第4話 待ちに待ったパフェタイム
翌朝、雫はいつも通り家を出て、いつも通り途中で愛乃と合流して学校に向かう。今日は放課後にパフェを食べに行くという予定がある。愛乃もいつにも増して上機嫌で、早く放課後にならないかと何度も言っていた。
授業も、愛乃が数学の課題をせっかくやったにもかかわらず家に忘れてきて、みんなに笑われたこと以外は淡々と進み、今日も何事もなく放課後を迎えることができた。
「はぁ~~…、あんなに頑張ったのに家に忘れるなんて……」
愛乃はひどく落ち込んでいた。数学の授業前後での落差が激しい。こんなに落ち込むなんて珍しいが、昨日はパフェを抜きにして課題を頑張ったのに、結局忘れたらまぁ…落ち込むか。
「元気出して!今からおいしいパフェ食べに行くんだよ」
雫は親友を励ます。と、愛乃は早々に落ち込み顔を解消し、いつもの朗らかさを取り戻した。
「そうだね!うん!パフェを食べてるところを想像しよう!……っと、よだれ出てきた」
「こらこら…」
慌てて手で口元を押さえる愛乃に苦笑い。
その後、早速2人は駅前の大通り沿いにできたパフェのお店に向かった。お店の前に行くと、同じ考えを持っていたのか、学校帰りの女子高生で行列を為していた。
「おぉ…、やっぱりみんな考えてること一緒なんだね」
「でもこれだけ並んでるってことは、味は相当期待できるよ!」
行列に圧倒される雫に対し、愛乃は鼻を鳴らして期待を膨らませる。そんな愛乃を横目に、雫は店頭の方に目を向ける……と、1人の私服姿の女子が店頭に置かれたメニューの立て看板をじっと見つめているのが見えた。黒いキャスケット帽子を被り、淡いグレーのシャツに黒のスカートを身に纏っている。そして肩までかかる茶髪のセミロング……雫はその姿を見てすぐに沙夜だとわかった。
すると、こちらの視線に気づいたのか、沙夜がチラッと視線を向けてきた。
「あっ…!」
雫を見るや、沙夜は驚いた表情で慌てふためき、逃げるように走り去ろうとする。雫は呼び止めようと腕を伸ばすが、声を出す間もなく沙夜は走り去ってしまった。
「どしたの?」
「あ…、ううん。なんでもない」
隣の愛乃が不思議そうな表情で尋ねてきたので、雫は腕をすぐに戻してごまかした。
それから並ぶこと十数分、ようやく店の中に入ることができた。
「あ~~!おいしぃ~~!天国~~!」
2人席のテーブルに置かれたフルーツパフェをスプーンですくい、口に運ぶと甘さが口いっぱいに広がる。期待以上のおいしさに愛乃は頬に手を当てて感激していた。
「うんおいしい!愛乃の選んだお店にハズレなしだね」
「それほどでも~」
雫に褒められて、愛乃は頭をさすって照れてしまう。そんな表情豊かな愛乃を鑑賞しながら雫はパフェを堪能する。
周りを見ても、みんな幸せそうにパフェを堪能しており、陽の感情で溢れているこの空間ではダークマターなんて生じないだろう。
「あ~~おいしかった!」
会計を終え、愛乃は満足げに店を出る。雫も彼女に続いて店を出ようとするが、ふと振り返って店内を見渡す。
……何も異常はない。そこにあるのは、陽の感情に溢れかえった光景だけだった。