11話〜姫と女王と狙撃手〜
11話〜姫と女王と狙撃手〜
コウは可愛くて、優しくて、いつも人の為になる事を考える、そんな女の子。でも何より、頑固で負けず嫌いだ。
コウに色々と説得されるが、断り続けていた。断る度胸が痛む。でもコウは諦めなかった、私の為に。結局流されてしまい、一度だけコウの提案する事をやる事になった。
何をするのだろう?ただ配信するだけでは状況は良くならないとコウが言っていたと言う事はただ配信では無い。
「コウとコラボ配信かな?」
そう呟く声を拾ってくれる人はいない。数時間前までコウが部屋に来て話をしていたが、今は私一人。最近随分一人で配信したりして誰とも話していなかったから、孤独には慣れたと思っていたけど、コウに会って話したら思い出してしまったのかも知れない。
「やっぱり一人は寂しいな。」
そんな頃、akaiはある人と会っていた。
〜akai視点〜
「貴方から呼び出しなんて、いい度胸ですわね。」
「あぁ、ありがとう呼び出しに応じてくれて。」
「いいですわ。友達ですもの。」
少し目を見開く。
「友達か。」
「あら?わたくしとお友達になるのが不服とでもいいますの?」
「いやあ?嬉しいよ。」
「当たり前の反応ですわね。」
「友達か、最近女の子と友達になる事が多い気がする。」
まあ、世間の人からしたら二人なんて大した数字じゃ無いのだろうが、俺も変わったな。少し前までは性別関係なしに人間拒否だったのに、友達が出来て少し喜ぶ自分がいるんだよな。
「讃絵コウですわね。」
「そ、お陰様で。」
「それで?なんの様ですの?」
目の前の少女はあの英和那美姫。こいつになら意見を聞ける。絶好の相手だ。
「あのさ、話したかった事があって。天使天って知ってるだろ?」
その名前を口にした瞬間、目の前の少女の目鋭くなる。
「何故貴方からその名前が出るのかしら?」
「この事は言っていいのか分からない。だからお前に言った事は秘密にしててほしい。」
するとこちらを睨み悩む表情をしてから、
「聞いてみてから、ですわね。」
俺は目の前の少女に讃絵さんからの提案された策を話した。
「馬鹿、その一言に尽きますわね。」
すると腰に手を添えて、大きなため息をする英和那さん。
「まあ、少しそこのベンチに腰をかけましょう。」
ストリーマー学園内にある広場、そこのベンチに二人で腰掛けた。
「夜風が気持ちいいですわね。」
「あ、あぁ。」
「先程の話、讃絵コウの行動は少し思うところがありますわ。」
「思うところ?」
「彼女のやっている事は自分勝手で、何処か周りを見えていない様に見えますのよ。」
「俺を巻き込んだからか?」
「あかいくんがいかに数字を持たないストリーマーだったとしても、炎上が飛び火するリスクが少ない、なんて考えはただの希望的観測ですわ。すこしイラっときましたのよ。」
「いや、でも讃絵さんは優しいから、ただ困っている親友を助けたいだけで。」
「優しい、ね。親友を助けたい、人を笑顔にしたい、常に誰かの為に、そんなのはただの偽善に過ぎませんわ。わたくし力の無い偽善者は嫌いですわ。」
「た、讃絵さんのことか?」
「ええ、誰かの為、そう言って力も無いのに足掻く。それでなんとか助かったとして、そこに辿り着くまでにどれだけの犠牲を払っているか、それが見えていないのが今の讃絵コウですわ。」
「それは、俺を巻き込んでいるから?」
「ええ、力も無いのに足掻き、それで犠牲を出したのなら。それは自己満に過ぎない。それを本当は本人もわかっていると思うのですがね。」
またも英和那美姫はため息を吐き。
「少し休んだ方がいいですわね。友人であるあかいくんを巻き込んで、最悪を想定せず動いている。周りが見えていない証拠ですわ。頭を冷やし心に休息を与えた方がいいですわ。貴方から伝えてくださいな。
客観的に状況を見て、冷静なアドバイス。なんだかんだ言ってこうやって、絡みの少ない筈の奴にも言葉をかける。
「優しいな。」
「ええ、勿論。わたくしですもの。」
ふと思い、単純に400万の実力の女に聞いてみたくなって聞いた。
「なあ、お前なら天使さんを助けられるのか。」
その問いに数秒考え、こう紡ぐ。
「勿論可能性はゼロでは無い。本気で動いたのなら、何か変えることはできるでしょうね。それで、彼女の現状は、過去類を見ない程の炎上、何をどうやっても飛び火が来る。私は数字だけは落とす訳にはいきませんの。だから関わらないですわね。」
「まあ、確かにメリットは少ない。デメリットやリスクを考えると普通は指一本も触れたく無いよな。」
「んじゃささっきの話し、お前の様な力が無い讃絵さんは、無理ってことか?」
「ええ、讃絵コウ、彼女ではこの状況は変えられないですわね。」
そう話す英和那さんの言葉に反応するのは俺ではなかった。
「さっきから聞いていれば、分かった様な事を言って。偽善者だのなんだのって。」
そう、割り込んできた声は讃絵さんのものだった。何故こんなの所に居るのかは知らないが、どうやら物陰から聞いていたらしい。
「あら、聞いていたの?わたくし何も間違った事は言ってなくってよ。」
