【Ⅹ】
「べ、別に僕たちはそんなエルフの事なんてどうでもいいんですけどね。……好きにしていいってどこまで?」
「言葉通り。どこまで行くかは想像力に任せる」
「ぐへへ、そいつは……でも、たった10秒なんでしょう」
「お前たちの情報次第ではゆーっくりと数えてやっても構わん。ただし〝契約魔法〟によって嘘はつけないぞ」
「その魔法って……つまり、ごほう──見返りも間違いなく支払われるわけですね」
契約魔法。
闇属性、悪魔族が他種族との取引で使っている魔法。
魔法で作られた羊皮紙に血液でお互いの印を押し、約束事を絶対の物にする。
契約を破った場合、強力な呪いが発動し死に至らしめる。
なんか変な黒いオーラが出ているが、契約を破らなければなにも起こらない。
【条件:知っているマリアンヌ嬢の情報を全てアルバートに噓なく話すこと。報酬:魔法薬学教員ティファ を10秒間自由に出来る。またアルバートは対象のティファを転移魔法などで逃がすことを禁じる。】
土龍寮のふたりは怯えを見せたが、ティファの身体を上から下へと下心丸出しの視線で眺めると迷わず羊皮紙に血を付けた。
「うへぇ!?」
その瞬間、こっそり抜け出そうとしていたティファが動きを止める。
景品指定されたせいで拘束されてしまったのだ。
「あの貧民上がりの知ってること……光属性ってことが判明してから男爵の家に養子として引き取られたそうです。ですが貴族は血統によって決まる。養子に入ったところで農民の娘は農民の娘。正直、虫唾が走ります」
「ドラゴネス王国の貴族の血が汚されてしまいますから」
「お前たちの意見は出来るだけ省け。どんな人物なのかを教えてくれ」
「特になにかがあるとは、光属性ってだけ以外は価値のない女です。まあ、身体の方はなかなか上物だとは思うんですけど。ちっせぇくせにでっけぇ」
「甘ったるい性格というか男に媚びを売るのが上手な奴です。だから男にはちやほやされてましたね。爵位の高いご子息とかもいたんでうちの寮の女共がいじめられなくてキレてたくらいです」
当然のように恨みは買っていただろう。
農民の娘が光属性魔力の覚醒で男爵の娘になって、この貴族ばかりの学園に入って来たのだから。
「その男たちの中で恋仲になったとかは聞いているか? 恋人未満でもいいが」
「さあ。 告った奴はいたみたいなんですが、見事に振られたって。なんでも『好きな人がいる』って」
「それが誰か分かるか?」
「……噂によると、そのー、アルバート第三王子だと」
アルバートは固まる。
なんの接点もないし、話したことすらなかったはずだ。
だから想われる可能性は低い気がするが。
「周りの男共によく聞いてたそうなんですよね、『アルバート第三王子ってどんな方?』とかを。そのせいもあって新しい婚約者候補みたいなデマまで流れる始末で」
「それを知ってベルカーラ公爵令嬢は犯行に及んだのではないでしょうか?」
(こいつら意外に情報持ってるな)
それほどにマリアンヌという生徒が良い意味でも悪い意味でも注目の的なんだろう。
なにをやっても噂になり生徒たちで共有される。
この二人が持っている情報は他生徒も知っていそうだが、アルバートは他生徒に魔法をかけるのは少しだけ気乗りしなかった。
「良く絞り出してくれた。契約条件は達成した」
「なら……良いんですね。本当に」
「べべべ、別にこいつのことなんか興味なかったんですけど。据え膳食わぬは男の恥なんて言葉があったようななかったような」
指をくねくねとくねらせ、ごくりっと流れ出しそうな大量な唾を飲み込む。
猛り狂いそうな男二人が動けないティファを囲う。
欲望の対象は「はわわわわ」と震えている。
「──記憶支配」
もはや土龍寮の生徒ではなく、欲深な獣。
震える手でエルフの肌に触れ、撫でる。
ヒルのような舌を精一杯に伸ばし首筋から脇へと舐め回す。
しかし1秒も経っていない。
それは彼等のアドレナリン分泌が激しいのか、はたまたこれが頭の中での出来事だからか。
「……アルバぁ? これは一体」
対象ではなくなったティファは自由に動き出す。
そして白目を向きながら気絶している生徒二人を眺めた。
「可哀想だが、契約書をちゃんと読まないこいつらが悪い」
【魔法薬学教員ティファ( )を10秒間自由に出来る。】
()のなかには小さすぎて見えないが「夢/記憶の存在も対象とする。」と書かれている。
不正ではある気がするがこれは契約魔法、不正前提の魔法。
「目の前で服を脱ぎ出したらたまったもんじゃないからな」
「ボクはなにされそうだったの……」
「そりゃあ、こいつらが部屋でひとりになった時に考える全てを。現に頭の中では大変な事になってるぞ。だが安心しろ。流石にR15で収まるように調整しておいた」
「アルバ、きらい」
「は!?」
むしろ本体を守っただろう、褒めてくれても良いくらいだ。
どうして口を尖らせてぷいっとそっぽを向くのか。




