とある二人の夏の日の一コマ
「あっつ~い」
「もう何度目だよ……もう少しなんだから我慢しろよ」
「いや~あついっすわ~。溶けますわ~」
「おうおう溶けてろ」
「運んで」
「そのまま蒸発してしまえ」
「ひどっ」
「俺の両手は提灯とヤカンで塞がってるからな」
「んでポケットにはライターとお線香が」
「お前が一切持たないからな」
「……なんでお盆って、お迎えに行かなきゃならないん?」
「いや、昔からそういうもんだから」
「時代はもう変わったんだから、せめてこう、バスかなんかで送迎を」
「罰当たりめ」
「だって~」
「はいはい。もうすぐ家につくから」
「帰ったら私、お風呂入ってさっぱりするんだ」
「死亡フラグ乙」
「あ、一緒に入りたい~?」
「黙ってろ既婚者。旦那にチクんぞ」
「わー非モテ童貞が怒ったー」
「どどどどどどど童貞ちゃうわ」
「テンプレ返し乙。なお今現在」
「ああそうだよ彼女もいない独り身よ!」
「なお今までの彼女たちは?」
「すでに結婚している」
「なおなお?」
「お相手はどいつもこいつも高スペック」
「私の旦那もね!」
「クソが」
「ふふふ。ママのアドバイスに従った結果ですことよ」
「どんな?」
「『男なんて股にぶら下がったモノをガッ! と掴めばいい』って」
「おいぃ」
「なおパパからは『場所と力加減には気を付けてね』って言われた」
「おいぃ!?」
「あの時のパパの表情は忘れられない」
「ノーコメントで」
「あーやっと家に着いたー」
「お疲れ」
「この後どうするの?」
「一段落したら買い物に行く。母さんの好きな和菓子に、父さんの好きな酒を買わないと」
「あ~」
「留守番よろ」
「私も行くから」
「いいのか?」
「だからちょっと待ってて」
「はいよ」
「ねぇアニキ」
「ん?」
「やっぱり街の方に来ない?」
「……」
「いくら長男で、庭付きの家でも、こんなド田舎で一人暮らしなんて……何かあった時に心配だよ」
「って言ってもなぁ」
「確かにここは私たちの実家だよ? パパとママと、皆で暮らしてた思い出の家だけど、だからってアニキがそこに住まなきゃいけないって訳じゃないでしょ?」
「そうは言うがな? 父さんも母さんも亡くなって、遺産を俺が相続して、俺の持ち家になった訳だし? 今の世の中、ネット回線と車があれば大体のことは対応できる訳だし」
「でも、山の中だよ」
「都会じゃ庭付き一戸建てにどれだけの金がかかるか分かんないからな。こっちなら維持するのは……まぁなんとかなるし」
「たった一人で?」
「……ん~。まぁ今は独りで好き勝手したいからなぁ」
「リフォームでもしなきゃ不便でしょ?」
「そうだな。ネット回線も引かなきゃならんし、水道は川の水だし、ガスは自分でボンベを運搬せにゃならんし、トイレはに至っては……」
「ね、やっぱり街の方で暮らそうよ」
「でもな、リフォームなら某番組に依頼するという手も」
「気合入れて化粧しなきゃ!」
「気が早い……っ!?」
「出演決まったら絶対電話してね!? ちょっぱやで来るから!」
「落ち着け。そして風呂にさっさと入れ」
「は~い。あ、やっぱり一緒に入る~?」
「旦那に言っとくわ」
「寝取られビデオレター風でよろ!」
「ハードルが……高い……っ!」
「……勝手にいなくならないでよ?」
「大丈夫だ。俺はここにいる」
「ん」
「さっさと行ってこい」
「あ、そうだ。今日の晩御飯も買ってこようよ」
「だな」
「あとアレも買お」
「何?」
「蚊帳」
「売ってんのかぁ?」
「見つけるまでデートするんだよぅ!」