色の鬱木。


「なんに?お前天使さんが何するか分かってんの?」


「お姉様はツンデレで負けず嫌いで頑固なの。んん、馬鹿なのよ、天ちゃんって。」



 配信待機画面が切り替わり、配信が始まる。天使さんの配信ではいつも使っている部屋のイラスト。そこに目を瞑り、真剣な表情でいるLive2Dの天使さんの姿。

 コメント欄では疑問の声が上がっている。ゲーム配信では無く、突然の沈黙配信。煽る視聴者も、誹謗中傷を辞めない視聴者もいる。だが、告知の無いこんなタイミングの配信。それで同接は徐々に伸び、現在1500人。

 瞬間、天使さんの目が開く。そして紡がれる言葉。


「この配信を観ている視聴者さん達。この配信に収益は付けない。だからどうか拡散して欲しい。お願いだから、私の言葉を、なるべく多くの人に聞いて欲しい。」


 そんな言葉に、コメント欄では、「釣り配信で同接稼ぎ乙」と書いている人もいる。だからちらほらいる、真剣な天使さんを観て、なんだなんだと騒ぐ視聴者。

 数分経つと同接は3000人程になっていた。元々の天使さんなら告知ありの配信なら4000は来る、そんな彼女が今の大炎上中の状況で、しかもゲリラでここまで集まった。視聴者達も何かを察して期待している。

 ゆっくりと、だが力強く紡がれる言葉。多分俺この先、この配信を忘れないだろう。最禍の天使が、白銀の翼を広げ、大空を再び舞うこの瞬間を。



「知っている人も居るだろう、というか知っている人しかほぼいないだろうと思います。私はつい最近、ある事件にあった。あの事件は私の心に深く残ったし、多分あの苦しみや恐怖を忘れることなんてないんだろうと思います。」


「やはりその話か!?」と反応する視聴者もいれば、「とうとうネタにしやがったこいつw」という視聴者もいる。どうやらあの事件で犯人がアップした音声動画は、炎上商法の類いで、犯人と天使さん本人が共犯でやった事という噂もあるらしい。


「私、初めて死にたいと思った。初めても奪われて、誰を読んでも助けてくれなくて、それでもまたみんなと笑って配信するんだって思ったけど、帰ってきたら地獄絵図で。今までやってきた二年間は、んん、今までの人生ってなんだったんだろうなって思っちゃった。こんなに辛いなら、死んじゃえばいいやって。」


 その言葉を発している天使さんは少し涙ぐんだ声だった。


「でも、でもね。私を助けてくれる人が、励ましてくれる人がいたの。親友、友達、最近話したばかりの人だって、私にまた羽ばたいて欲しいって、そう言ってくれたの。でも怖かった。また襲われる、また酷いことを言われる、また死にたくなる、それはもう嫌だった。もちろん今でもあの時の事は怖いし、誹謗中傷してくる人も怖い、でもあの音声で私に裏切られたと思う人もいるのは分かってた。私も犯人が共犯で動画をアップしたとか言われてた時はもう無理だって思った。

でも、私を助けてくれた人が教えてくれたの。「お前を観ている奴はまだいる」って、「そいつらを裏切る事が一番やっちゃいけない」ってそう教えてくれた。まだ観てくれている、そんな事でって思う人もいると思うけど、私には結構衝撃だった。私を求める人達がいるんだって、私の配信で楽しんでくれる人がいるんだって。その人の言う通りだった、裏切りたくないって思った。

もう絶対裏切らない!!前みたいに出来るかも分からない、けど!まだ私は生きてる、まだ私は羽ばたける!!だから!!」


 そこで天使さんの涙が、限界に達して溢れ出た。


「だからどうか…どうか、どう、か…」


 だんだんと、コメント欄の流れは遅くない、誹謗中傷は減ってる様な気がした。


「私が羽ばたく姿を!!観ていてくれないですか!!!」


 その一言をきっかけに、コメント欄は急激に加速した。


「まだ観たい」

「また笑顔をくれ」

「ずっと待っていた」

「いつまでも推し続ける」

「嬉しい」


 そう言った言葉が大量に発生する。もちろんまだ誹謗中傷の声は多いが、それでもこの配信の今の流れは天使さんへの肯定的なコメントばかりだ。一度悪い流れを断ち切れば、叩きづらい空気にも多少はなるだろう。すこしは抑制になるといいが。



 そこから少し雑談を挟み、俺たちはミュートを解除され、ゲーム配信へと移行した。



「だから、気持ちはわかるけどさ!!私被害者だよ。なんで叩かれなきゃ行かないの!!!!」


「うるせ。」


「お姉様落ち着いてぇ、、」


「もう大炎上済みだ!!好きな事言えるゼェ!!」


「天使とは?」


「うるさいなぁあかいさん。」


「すんませ。」


 すると、どうやら鬱木がコメントを呼んだ様で。


「え、分かる!なんかコメントで「なんか天ちゃんとあかいさん仲良くなった?」って言ってる。だよね、あかいが馴れ馴れしいのほんとイライラする!!!」


 おいおい、仲良くなった?って聞いてんだろ。仲良くてイライラするって言ってる訳じゃねぇのに「分かる!!」じゃねぇよ。と、思いつつぐっ!と心にその気持ちを押し込む。

 そんなことを考えていると、天使さんもコメントを呼んだ。


「あ、コウだ!「ヒヤヒヤしたけど無事に済みそうでよかった。カスタムは負けないからなぁ!!」だって。」


 讃絵さんも観ていたのか。まあそりゃそうか。


「コウお姉様私の方にも来てコメントくださいいいい。」


 鬱木は今日もうるさい。あれ普段おとなしいんじゃ?すると天使さんが、


「スト学初カスタム!絶対勝と!!」


「はい。」


「もちろんですお姉様!!」


「うん、頑張ってね、リーダー。」


「おう、負けたらお前のせいだリーダー。」


 この配信には俺の他に二人しかいない、そしてその二人からリーダー呼ばわりされる人物。


「え?俺リーダーなん?」

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