「何も知らない癖に知った様なこと言わないでよ。」
讃絵さんが激しく英和那さんを睨む。語気も強い。
「たしかに、わたくし貴方のことなんてそんなに詳しくなくってよ。それでも、そんなわたくしでも気付くほどに貴方は周りが見えていない。たいした関わりもない、それほど貴方のことを知らないわたくしでも、ですわ。」
そう言われて少し黙ってしまう讃絵さん。歯を食いしばり、
「うるさい、うるさい!何にも、何にも知らない癖に、分かってるわよ。周りが見えてない事も、自己満になってしまう事も。」
「んじゃあ、なんで?」
「知らないでしょ?同期が、親友が、困ってるの。コメント欄の何千人と言う人たちが天を罵る。苦しい筈なのに、貼り付けた様な笑顔で無理してる。涙も枯れて出ない、笑うしか正気を保ってることの出来ない、あの顔を見たら思っちゃうの。」
讃絵さんはその場に崩れ落ちた。下を向く彼女からは大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちる。
「助けたい、もう一度笑ってほしい、私が頑張れば何とか出来るかも知れない。そう思っちゃうの。」
床に崩れ落ちた讃絵さんを英和那美姫は見下ろし、ため息を吐く。
「だからって、周りを巻き込んでいたら本末転倒。それはただの自慰ですわ。」
上手く声にならない様なボロボロの喋り方で喋る讃絵さん。
「縋っちゃうじゃ無い。希望が見えない時に見つけちゃったんだもん。もしかしたら被害を最小にして天を助けられるかも知れない。そう思ったら、もうなりふり構ってられなくなって。」
「本当に、愚かですわね。」
「おい、讃絵さんは愚かなんかじゃ。」
多分、俺を心配してくれているからこそ、英和那さんは讃絵さんに冷たく忠告するのだろう。英和那さんは間違っていない。優しさからくる行動、分かっている。分かっているが、俺は気付いたら言葉を発していた。
「はぁ、貴方も貴方ですわ。知識も力も、一番持ち合わせていないのに、首を突っ込もうだなんて。ことの重大差が分かっていないにも程がありますわ。」
「す、すみません…」
怒られてしまった。
「悪かったよ、俺軽く考えてたんだと思う。でも、だからって助けない訳じゃ無い。」
「あら?貴方も無謀なことをする頑固者?」
「あぁ、これだけ言ってもらって悪いが、俺は絶対助けたいと思ってる。」
「馬鹿なことを言ってられるのは今のうち、関わってしまえば分かる事、でも飛び火してから後悔しては遅いですわ。何度も言っているでしょう、天使天はもう戻る事はない。」
状況は深刻、あの英和那美姫が辞めろと言っている。だけど、思ってしまった。会った事は無い、喋った事も無い、一緒ゲームだってした事無い。そんな関係、でもあんな光景を観たら、讃絵さんのあんな顔を見たら、どうにかしたいと思うじゃないか。
「友達の親友が困ってる。友達が泣いている。助けたいと思うのはおかしな事じゃない。俺は力が無いからこの状況をどうにも出来ない、それに俺も天使さんが元の状態に戻れるなんて思っていない。」
俺は少し思考をして
「そんなに時間は無いのか?」
そう讃絵さんに問いかける。
「そうだね、明日にでもって程じゃ無いけど時間はそんなに無い。このまま時間を掛けていると衰退していくだけだよ。」
「そっか…」
すると、英和那さんが呆れた声で、
「はあ、天使天が炎上したのが三月の中旬。配信を復帰したのがそこから一週間後、今が四月の三日。そうですわね、一ヶ月は掛けられない。二週間、と言ったとこですわね。」
「時間ないな。」
「貴方何でそんな助言を?」
讃絵さんは少し驚いていた。すると全く何を言ってるのかしら?と言った感じに、
「貴方達は何を言っても救おうとするのでしょう?それに、わたくしだって観てて気の良いものでは無い。貴方達が上手くやるなら助言くらいしますのよ。」
「そ、そうね。ありがとう。」
「当たり前ですわ。もっと感謝してくれてよくってよ。」
そう言う英和那さんは何処か方が赤くて、照れ隠しの様に見えた。
「ツンデレw?」
そう俺が茶々を入れると、
「底辺ストリーマーは黙ってなさい。」
と怒られてしまった。
その後、もう夜遅いと言う事で解散となる流れなのだが、流石の陽キャ讃絵コウ。天救助隊なんて言って連絡グループを作り出した。
「わたくしは良いですわ。」
「いやいや、英和那ちゃんも仲間ですよぉ。」
「あかいくん貴方讃絵コウと仲がいいのでしょう?何か言ってくださいな。」
助け舟を求めこちらに視線を向ける英和那さん。
「うん、むりぃ。」
「貴方ね!!」
「天下の英和那美姫も陽キャには弱いのな。ダハハ!!」
「調子に乗るのも良い加減にしなさいな!!」
そんな訳で、グループは出来た。英和那さんは俺ら二人と連絡先も交換した。
まさかの、400万人と50万人の美少女Vtuber二人とグループを作ってしまった。これもスト学にきた影響なのかな?過去の俺じゃ考えられない事だ。人を拒み一人だった俺。一人は嫌いじゃ無い、でも多分楽しく無かった。けど今は少し、ほんの少し、楽しい。