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高い所が死ぬほど嫌いな俺が、空中ダンジョンの下級貴族の子に転生した話  作者: きたぼん


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56 試練のダンジョン 2階 Pt2


「キミを信用したわけではないかなら。ボリ。背に腹はかえられぬと、ボリ。致し方なく、ポリ」

「いいから、食え。”油ズール”」


クッキーをちっちゃく割っては、一口ずつ口元に運ぶ。

食が細くはないようで、片手いっぱいのクッキーを、三度おかわりしてる。

小鳥の啄みというのか、上級貴族の優雅さとはちょっと違う。とにかく遅い。


レリア、フレッドは、とっくに食べ終えて、

時前のスキルで、通路に出没するカエルを倒しまくってる。

そちらを見たり、クッキーをほおばったり、俺を睨んだり。

”油ズール”は忙しい。


フレッドが【盾】で押さえたカエルを、レリアが【火魔法】で仕留める。

さっき倒した大型の魔物もカエルだったが、それよりは二回りほど小さい。

倒しやすい。カンを取り戻すため二人絶賛戦闘中だ。

俺も一度、参戦したが、倒してもSPは貰えなかった。

2人なら1づつ割り振られが、3人以上だと0。

パーティ戦は非推奨らしい。


カエルは、二匹に一度はパンを落とす。

動けば腹は減るものだが、それが、この階層ではそれが増幅してる。

腹は減るが食料はゲットできる。リポップも早い。

気の利いたというより、自転車操業的。


デカいカエルが落としたカバンは、アイテムバックだった。

サイズは無限大で30キロも入る。

なのに、持った重さは、いくら入れても1キログラムで固定。

パンのような軽量物なら、200個は入りそうだ。

持ち歩く食料貯蔵庫。


貯蔵というなら【土建設計(アーキテクチャ)】の【ルーム】でも、

保管できる部屋が作れる。貯蔵室と収納庫だ。

違いは、前者が主に冷凍・冷蔵の食糧なら、後者はその他。

早よう欲しもんだが、実体化の目途はたってない。


土建設計(アーキテクチャ)】では、目的仕様にそって設計し、

それを実体化する、という手順が踏まれる。

バットみたいな単純モノなら、その限りではないから楽だけど。

これまでも、部屋のクローゼットや壁紙など、素材を揃えて実体化してる。


貯蔵室と収納庫の設計図は、牢の部屋で完成させてる。

でも掘ればいいだけの地下室と違い、移動可能な貯蔵庫に材料がいる。

制作には、金属、木材、布、不燃土の材料が必要だけど、足りないのだ。


”金属”。

漠然としてるかなんでもいいんだろうが無い。まとまった鉄もない。

俺のいた世界じゃ、1キロあたり1円もしない買取価格だったが、

シタデルは、木と土。それから謎素材で創造された世界だ。

アルミや銅どころか、鉄もあまりみかけてない。


”不燃土”。

土ならばなんでも不燃だと思うが、そこらの土は対象外。

建築素材向きじゃないということか。目的に合致しないらしい。

【土魔法】で出してもみたが、違うらしい。意外とシビアだ。


そんな思案の最中も、ゆっくり食ってる。油ズール。

”牛乳は噛んでから飲む世代”ではないが、一口に時間かけすぎだ。

消化器官に不具合でもあるのだろうか。


「油ズールさあ。急かすつもりはないけど、時間がたつほど、空腹になるよ。獲れるだけパンをとって次の階に上がってしまいたい」

「もうお腹すいた」

「食べないでフレッド」


ドロップ品のパンを食べようとするフレッドに待ったをかけた。

レリアも、物欲しそうに指をくわえてる。

じつは俺の腹も、さっきから空きっ腹の信号を鳴らしてる。


食糧は簡単に調達できるが、腹の減り方も尋常じゃない。

なんか、手際と忍耐を試せされてる感じだ。

でも食べてはいけない。


パンがゲットできる、とっても貴重な階層だ。

この階で食い切ってしまう具策は、冗談でも避けたい。

複写で製造してるクッキーだが、材料が確定されてないだけのことで、

なんらかのリソースを割いてるはずなんだ。


いつまで供給できるか、俺にさえわからない。

備蓄は、多ければ多いほど安心できるからな。

パンには、なるべく手をつけたくない。


「ところで、油ズールとはなんだ。それは私の名前なのか?」

「そうだ――」


と言いかける。

上級貴族に名無しで通すのは、おかわいそう。

いや、めんどくさいってのが本音だが。

面倒ごとは、さくさく片付けていきたい派。


「――思い出したんだ。それがキミの」

「アディラ=ビェズル。それがなまえ」


