45 全員集合かい
「これ、は……転送」
攻略が完了して、ダンジョン外に連れだされたときにつつまれたエフェクトと同じだ。
ダンジョン攻略が完了したっていうのか?
まずい。まだマスは踏み切ってないってのに。
レリアたちと離れ離れになってしまう。
転送は一瞬だった。
もしくはそう感じただけかもしれない。
転送のホワイトアウトから解放されて視認できたのは矢じり。
目と鼻の先に、人と思わしき小学6年生くらいの子が、矢を突きつけてきたのだ。
時を移さず騎士さんが、背後にすべりこんだ。
刺さる痛みを横腹あるはずなのに、女の子の金属矢尻は微動だにしない。
「えれー風変わりな魔物だな。おめー、焼いて食ったらうめーか?」
「く、食うな、人間だから」
スゲーなこの娘。いろんな意味で。
「そうかい。あたしを知ってる奴って、あんたのこと?」
「そこのおねーさんが言ったんなら、その通りだ」
直接は知らん。名前も知らん。狩人親子がいるって話を聞いたことあるだけ。
引き絞った弦を緩めて弓を下げたの受けて、騎士さんがナイフを収め、そのままブランの元に跪いた。
緊張感ぱねぇお出迎えだ。
しょっぱなから、これか。
「話を途中で打ち切るなんてどういうことなのテルアキ。しかも到着が遅い。たいくつしのぎに子供たちの相手をしていたわよ」
腕を組んで眉を吊り上げるブランが、ふんっと鼻から息を噴きだす。
遅いって言われてもなぁ。想定する直行より、速攻で登場したんだが。
ブランの左右がにぎやかだ。
右側では、革鎧の裾を握った幼い姉がいて、反対の手は弟を離さない。
左側では、騒ぐ少年を蔦で縛り付けてる。
「キレイなばんぞくのおねーちゃん。ここってどこなの?」
「ふぁー。おなかすいたあ」
「てめーアホ貴族、森を探検のじゃますんなよ! この縛りを解け!」
状況を把握しようとするレリア。眠そうなフレッド、
冒険のワクワクに、貴族と解ってても、居ても立ってもいられないサムロス。
俺が予想したとおりの役柄を醸し出してる人だった。
それに狩人女子とは、どんな組み合わせだ。
全員を一か所に集めた理由も、気になる。
レリアたちを、ここ、ブランのポイントに誘導し、俺と騎士さんも転送。
またしても、意志があるとしか思えないダンジョンの挙動だ。
理由がないはずがない。
「何を呆けてるのだグルーム三男。毒気を抜かれた顔つきだぞ。怒気はどこへいった」
「ああ。まあ……」
騎士さんがわずかに顔をあげる。
まぁ、俺の疑念は杞憂におわったわけで。
初心を砕かれてしまった心境は否めない。
いろいろてんこ盛りすぎだろ。
でもまずは、名前だな。グリーン髪のふたりの肩に手を置いた。
「え、え? あなたはだれ?」
「……?」
不安のこもった焦点の合わない目のレリア。
いつものように我関せずなジト目のフレッド。
そっと二人にささやいた。
「レリア。フレッド」
瞬間、瞳から不安が消えた。
俺をルミナスだと認識した色になった。
「……? れりあ? うあああああ! レリアそうわたしはレリア。レリア=グルーム」
「ぼく、フレッド。ルミナス兄ぃって。うんわかるよ」
面白いっていうのは、不謹慎か。
ルミナスの記憶が戻ったときの俺も、こうだったのだろうか。
俺は、肩から手をおろす。とっさ、その手をレリアが握った。
ほんのりお菓子の甘い香りがするのと対照的に、汗でじっとりだ。
「た、たいへんなのルミィ。じょうきゅうきぞくがいっぱい来てね。スキルの子をだせって。こわいって思ってたら、セバサが来てアラモスの言うことを聞いて逃げろって……」
「レリア。落ち着いて話して。誰がいっぱい来たんです?」
「だからじょうきゅう貴族。いちばんえらそうなのは、バサネスとかって言ってたよ」
とりとめないが、”スキルの子”なら俺しかいない。
上級貴族が俺を出せと。温泉に行こうよー、とか、お菓子をくれるとか。
そんなハッピーな用事じゃないだろな。
子供がスキルをもつのは、拉致したくなるくらい重大な事なのか。
俺をさらって、どうするつもりなんだろ。
どこから情報が知られたかわからないけど。隠れていたほうがいいんだろうな。
「バサネス? バサネス伯爵しかいないわよね。伯爵本人が下級貴族に足を運んだりしないから、息子のネイサンじゃないかしら。兄のリーデンタットとはウマが合うみたいだわね。一昨日も街に出かけていったわ」
そこから漏れたんじゃねーか!
