【Ⅰ】
学園のグラウンド、寮関係なく新入生が集められた。
科目は基礎魔法学。
教師は金髪おかっぱでピエロのような見た目をしたラブレバー。
生徒が彼の威圧で静まり返るとひとつ咳ばらいをする。
「召喚魔法。職業:召喚師が使用する魔法で違う場所、他の世界の生物を召喚出来るものなのーネ。基本的には召喚書や供物とそれに適した魔法陣を地面に描く事で成立する。有名なところで言うなら勇者召喚が良い例なのーネ。今日、新入生のひよこちゃんたちにはもっと基礎中の基礎を行ってもらう。召喚書も供物さえいらないーネ」
生徒達がざわめく。
そんな事が可能なのかと。
ラブレバーはその反応を見て気持ち良くなったのか上機嫌に鼻息を荒くする。
「自分自身を触媒にする召喚魔法なのーネ。これは最も古いのだけど、広く知られていないのは魔力消費が多く、非効率さにあるのーネ。しかもほとんどが魔力を有していないただの動物・昆虫・植物。ただし、この召喚に応じた生き物は召喚者の魂と相性がもっとも良いものであり、伴侶よりも深く繋がっている。永遠の絆。この召喚方法を基本的に使っている人物が王国にひとりだけいるのーネ」
視線は最後尾にいるアルバートに向けられた。
「第三王子、それはどなたなのーネ?」
「俺の妹。第二王女イルミアだ」
事件の推理を話す時よりもドヤ顔をするアルバート。
妹がどれくらいすごいのか鼻高々に語りたいが、どうやらその役目は自分ではないようだ。
「その通り。第二王女は召喚師でありその基礎召喚魔法の使い手。彼女が条件なしに召喚できるのは光属性生物の中でも最強と呼び声高い【神聖巨龍】なのーネ!!」
「ドラゴンは人よりも遥かに高い魔力量を有していると聞きます。そんな事が可能なのでしょうか?」
ひとりが疑問を口にする。
「彼女は異例中の異例。でも魔力持ちの召喚獣はかなり低いけど可能性はあるのーネ。実際、上級生のベルカーラ公爵令嬢は【火蜥蜴】の召喚に成功している」
皆の顔つきが変わる。
戦士志望で魔法にあまり自信がない者たちでも召喚獣が強ければ、かなり戦略が増えるから。
それと同時にみんなの興味がひとりに集まった。
最強の魔法使い、第三王子アルバート・メティシア・ドラゴネスはどんな生き物を召喚してくれるのだろうかと。
「では、合コン気分に始めるのーネ!」
グラウンドの中心に最も基礎とされる魔法陣が描かれ、それにひとりずつ前に出て魔力を流し込む。
「我は汝を召喚する者。この魂の呼びかけに答えよ。〝召喚〟」
馬、ハイエナ、蛇、カマキリ、牛、カンガルー、リスザル、ダチョウ、カモノハシ、犬、カエル、猫、ダンゴムシ、兎、ゴリラ、鮪、カニ、狼、シマウマ、ゾウ、蜥蜴、ペンギン、虎、サソリ、孔雀、マンドリル。
「その子たちは家族よりも深く貴方たちに繋がった。最も近しく、かけがえのない存在。とことん愛してあげるのーネ」
次はアルバートの番。
息を飲む音がそこら中から聞こえてくる。
「魂の相性か。探偵の相棒と言えば、やはり犬だろうか。どうせなら大きく、鼻の利く奴を頼む」
「依頼制じゃないのーネ」
腕を前に出し、深呼吸。
魔力をゆっくりと流し込む。
「ねね、どんなの出てくると思う?」
「どうだろ。ごつくて強そうなやつ」
「第二王女とは他の兄弟と違って母君も同じなんだろ? だったら第三王子もドラゴンじゃねぇの」
「あーね。とりあえずこの場の全員驚愕レベルなのは確定」
「えっちなぴちぴちギャル精霊キボンヌ」
(……後ろ、うるさいな)
期待されても困る。
そもそも変なのが出てきて今以上にやばい噂が出回るのは避けたいところ。
無難に魔力のない動物にして欲しい。
「──召喚」
眩い光。
魔法陣が波のように輝き、次第に光は形を作っていく。
──……人型。
「……へ? あれ、どうしてボクこんなところに。さっきまで植物園に」
時が止まった。
その場の全員の思考が。
アルバートの詠唱後、魔法陣の中に現れたのはひとりのエルフ。
髪は茶色、マフラーをしており、スカート、絶対領域を作り出すストッキング。
美少女的エルフがそこにはいた。
どうしてか服ははだけ謎の液まみれの。
そっくりさん?
誰もがそう思ったことだろう。
しかしそのエルフは紛れもなく──魔法薬学教師のティファだった。




