【I】
最強の魔法使い、第三王子アルバート・メティシア・ドラゴネス。
彼がこのドラゴネス魔法学園に入学してから数日が経とうとしていた。
最初にとある事件が起きたせいでドタバタとしていたが、なんとか一件落着したことで学園生活に集中することが出来る。
──かに思えたが、やはり王族。
彼が授業に出れば誰もが緊張で硬くなるし、話しかければ深々と頭を下げられてしまう。
だから同級生の友人はまだ作れていない。
所属したのは知識欲の旺盛な風龍寮。
事件後日に自室の扉を開くと寮生全員が箒にまたがり宙を飛んでいた。
「ようこそ! 風龍寮へ!!」といった具合に。
歓迎はありがたかったがそっと扉を閉めさせてもらった。
しかも今度は風龍寮の卒業生である、第二王子からの長文の手紙まで届いている。
説明たらしく書いてはあるが、手短にしたら『問題は起こすな。特に風龍寮の塔を壊したらただじゃ済まない。僕の思い出を汚してくれるなよ?』とのことだった。
要は釘差しだ。
第二王子はアルバートを巨大な魔物かなにかだとでも思っているのだろうか。
行く先々で問題を起こしているみたいに。
……ただ、思い当たる節はいくつかある。
魔法の研究の為に何度城を崩壊させかけたか。
しかしそれも過去の話、もう魔法にばかり熱中していたアルバートではないのだ。
彼は前世の記憶を思い出した転生者だった。
それもこの異世界でまったくと言っていいほどに役に立たない探偵という生き物。
超自然的事象は全て否定し続けてきた探偵が今では魔法を使っている。
しかも全ての魔法使いに神と崇められるほどの魔力量の持ち主として。
なんとも皮肉めいているのだろう。
この異世界はアルバートを道化師のような存在にしてしまった。
「今日は授業がなかったな。暇だし、ティファの植物園にでも顔を出すか。あそこには良い紅茶が置かれているしな」
大抵休日に生徒たちは学園施設内の娯楽施設や飲食店を回る。
しかしアルバートには同級生の友人がいないため話し相手は魔法薬学の教師くらい。
上級生に婚約者がいるのだが、彼女にだって学園内の付き合いがあるため邪魔するわけにはいかない。
思考の結果、あのエルフなら暇そうだし。
「アルバート様。おはよ」
「うお!?」
柄にもなく大声を出してしまった。
理由は自室の扉を開けた途端に目の前に人の顔が現れたから。
体格は小柄140あるかないか、髪の色は緑でショートボブ、丸い眼鏡をかけており眠そうな女生徒。
「……誰だ、お前」
「おはつ。ミーはフレネラーペ・ミィ。お友達は『フレネミー』って呼ぶ」
「多分そいつら友人じゃないぞ」
キョトンとされてしまった。
あだ名を変えた方が良いと言いたいところだが本人が気に入っているなら……いや、しかし。
「学年は? というか小さいな。本当に学生か」
「失礼。おない」
「そうは見えないが。何の用だ。俺は忙しい、手短に言え」
「暇でしょ。顔にそう書いてある」
「今忙しいと言ったはずだが」
「いや、暇。間違いなし」
間の抜けた声とマイペースさにアルバートの体力が削られていく。
「もし仮に暇だったとする。だったら何だ」
「今日だけミーのお友達になって」
………………。
続きの言葉を待ったがそこで止まる。
いやいや、説明をしてください。
アルバートは無言でミィを眺める。
数十秒経った頃にようやく自分が言葉足らずだったことに気が付いたらしい。
「この寮って他のに比べたらシンプルすぎると思わない? 塔の中は寮生の部屋だけ。下にスペースはあるけど箒や物ばっかり。共同スペースがない」
「確かにな」
「……しゃべり過ぎた。疲れたからちょっと待って」
「いや全然話してないんだが」
肺活量が弱すぎるだろ。
「察するに隠し部屋みたいなギミックがあるんじゃないかってことか?」
アルバートの言葉に頭を縦に振り肯定する。
「面白そうな話だが、その証拠がない」
「疑惑なら。この寮を作った魔法使いは魔法使いの地下工房の建築士としても有名な人だった」
「ほう」
魔法使いの地下工房。
魔法使いが禁忌を追い求める際に使う地下室のようなもの。
その建築士だったという事は建物になにかしらのギミックを隠していても不思議ではない。
「その隠し部屋を俺に見付けて欲しいわけか。なんだ、俺が探偵と知っての依頼か? なかなかに見る目があるな」
ミィは首を傾げそうになったが縦に振る。
それを見てアルバートは鼻を「ふふん」と鳴らした。




