人喰いの力
アッシュは猛烈な勢いでアレクサンダーに襲い掛かっていた。
高速で動きまわりながら一瞬のうちに間合いを詰め曲剣を打ち込んではまた距離を取るという事を繰り返していた。
しかし、アレクサンダーも見事な剣捌きで全ての攻撃を防いでいた。
激しく斬り結ぶ二人を見ながら、ソウタは呟いた。
「人喰いだって?」
「人の命を喰う悪魔だよ。奴等は人を喰って強くなるんだ。
しかし、実在していたとは・・・俺も初めて見た。」
メイソンはソウタに説明した。
アッシュは戦いながらデクに向かって叫んだ。
「いつまで寝てるんだ!!ガキを捕まえろ!!」
「お、おう」
デクは急いで立ち上がった。
一人殺された事でデクを掴んでいた人達は恐怖のあまりデクを完全に解放していた。
デクが立ち上がるのを見て、ソウタは倒れている盗賊から短剣を奪った。
「メイソン逃げるぞ。」
そのままソウタとメイソンは、アレクサンダーが来た道とは逆方向の道へ駆け出した。
「おめーも、もう大丈夫だろ。」
デクはすぐにはソウタ達を追いかけずにウドを起こした。
「ああ、あのガキをブチのめしてやる。」
ウドは腰にぶら下げていたこん棒を握りしめた。
「しょせんはガキだ、すぐに捕まえて俺たちの怖さをたっぷり教えてやろう。」
デクとウドはソウタとメイソンを追いかけ始めた。
アレクサンダーはメイソン達を助けに行きたかったが、アッシュの攻撃が激しく動けなかった。
(まずは、こいつを斬らねば。)
アレクサンダーは反撃に出ようとアッシュの曲刀を受けた後に剣を振った。
しかし、アッシュにかわされて鋭い一撃をもらいそうになる。
「あの盗賊人喰いだったのか。」
「け、剣聖様なら大丈夫なはずだ・・・」
「だけど、押されてるじゃないか。」
「もうダメだ・・・」
牢屋にいた人達にはアッシュが人喰いだと分かり不安が拡がっていた。
(私が敗れれば、私が命を失うだけでなく王国が混乱するだろう。負けるわけにはいかない。
しかし、このままここに留まっているいるわけにもいかない。)
アレクサンダーは大きく深呼吸した。
そして、剣を降ろしアッシュの攻撃を躱しはじめた。
アッシュの攻撃がアレクサンダーの眼前をかすめる。
髪を数本切ることもある。
しかし、当たらなかった。
アッシュが何度攻撃しても当たらなかった。
「クソが!!」
アッシュがムキになって大振りをした瞬間だった。
アレクサンダーの眼光が鋭く光り剣が高速で振られた。
アッシュの首は斬られていた。
胴体は血を吹き出しながら倒れ、頭は大きく浮いた後に胴体の横に落ちた。
アレクサンダーは大きく息を吐いた。
強敵を倒した満足感があった。
「さすが、剣聖様だ!!」
「やっぱり人喰いなんかに負けるわけが無いと思っていたんだ!!」
捕まっている人達も歓声をあげて喜んでいる。
しかし、アレクサンダーは喜びにひたっている訳にはいかなかった。
「皆さん、すまない。私はメイソン様を追わなければならない。
暫くすれば助けが来るはずだ。もう少しだけ待っていて欲しい。」
アレクサンダーはメイソン達を追うために進みはじめた。
その瞬間、背後から鋭い殺気を感じて、アレクサンダーは振り向いた。
アッシュが右手の曲刀を振り上げてせまっていた。
(さすが剣聖さま気づくとはな。しかし想定内だ。こいつは俺の右腕を斬り飛ばすだろう。
だがその時がこいつの終わりだ。左の曲刀でこいつを貫いてやる。)
アッシュはマントの中の左手にもう一本の曲刀を握っていた。
ドスッ
アッシュの右手の曲刀がアレクサンダーの左肩に入った。
アッシュは防がれる予定の攻撃がきまり驚いた。
次の瞬間、アレクサンダーの剣がアッシュの右脇腹から入り左脇腹を抜けた。
そして、そのまま左手も斬り飛ばした。
凄まじい一撃で斬られたアッシュの上半身と下半身は吹っ飛ばされていた。
アレクサンダーは膝をついた。
アッシュに負わされた傷は致命傷ではないが浅くもなかった。
アッシュの上半身と下半身に流れた血が戻りはじめくっつきはじめた。
しかし、今までよりも回復に時間がかかっているようだった。
左手も修復されたところで、アッシュは立ち上がった。
「剣聖様を殺ったと思ったんだが、あれに反応されるとはな。
これ以上斬られるのも嫌だし、ここで退かせてもらうわ。
ちなみに治るけど痛いんだぜ。
まあ、あんたもあのガキもいずれ殺すから。」
アッシュはソウタ達とは逆方向へ消えていった。
アレクサンダーはアッシュが消えるのを確認してメイソン達を追いかけようとした。
しかし、ソウタ達と同じ牢に入っていた男が出てきて止めた。
「お待ちください、その傷では無理です。」
「しかし、私は行かねばならない。」
アレクサンダーの出血は止まりそうになかったが無理にでも行こうとした。
「行っても戦えなければ意味がありません。せめて応急処置だけでもさせてくださいませ。」
捕まっていた男は必死でアレクサンダーを止めた。
アレクサンダーは少し考えてから答えた。
「分かった。」
負傷したアレクサンダーにはメイソン達の無事を祈る事しかできなかった。