【ⅩⅢ】
「イワン。じゃまするぞ」
「おじゃまします」
土龍寮の一室、厳重に鍵をかけられていたはずだが勢いよく扉が開く。
現れたのはこの国の第三王子であるアルバートとなぜか後ろには魔法薬学の教員であるエルフ族のティファ。
部屋の主と彼の召喚獣であるワオキツネザルは驚きのあまり跳ね上がる。
「勝手に部屋に入ってこないでくださいって何度言えばわかるんですか!?」
「勝手にじゃないだろう。鍵は開いてた」
「貴方が魔法で開けたんですよ!!」
「そんなことはどうでもいい。昨日のリベンジだ」
困り顔のイワンを無視して部屋の真ん中に置いてある机を囲うように座った。
それからアルバートは魔法で机の上にジオラマの街を作り出す。
やはり探偵オタクの創作物、イギリス建築、真ん中には時計塔。
「探偵として、負けたままでは終われないだろう。いくら俺が事件を用意するのが上手くないといっても、簡単に解かれるのは気持ち良くない」
「これ解いたら帰ってくださいよ。てかなんでいつもエルフの先生までいるんですか?」
「えへへ、なんでだろうね」
「ティファは探偵の助手だからな。どちらが勝利するか見届ける義務がある。ただ今回の探偵と助手はイワンとそちらの猿だがな」
イワンは深いため息をつく。
こんな事がここ1週間毎日行われている。
パンツ大量泥棒事件で風龍寮の隠しギミックを使うための暗号を解いてしまったせいで宿敵認定されてしまった。
最初は王族に変な事しないか緊張のあまり胃がきゅるきゅると鳴っていたけど、今では慣れた。
憎まれ口を叩いても嫌な顔しないし、なんなら他の同級生よりも気を遣わないまである。
案外仲良くできそうで困っている。
「ルールは簡単だ。こちらの紙に書かれた暗号を解けたらお前たちの勝ちだ。この机の上にある街の中にヒントが隠されている。自由に走り回り制限時間内に解け。もし時間が過ぎたらこの街は爆破する」
アルバートが取り出したのは意味の無さそうな数字の羅列。
しかも魔法薬学副教師のムラサメが問題を起こした生徒に罰として書かせる反省文程の長文である。
「自由に走り回る……この机の上のミニチュアな街を?」
確かに精巧に作られているが、ただのジオラマである。
魔法で街の中を拡大することも出来ないし、覗き込んでも道の看板なども小さすぎてよく見えない。
イワンの召喚獣ワオキツネザルのルパンだって小柄だが、上に乗ったら大怪獣化してしまう。
「ああ、言葉通り走って捜査しろ。ウェストミンスターの鐘がなったら元に戻してやる」
「だからそれってどういう意味ですか?」
「最小化魔法」
「…………へ?」
魔法の詠唱。
その瞬間、イワンとルパンの身体が縮んでいく。
最終的にはアリ程の大きさに。
ジオラマの街に落ちて行った。
「アルバ。これって人権的にどうなんだろう? イワン君が訴えたらボク等負けちゃうと思うんだけど」
「それなりの事をしでかした奴だ。少しは痛い目見てもらわないとパンティを盗まれた女子生徒たちの怒りも収まらないだろう」
「その割に楽しそうな顔してるね」
アルバートの黒幕顔にちょっと引き気味のティファである。
ジオラマの街とお似合いのサイズになったイワンたちを眺めて数分、暇になったのかアルバートは立ち上がり部屋を見て回る。
やはりまだあるスライム草。
魔力を流してみるが中身はなにも入っていないようでスライム液を吐きだすだけだった。
流石にパンティ泥棒から足を洗ったらしい。
しかし気になるのが、壁に掛けられた額である。
高級感のある金色の額縁。
大抵こういうものには有名な画家が残した名画が飾られるはずではないだろうか、どこの誰が、ただの布を飾ろうと思う。
イワンの初恋、白い髪の美少女、その象徴である純白パンティである。
本人には会えなかったがイワンにはこれだけが残った。
アルバートは真相を知っているがツイてるという事は黙ってやっている。
「しかしこんな変態、世に残していいものか。時間切れを待たずに爆破してやるべきでは」
「だめ。ほんとやめなね」
【第3章 バディとエルフと召喚獣】完




