【Ⅱ】
風属性の生徒が所属する風龍寮の隠し部屋を探す前に寮の構造をもう一度、確認する必要があるだろう。
レンガ造り、高さは25階建て90メートル程。
装飾は少ないが、入り口には青龍の絵が彫刻された扉が設置されていてかなり目立つ。
中に入れば四角形の床、ほとんど空洞で階段はなく、部屋の扉だけが確認出来る。
1階層につき12部屋。
1階には部屋がないため全288部屋、しかもそれぞれかなりの広さがある。
部屋の扉の横には学年と番号、生徒名が書かれており間違えることはない。
部屋のない1階には飛行魔法が苦手な生徒の為に箒が置かれている。
これは魔力操作をしやすくするためのアイテムであり、魔法使いが装備する杖に使用理由が近い。
他には素行が悪い生徒が散らかした私物。
「床ばかり睨んでる」
「ん? ああ。この塔を作ったのは魔法使いの地下工房の製作者だったんだろ。なら地下に隠し部屋を造りそうなものだ。それにこの寮に入った者は自然と上に意識を向けさせられる。下にはなにもなく上にしか部屋はない。だからヒントは下にあると見た」
「たしかに」
隠したい者があるなら視線が向かない方向にというのが鉄則だ。
そもそも隠し物はベッドの下などに相場が決まっている。
「ベッドの下、か」
1階にある物で下を隠せる物といえば、入り口横にある石で作られた箒入れ。
かなり昔からそこに置いてあるようでホコリが……いや、誰かが最近動かしたのかホコリが薄い箇所がある。
どかして下を確認してみる。
文字が刻まれていた。
【汝は暴く者。5つの神獣を従え、知識の海へと辿り着かんことを。そして囁け、『イマージ』と。】
アルバートはミィと顔を見合わせる。
そしてミィが頷くのを確認すると、ひとつ息を吸い。
「出現魔法」
ゴゴゴゴゴッと塔が揺れた。
そして現れたのはそれぞれの角に水晶のようなものが付いた柱。
この光景を見て、アルバートは何故だか昔見た映画を思い出す。
「4つの柱。水晶に魔力を流せとか?」
「そう思うよな。多分、そんなギミックなんだろうが。それぞれ別の属性魔力だ」
「じゃあ、各寮の友達連れてこなくちゃダメ。詰んだ」
「大丈夫だ。俺がいる」
「そっか。流石全属性王子」
ミィは柱に歩み寄る。
それからじっと眺めて。
「龍の絵。こっちには鳥、虎」
「亀か」
「……うん」
「四獣だな。置かれた方位も合っている。なら流す魔力は五行だろう。青龍は木を司るがこの学園では風属性だ。朱雀は火。玄武は水。白虎は──」
「土属性?」
「金だから、近いのは光属性だな」
アルバートが魔力を送ると水晶はその属性に合った色へと灯りが灯る。
……しかし何も起こらない。
「明るくなっただけ」
「うーむ。……『5つの神獣を従え』だった。五行なら当然か」
「というと?」
「このギミックは東西南北を司る四獣が描かれているが、もう一体を含めて五獣とも呼ぶことがある。〝麒麟〟。方角は中央、属性は土属性」
中央に進み、床に手を置く。
そして土属性の魔力を流し込む。
先ほどとは比べ物にならないほどの地響き。
転びそうになるミィの腕を引き体勢を安定させる。
「これは。面白い、面白いじゃないか……ッ!」
床がなくなっていく。
残されたのはふたりが経っている中央のみ足場のみ。
そして地下に続く螺旋状の階段。
「希少である光属性が必要不可欠になる隠し部屋か。それに少なくとも属性違いの5人がいる。この先になにを隠している? 魔王でも封印されていないと説明が付かないぞ」
「……生徒が勝手に入っちゃダメなのは。わかる」
「なんだ、怖気づいてたか? お前の予想は当たったんだ、もっと喜んでも良いと思うぞ」
「うん、確かに」
ミィは小さく頷く。
手は震えており、アルバートを見ようとはしない。
「怖いならやめておくか」
「それはそっち。入ったら後戻りできない」
「望むところだ」
「王子でも手に負えない敵がいても?」
アルバートはなにをバカな事を言っているんだと鼻で笑い、螺旋階段に足を踏み入れる。
すたすたと迷いなく。
それを追いかけるようにミィも走り出したのだった。




