【Ⅺ】
事件現場、火龍寮屋上。
屋上には【立ち入り禁止】の張り紙が貼ってあり、魔法が展開されていたが無視して入った。
事件現場の保存はなされている。
アルバートとティファは周りを見渡した。
「なんでボクまで……」
「どうせ暇だろ。あのムラサメとかいう鬼人が代わりに働いてくれるさ」
「暇じゃないよ! 魔法植物の面倒を見なくちゃいけないんだけど。元気がない花もあったし。そもそもボクがいてもなんの力にもなれないよ。知ってることと言えば医療知識くらいなものなんだから」
「その知識が欲しいんだ。名探偵には医者の相棒。古代からの常識だぞ」
「タンテイ?」
嫌な事でもあったのか口を膨らませて怒っているティファ。
怖さはない、むしろぷりぷりとしていて可愛いまである。
「ああ、探偵だ。この異世界にはもっとも必要のない職業だがな」
アルバートはなにかを見付けて歩み寄る。
石の破片、原型がなんだったのか分からないくらいに散らばっている。
屋上の装飾が崩れたのかとも思ったが、破損した場所はどこにもない。
ならば事件に関係している証拠の可能性が高いだろう。
元いた世界なら破片全てを血眼になってかき集め、時間をかけて難解のパズルのように組み立てるところだろうが現世のアルバートにはその苦労は必要ない。
便利だが、逆に美学がないとも思ってしまう。
「──修復魔法」
散らばった石はゴロゴロと転がりながら集まって形を作っていく。
それは石像だった。
不愛想な表情の長髪の女性。
胸は手に納まりそうなちょうど良さ。
身長はアルバートより高い。
「これって、アルバの婚約者だよね」
「ああ、紛れもなくベルカーラの石像だ」
アルバートは石像の肩に染みのようなものが出来ている事を確認した。
触れてみると湿っている。
独特な臭いはするがなんの臭いかは分からない。
「ちょっとごめんね。くすぐったいかも」
「ん? ──なっ!? 急になんだ」
ティファに指をペロリと舐められた。
流石のアルバートもびっくりしすぎて声が裏返る。
ふざけているのかと思ったが相手の面持ちは真剣そのもの。
「ピグマリオンの蜜だね」
「あの石の花か」
しかも魔法植物の研究を記した手帳から1ページ抜けていた題材。
「うん。ピグマリオンは石で作られたものを実体化させる魔法植物なんだよ。言ってしまえば魔力消費の必要がない土塊人形の作成だね。呼び名は石塊人形。違う点があるとすれば性格は自分勝手で気分屋だから命令を聞かない、愛してくれる者がいないと自壊れちゃうってところかな」
「なるほど。その蜜がこの石像にかけられているということは──偽ベルカーラの謎はすんなり解けたな。ありがとう、ティファのおかげだ」
「えへへ、それほどでもないよ。でもこんな大きな石像どうやって持ち運んだのかな。犯人は筋肉隆々?」
「何分割か出来るような亀裂がある。部品を数回に分けて運んで屋上で組み立てたんだろう。ひとつひとつはそれほど重くないから子供レベルの筋力でも運べそうだ」
それにしてもよく出来ている。
あの公爵令嬢ベルカーラ・ウェストリンドそのものだ。
しかも魔力を感じないという事は魔法をまったく使用せずに作ったということ。
全てが手作業。
アルバートは頭の先から、顔、首筋、胸、腰、お尻、からのスカートの中──。
「それは人として良くないと思うよ」
覗こうとしたがティファのドン引きの声を聞いて止めた。
決して下心があるわけではない、単に作りこみに感心していたのである。
見えないところまで再現しているのか知りたかっただけ。
探偵の性というのか。
「なあ、手帳がなくなった日の授業はどこの寮だった? ……いや、この質問はムラサメにするべきか」
「ううん。その日はムラサメ先生は出張だったからボクが授業したよ。火龍寮の1年生の次に土龍寮の3年生かな」
「火龍寮の1年生……ならマリアンヌ嬢もいたんだな」
「まあ、そうだったと思う。でもピグマリオンのことなんて授業にはしないよ? 実用性のないマニア向け魔法植物だし」
アルバートは石像に命を与えるピグマリオンの事を知り、引っ掛かっていたものがスッキリとする。
あの時の彼女の言葉の意味を。