俺の言葉をさえぎり、フレッドが告げた。

記憶力スゲえ。ステージで名乗ったのを覚えてたのか。


どデカいスプーン攻撃するカエルに対し、身の丈よりデカい盾で踏ん張ってる状況。

どこに余裕があるのか、つぶやいたのだ。


呼ばれた娘の瞳に、光が走る。

落とし気味だった肩がビシッと、背筋がシュッと。

自信を取り戻し、槍の握る指先さえ優雅さに満ちていく。

驚異の変貌ぶりは、魔法少女の変身を想起させる。


「おお!」


幼さが、眉ギリギリで斬り揃えた前髪に残る。ブランよりやや小さい身長。

だが少女めいてるのはそこまで。ほかは立派な大人を備えてる。

防具に隠れても隠しきれない胸。全体に均等のとれた体のライン。

大人の階段を登る成長期に許されるエロチズム。


いずれは、群がる男を軽くあしらうレディと成長していく。

あともうすこしだけ。でも今だけは、少女のままでいてくれ。

そんな願いをこめて、両手をあわせた。

何に祈ってるんだ俺は。


変身を終えたとたん、アディラが動く。槍は風を切り裂いた。

ゆるい光源をうけ切っ先が輝いて、先端がピタリと定まった。

俺の首元に。


「貴様、だましたな」


キミから貴様へ、呼びかけが降格。

否。”貴様”は、軍隊において仲間への親密な呼びかけと聞いたことがあった。

昇格したと解釈してもいいのかな。レベルアップなら異存はない。

血走った眼でにらんでる。


「いやあ。偽名でスキルを覚えた場合を検証したかったんですが。しかたない……いや、名前がわかってよかったですね」


つい本音が。フレンドシップは、ここまでか。

穂先を掌で握り、やんわり逸らす。


「む? 素手で穂先をつかむとはバカなのか。むむ、動かん! 貴様何をした」

「なあに、たんなるスキルですよ」


土建設計(アーキテクチャ)】の【基本家屋】だ。

部屋の間取りや仕切りにつかう架空の線で、侵入を拒む特性がある。

外壁ならブロックやサイディング防音材、

屋内なら板やカーテンなどを配置するための、ただの境界線なのだが。

こうして、結界のような能力がある。


間取りっていうのは直線直角が通常だが、曲線や雲形でも描けたりする。

手の形にして左手に這わせたってわけだ。

ただの仕切りだ。衝撃には弱い。

大ハンマーなんかで思いっきり叩けば物理的に壊せる。

強靭な透明手袋といったところだが、こけおどしなら十分だ。


「スキル! 非道なる手段でスキルを得たと、ウィゲリーリ=ガモルクは言ってたが。誠だったか」

「先をいそぎますか。フレッドと俺が前衛レリアは後衛。ふたりともいいですか」

「迷いの森とおなじだね。サムロスとグーネいないけど」


レリアが言い、フレッドがいいよとうなづく。

迷いの森では4人パーティを組んでいた。

遠くの敵は、グーネが【ホーミング】で射抜く。

接近する敵はサムロスが、声で威嚇しフレッドとともに【盾】で防御、

レリアが【火魔法】で仕留めた。


「アディラさんは……後衛で背後をお願いします」

「それでいい。貴様は死んでもかまわないが、幼いふたりは守りたい」

「俺も幼いんですが」

「笑わせるな」



直線の通路にもどって、進んでいく。

カエルはケロッグクックといって、デカいスプーンで刺す攻撃をしかけてきた。

難なく退ける、俺の出番はない。

ドロップするのはパンだけでなく、ときどき肉も落とす。

食いつきそうな目から、奪うように、ありがたくアイテムバッグに仕舞っていく。


スキルはいまのところ、ゲットしてない。

ゲット率が低いのか。まったく無いのか。

一階もだったが、そういう階層だ。

たんまり貰えた迷いの森との相違に首をひねる。


レイラとフレッドをみてればわかる。

スキルのありと無しじゃ、戦闘力や対処力が雲泥の差。

アディラ娘には背後を任せるといったが、

スキルをもたない彼女は、このパーティでは再弱だ。

槍技術は高いのだろうが、いまのところ守るべき乙女だ。


しばらくいくと、戦かいの音と懇願する声がした。

銀髪・銀目、男児かとみまがうような短髪。

女性にしては背が高い人物が、鞭をふるってカエルと戦っていた。


「お腹が空いて死にそうなのです。気持ち悪いカエル落としたパンなど、ばっちくて食べられないのです。わたしを産み育てた見知らぬ誰かさま。命が果てる不幸を許してほしいのです」


思わぬデジャブ。

ついコメカミのあたりに手をやった。

そういう文化なのか。


そいつは、グルーム家を目の仇にし、俺たちを牢に放り込んでシバイた女。

ウィゲリーリ=ガモルクだった。



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