盗賊と騎士
その騎士は端正な顔立ちをしていた。
白銀の鎧に白いマントを羽織り、剣を握るその立ち姿はただただ美しかった。
「私の名は、アレクサンダー ラングウィッツだ。大人しく投降したまえ。」
「アレクサンダーって剣聖じゃないか。王国最強の騎士かよ・・・」
デクは完全に怯えている。
「なんだってこんな大物が・・・」
ウドもさっきまでの喜びようが嘘のように意気消沈していた。
「助けが来たのか。」
「剣聖様が来てくれたらしい。」
周りの牢屋では捕まっている人達が鉄格子に集まってきていた。
「良かったな、ウド。
お前がそのガキを抱えてなかったら、すでに剣聖様に斬られていたかもな。
こいつのにように。」
アッシュは倒れている盗賊を軽く蹴った。
「ぅぅ」
倒れている盗賊はとても弱弱しい声を出した。まだかろうじて生きているようだ。
「剣聖様がここにいる理由はそのガキだろう。だからそのガキを離すなよ。」
アッシュだけは落ち着いていた。
「分かった、ボス。」
ウドも少し落ち着きを取り戻したようだ。
「仲間を足蹴にするのか?」
アレクサンダーは不快感をあらわにした。
「ああ、さっきまでは仲間だったがな。
お前が斬ったせいで使い物にならなくなった。」
アッシュはニヤけながら答えた。
「さて、お互いこのままでは手が出せない、取引しようじゃないか。」
「素直に投降してもらえれば助かるのだがな。」
「おいおい、そんな事あるわけないだろ。そんなんじゃ話にならないぞ。」
アッシュは呆れながら言った。
ドンッ!!
その時ウドは突然脇腹に衝撃を受けた。
その勢いでメイソンを落としてしまい、挙句にデクを巻き込んで倒れてしまった。
ソウタが全力の飛び蹴りをいれたのだ。
その瞬間、アッシュは右手で曲刀を抜きアレクサンダーに斬りかかり、アレクサンダーも一気に距離を詰めアッシュに向かって剣を振った。
キィン!!
剣と曲刀が激しくぶつかった。
「テメーら!!ガキを捕まえろ!!」
アッシュが叫んだ。
しかし、ウドもデクも動けなかった。
ウドはまだ呼吸が戻らず苦しんでいた。
デクはソウタが入っていたのとは反対側の牢屋の前に倒れた際に、牢屋の中の人達に腕を掴まれていた。
「ちっ、バカが!!」
アッシュはそう吐き捨てると、アレクサンダーに曲刀を何度も打ち込んだ。
しかし、全ての連撃はアレクサンダーに受けられ、かわされ、流された。
ソウタはメイソンの無事を確認し、アレクサンダーに向かって叫んだ。
「メイソンは大丈夫だ!!」
「ナイスだ、少年。」
アレクサンダーは両手に力を込め右下から左上へ斬り上げた。
アッシュは左脇腹から右の肩口まで斬られてデクの横に吹っ飛ばされた。
「ぐはっ!!」
アッシュは血を吐き出した。
とても苦しそうに息をしている。
傷口はとても深くもう長くは持ちそうになかった。
「盗賊にしてはなかなかの剣技だった。」
アレクサンダーはアッシュを称賛した。
「ははは、くくく、くははは、ゴホッ、ゴホッ」
アッシュは笑いながら咳をしていた。
「何が可笑しい?」
斬られた男が笑っている事にアレクサンダーは少し得体のしれない不気味さを感じた。
「くくくくくく、ここに来たかったんだよ。この場所に。」
そう言うとアッシュはデクの腕を抑えている男の喉笛を掴んだ。
喉笛を掴まれた男はデクから手を離しアッシュの腕を振りほどこうとしたがまったく外れそうになかった。
それどころか喉笛を掴んでいる握力はさらに強くなっていく。
「さあ、復活だ。」
アッシュはそのまま男の喉笛を握りつぶしてしまった。
「道連れのつもりか。」
アレクサンダーはアッシュを睨みつけた。
アッシュの腕に男の血が流れはじめた。
その時だった、アッシュから流れ出していた血液はアッシュの身体へ逆流し戻っていきはじめた。
そして血がアッシュの身体に戻ると、次は傷口がみるみる塞がっていった。
「貴様、人喰いだったか。」
アレクサンダーは剣を構えた。
アッシュはゆっくりと立ち上がった。
「さて、2回戦といこうか。」
そう言うと、アッシュはアレクサンダーに斬りかかった。
アッシュの動きはさっきより速く強くなっていた。