【Ⅷ】
「──鍵開け魔法」
カチャリと扉の鍵が回る音。
部屋の中の方では動揺した声が上がったような気がする。
アルバートはノックもせずにドアノブに手をかけ、容赦なく開けた。
「邪魔する」
「ふぇ!? なんだ君たち。──え。第三王子、なぜここに」
部屋の主は至って地味な、男子生徒。
髪は短い黒髪に眼鏡、小柄でひ弱そう。
アルバートと同級の土龍寮生徒。
部屋を見渡すが綺麗なものだ。
パンティ1枚どころかほこりひとつ落ちていない。
あるのは用品、少しの娯楽品、そして観葉植物がかなりの数。
「俺は今、生徒達からパンティを盗み出した犯人を捜している。そこで辿り着いたのがこの部屋なわけだが……」
「な、なにもないでしょう。いくら王族だって言っても学園内ではいち生徒、他人の部屋に勝手に上がり込むのは失礼じゃないですか?」
「その通りなんだよねぇ」
睨みつけてくる男子生徒の顔を眺めながらアルバートは頷く。
手を引き、力づくで握手の体勢に入る。
「確かにな。第三王子アルバート・メティシア・ドラゴネス。気軽に呼んでくれ」
「……イワン・ツルネフです」
「そうか。イワン、これで知った仲だ。部屋に入っても問題ないだろ」
「なんて力業な!?」
文句は言わせないと微笑むアルバート。
相手は気弱なせいか反論が出来ない。
「ソファーで寝ているのは登録しているペットだな? ……ワオキツネザルか」
「そうですけど、それがなにか」
イワンの目が泳ぐ、気のせいかワオキツネザルを見るアルバートの視線を自分の身体で隠したような気がする。
「第三王子が探しているのは下着泥棒でしょう? 見ての通り、この部屋には」
「あの植物。〝スライム草〟だよね? お腹がパンパンだよ。中の物を出してあげないとすぐかれちゃうよ」
異変に最初に気付いたのはティファ。
その言葉を聞いてイワンの身体は固まり汗が滝のように流れ出す。
「スライム草?」
「うん。スライムってモンスターいるでしょ。あのたぷたぷしてるかわいいやつ。弱すぎて討伐もほっとかれることがあるんだけど中にはすごい強い溶解液の身体をしてる個体がいるんだよね。冒険者の服を溶かしたりするの。……そのせいで変態さんたちに人気なんだけど」
「この草にも同じ溶解液があると?」
「どっちかっていうと、逆なんだよね。〝衣服以外を溶かす溶解液〟がお腹部分に蓄えられててね、動けないけどその溶解液に入って来た虫とかを養分にしてるんだよ」
「き、気付きませんでした。確かに膨らんでますね。異物を後で取り除いておきます、ありがとうございます」
震えすぎてもはや止まって見える。
このイワンという男子生徒、とことん嘘をつくのが苦手のようだ。
「つまりその植物のふくらみの中身は衣服である。間違いないな」
「うん。そうだと思う。こんな収納方法聞いたことないけど。……知識が無かったら植物の中まで確認しようとは考えないだろうから、頭が良いって言えばそうなのかな」
「いや一周回ってバカだろ」
しかし魔法植物の知識があるティファがいなかったら捜索に時間がかかったかもしれない。
褒めるようにティファの頭を撫でるアルバート。
照れくさそうに「えへへ」と笑う、それを見て感情が高ぶりそうになったアルバートはより強めに頭を撫でた。
純粋無垢なかわいい笑顔、男であるわけがない。
「──くっ」
「スライム草はストレスにすごい弱いから、ボクくらいの魔力でも流すだけでびっくりして中身全部吐き出してくれるよ」
「そうか。それは面白いな」
「でしょでしょ。魔法植物は奥が深いんだよ。だからちゃんと授業を受けてね、アルバ」
満足そうに胸を張るティファ。
それを見て微笑ましくなったアルバートが指をぱちんと鳴らすと同時にスライム草は震える。
そして名前の通りスライムが取り込んだ冒険者を吐き出すようにお腹に溜まっていた異物を吐き出した。
パンティの波、まさにそんな感じだ。
女子生徒のパンティに溺れる。
なんだか羨ましい体験のようにも思えるが、当の本人たちは息が出来ずまさに窒息寸前であった。
死因、パンティによる窒息死。
現世であったらダーウィン賞ものである。




