第10話 異様な暗黒物質 その4
突如背後に姿を現した巨大なダークマター。雫は驚愕しつつ、すぐさま声を上げた。
「沙夜!!後ろにいる!!」
「えっっ!?後ろっ!?…おわぁぁ!!いたぁぁ!!」
雫の声に驚きつつ、すぐ後ろにいるダークマターを見つけてさらに驚く沙夜。一方、雫はすぐさま右手をかざしてダークマターに向かって炎を放った。闇夜を一瞬で明るくする紅蓮の炎がダークマターに迫っていく。
次の瞬間――ダークマターは勢いよく跳び上がった。
「!!」
「雫!!こっち!!」
一瞬雫の動きが固まってしまったところに、沙夜が手を掴んで素早く退避する。そのコンマ数秒後にダークマターが着地。間一髪避けることができた。
「ありがとう…!」
「距離を置こう。至近距離だとこっちが不利だよ。相手は不定形な存在だからどんな動きをするかわからない。雫の炎は射程があるし、ある程度離れてた方がいいよ!」
沙夜の的確な指示。さすが自分よりも多くの戦いを経験してきたのだろう。今の雫には沙夜がとても頼もしいと思えた。
10メートルくらい離れたところでダークマターと対峙する。これくらい離れていれば、何か急に攻撃してきたときでも十分対応することができる。
「ちょっと派手かも知れないけど…」
雫はそう言うと、右手を上にかざした。――すると、掌の上に火球が発生し、みるみる大きくなると、上空に向かって放たれた。
パァン!!
破裂音のようなものがすると、火球からいくつもの炎が分裂してダークマターの周りに降り注いだ。炎は地面に着火すると勢いよく燃え上がり、直径5メートルくらいの円形状に炎の壁ができあがった。
「おぉーー!!すごいすごい!!ド派手だよ雫ー!!」
大技と言ってもいいくらいの魔法に沙夜は興奮気味だ。正直地味な自分の魔法と比べて、雫の魔法はとても“魔法らしい”のだ。
円形の炎の壁は一切隙間が無く、5メートル位の高さまで燃え上がっているため、中にいるダークマターを完全に閉じ込めたと言える。
「この後は!?」
「まぁ見てて…」
子供のようにワクワクしている沙夜に対し、雫は静かにそう言うと、右手を差し出して拳を握りしめた。
――すると、炎の壁が円の中心に近づいていき――逃れられないダークマターを飲み込んだ。炎は大きな火柱を上げると、フッとろうそくの火を消すように消えてしまった。中にいたダークマターは焼き尽くされ、今度こそ黒い蒸気を上げて消滅したのだった。
再び訪れる闇夜の静寂―――
「おぉぉーー!!すごいすごいすごい!!雫かっこよいよぉ!!」
それに似つかわしくない沙夜の感嘆の声が響き渡り、彼女は雫に勢いよく抱き着いた。抱きつかれた雫は恥ずかしさに頬を赤らめてしまう。
「そ、そこまで感激しなくても…」
「いやいやいやいやっ!感激するでしょ!!THE魔法って感じで見惚れちゃったよ!!こんなすごい魔法も扱えたなんて!!」
べた褒めの嵐に、抱き着かれた恥ずかしさと褒められた恥ずかしさのダブルが雫をさらに動揺させる。沙夜も沙夜で、声が枯れるんじゃないかというくらいの勢いだ。よほど感激したのだろう。恥ずかしいが、褒められたらやっぱり嬉しいので、今後も魔法のバリエーションを増やしていこうと思うのだった。
―――夜も更けた白一色の部屋で、黒髪の男はソファーに座ってタバコをふかしていた。すると、テーブルに置いていたスマホにチャットが届く。男はそれを見てフッとにやけた。
「ほぉー…、改造ダークマターをやっちまったってか。さすが見る目あるじゃねーか」




