最高で最悪な一日
高校2年の2月14日、学校からの帰り道、久留木 颯太は、幸せの絶頂にいた。
何故なら学校一の美少女である伊吹 桜からチョコを渡されたのだ。
しかも本命チョコの可能性が高い!!
颯太はチョコを受け取った時の事を思い出していた。
図書委員をやっていた颯太は放課後の図書室を片付けていた。
片付けといっても数冊の本を棚に戻すだけだ。
片付けが終わった頃、同じ図書委員の桜が話しかけてきた。
「ねえ、チョコはもらった?」
「いや全然、義理チョコすらないよ。」
颯太は苦笑いしながら答えた。
「そっか、じゃあこれあげる。」
桜はかわいく包装された小箱を颯太に渡した。
「バレンタインだから、チョコだよ。」
チョコを受け取った颯太は完全にパニックに陥った。
普通なら義理チョコぐらいにしか思わないだろう。
しかし、桜は確かに先週こう言っていた。
「私は義理チョコなんて配らないんだ。好きな人、つまり本命チョコしか渡さないんだ。」
(何で俺がチョコを???桜からだよな???本命にしか渡さないんだよな???学校一の美少女だよな???俺ってモテる奴じゃないよな???)
完全に固まっている颯太に桜が話かける。
「ねえねえ、なんか言ってよ。」
「お、おう、ありがとう。」
颯太は何とか声を出して答えた。
期待していた返事と違ったのだろう、桜はちょっとだけムっとした表情をした。
「そのチョコの意味分かるよね?ちゃんと返事してよね?ホワイトデーまでは待つから。」
そう言い残すと桜は図書室から小走りで出て行った。
その姿を見て颯太はしばらく立ちすくんでいた。
学校からの帰り道の足取りがとても軽い。
颯太は思い出す度に笑みがこぼれていた。
(あの桜だぞ?
こんな事ってあるのか!?
幸せ過ぎてもう死んでも構わない!!)
颯太がそう思った瞬間だった。
突然、空が真っ黒になった。
何事かと思い颯太は立ち止まり空を見上げた。
すると、真っ黒な空に巨大な穴が生まれた。
そして颯太をゆっくりと吸い上げ始めた。
(な・・・なんなんだこれは!!)
颯太は必死でもがいた。
しかし、それでも吸い上げられていく。
(死んでもいいとか思ったからか? ならあれは取り消す!! というかウソだ!! 降ろしてくれ!!)
颯太はもがいた、もがき続けた。
しかし、必死の抵抗も意味をなさず、とうとう穴に飲まれてしまった。
気づいた時、颯太はうつ伏せで倒れていた。
穴に飲まれてから長い時間がたったのか、それとも一瞬のことなのかよく分からなかった。
颯太は首だけ持ち上げて辺りを見回した。
どうやらどこかの小屋の中のようだ。
木造の小屋の中に藁だけが積まれている。
何やら外は騒がしい。
大勢の人が叫んでいる声がする。
バタン!!
突然、大きな音が鳴り響き扉が開いた。
そして二人の男が入ってきた。
外国人のようだ。
一人は大柄な男でこん棒を持っている。
もう一人はそれほど大きくは無いが剣を持っている。
雰囲気は良くない、悪人のそれだ。
颯太は急いで立ち上がった。
(中世ヨーロッパの野盗って感じだな・・・コスプレかな?)
「こんなとこにもいたぜ。」
「早く連れて帰ろう。」
そんな会話をすると二人は颯太に近づいてきた。
「あ、あなた方は誰ですか?」
颯太は後ずさりしながら聞いた。
しかし、二人は構わず近づいてくる。
颯太が別の質問をしようと口を開いた瞬間だった。
ゴン!!
大柄な男がこん棒で颯太を殴りつけた。
颯太はそのまま気を失ってしまった。