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全てが終わったその後で

作者: 今田吉成

「また、どこかで会おう。ゼクト、そしてアムネア」

 それまで同じ歩調で同じ道を歩いていたはずの友人が足を止め、言う。

 そこでようやく、もう別れ道まできていたのだと俺は理解した。

「またどこかでって……。お前が向かう場所は俺達が帰る場所とは正反対じゃないか」

 いつ会えるんだよ……。などと、呆れながらも口元は自然と緩んでしまう。

「そうですよ、ブルーノ。また以前のようにさすらいの旅にでも出るのでしょう? 出会ったばかりの頃のように、空腹で倒れてしまわないかと、(わたくし)は心配ですの……」

 幼馴染(おさななじみ)のアムネアは頬に手を添えながら言った。

「失礼なやつらだな。俺だって今回の旅で成長したんだぞ? もうあの頃の俺とはおさらばさ!」

 友人は声高らかに宣言する。


 ――確かにそう、かもしれない。

 出会ったばかりの俺達は、お互いがお互いを認められず衝突(しょうとつ)しあってばかりだった。今思えば、両者の性格と立場が、協力し合うということを許さなかったのだろう。

 それが変わったのはいつのことだったか。

 長すぎる旅路の果てに、きっかけとなった記憶はどこかに置いてきてしまったようだ。


「しっかし、まぁ……。俺達が世界の危機を救っちまうとはねぇ……。今でも信じられないな」

 上空から降り注ぐ木漏(こも)れ日を浴びながら、俺はブルーノの言葉にそうだな、と返す。

「あまりにも穏やか過ぎて、平和ボケしてしまいそうですわねぇ……」

 アムネアがそう発言した後、俺達の間には一瞬の沈黙が流れる。

 次の瞬間、3人は揃って同じ言葉を口にした。


「「「ほんと、あの頃が嘘みたい」」」


 俺とブルーノは語尾にだ、とだぜ、をつけ足して、3人共がそれぞれの顔を見つめ合う。

「くっ……」

「ふふっ」

「ぷっは!」

 その場にいた全員が吹き出すまでにそう時間はかからなかった。

「なぁ、覚えてるか? ティアレー城でのこと」

 俺の質問に、ブルーノは笑いながら答える。

「ああ、もちろんだ! あの時はエンフィーに世話になったよなぁ!」

「エンフィーの魔法で空をひとっ飛び! まさか、魔法にあんな使い方があるなんて思いもしませんでしたわ……」

 今、この場にいない小さな魔法使いのことを話す。

「ゴルドルバ渓谷(けいこく)では、時助(ときすけ)の能力に助けられた」

「ニンジャという一族は、素早さにおいては天下一品ですわね……」

 アムネアは当時のことを思い出したのか、驚いた顔をあらわにする。

「まあ……。でもやっぱり一番の思い出と言ったら、あれしかないだろ?」

 ブルーノの発言をきっかけに、3人は合わせていた視線を上空へと移した。


「俺達、ほんとにあんなところまで行ったんだよな……?」

「ええ……。きっと、間違いなく……」

「誰も世界の外側があんなことになっていたなんて、想像出来る訳ねぇよなぁ……」

 今でこそ青く澄んでいる空を、あの時の景色と照らし合わせながら眺める。

「でも、やっぱり(わたくし)たち勝ったんですのね」

「ああ、あの強大な敵に対してよくやったよ」

 アムネアとブルーノは、自分達の手で勝ち取った平穏な日常に身をゆだねながら呟いた。

「エンフィーによる究極魔法が完成した今、かの者がこの世界を覆うことは、もう出来なくなるでしょう」

「永続的な平和、それこそがクライル師匠の最終目標だった」

「ようやく、約束を果たせましたわね」

 俺は幼馴染と共に、今は亡き師への思いを口にする。

「どこの誰の為になったのかは分からんが、俺は……その、なんだ……」

 友人はその先を続けることなく、いつも身につけていた帽子を更に深くかぶった。

「どうかしましたの? ブルーノ」

「ん……。いや! いい。俺には似合わん言葉だ!」

 そう言うと俺とアムネアに背を向けて、友人は別れ道の右側へと足を向ける。

「もう行くのか?」

 という俺の問いかけに返事をすることなく、前へ前へと歩き始めるのだった。


 一歩進むごとに遠くなっていくブルーノの背中。

 戦いの最中とても大きく感じられたその背中が、今、この瞬間は小さく見えた。

 穏やかで、静かに流れる時間と共に、それまで当たり前のように隣に立っていた友人との別れがやってくる。


 慌ただしく、息つく暇もない、常に走り続けた旅路ではあった。

 だが、あの刹那(せつな)のように過ぎ去った日々の出来事は、全て昨日のことのように思い出すことができる。

 誰とどこで何を話したかとか、どんな敵と遭遇したかとか、どんなことを嘆いたかとか、どんなことで救われたかとか――……。


 ああ、俺は――――――。

 その先の感情を手繰り寄せようとして、

「――――――かった!」

 傾き始める太陽に照らされ、そのシルエットしか見えなくなってしまった友人の声で我に返った。

「ん? ブルーノはなんて言ってますの?」

 アムネアが(いぶか)しんだ顔をする。

「――――しかった!」

「ブルーノ!! 聞こえませんわー!!!」

 アムネアの遠くまで響く透き通った声が聞こえたのか、友人はより一層大きな声で叫んだ。



「楽しかった! 俺は、お前達との旅が、めちゃくちゃ楽しかったあああああああ!」



 ――それは、俺が今一番口にしたかった言葉。



「俺だって、俺だって!! すっげええええ、楽しかったあああああああ!!」

(わたくし)だって! 負けないくらい楽しかったですわあああああ!!」


 幼馴染と俺は、喉が痛くなるほど馬鹿みたいに叫びまくって、友人の声に答えた。


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 もう、遠くの景色に友人の陰は見えない。

 それでもいまだ手を振るのを止めようとしない幼馴染に、俺は言う。

「……そろそろ、行こうか」

「そう……ですわね」

「しかし、ブルーノは最後の最後まで賑やかだったな」

「ふふ、本当にあの人は太陽みたいな人でしたわ」


 俺達は、友人が進んだ道とは真逆の方向へと足を1歩踏み出す。

 あの、賑やかで、夢のように過ぎ去っていった日々に別れを告げるように。


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「はぁ? お前自分が何言ってんのか分かってるか?」

「もちろんだ! 俺達はこれから、この世界を救いに行くんだ!」


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END

とある曲を聞いて、どうしても書きたくなってしまったお話になります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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