「ブランさんや。その兄に俺ことを言ったとか。とくにスキルなんか」
「テルアキのスキルのなんて、一言だって話していないわよ。私のことだけよ」
私がスキル持ちになった事実から、推測されててるよなあー。
でもおそらく、名前まではわかってない。グルーム家の幼児どまりだ。
だからこそ、年恰好の似た子供みんなをさらおうとした。そんなところか。
トマスは歳が違いすぎるし。
セバサが二人を逃がしたのは、さすがだ。
そのことで難題を呼びこまなきゃいいんだけど。
「やい! 森と風の冒険がオレをまってるんだよ! 木の魔法を解きやがれ! この、でっかいのにちっちゃい貴族!」
こいつは記憶がないくせに、目が活きてるんだよな。
基本的な生命力が、野生っぽい。
「この子はキミの知り合いではないわよね? そうだわね? そうに決めたから! 活かすも殺すもダンジョンのお導きにしてあげるわ」
「……導くなよ。あいにく知り合いだし」
真っ赤になって胸を隠すが、隠しきれてるところが……。
「どこを見ているの。不穏当な思考は寿命を縮めるわよ。将来を渇望されているの」
嘱望じゃなかったっけ。空望みともいう。
チャキンっと、仮初の音がしたのは幻聴だけではない。
ブランの二本の指は、マジで人を切断できる。
サムロスの頬からは血が滲んでいた。ブランの蔦から逃れようと暴れまくったせいで、手やスネ、あちこち擦り傷だらけにしてる。上等とはいえない服もカギ傷。無残に破れてるが、それが似合うから不思議だ。
農家の息子やってるより、野に解き放ったほうが、幸せじゃなかろうかとも思わなくもないけど、こいつの父アラモスは、悲しむだろう。貴族でない彼には氏がない。ただのサムロス。「サムロス」と、やむなく呼号する。
「……おぅ。オレさま見参っ! ルミナスさまじゃねーか」
出来のわるい忍びを招集した気分だ。
やっぱそっとしておくべきだったかな。
騎士さんが、俺の頭をぽんとたたいた。
「グルーム家三男。いつもの調子が戻ってきたようだな。そのほうが君らしいぞ」
ブランも「そうね」と同意する。俺らしいって、なんだ。
あんた、出会って数時間も経ってないよな。
ブランが【植物魔法】を解除した。
おーいててと、ほほをこすりこすり、獲物をさぐる目つきで森側をみつめていた狩人の子をつかまえてきた。
「ルミナスさまよ。オヤジの言いつけで、レリアさまと、フレッドさまをかくまえって、森にきたんだ。執事さんがいうには、きっとルミナスさまがいるから、なんとかしてくれるだろって。グーネは、その護衛だな。おっと紹介か。このグーネは、オレんとこのボロ小屋に親子で暮らしてる狩人だ。腕はぴか一。オヤジが保証する」
名を呼ばれたグーネに変化はない。
弓から手を離さず、森をうかがっている。
護衛というだけあって、隙がない。
上級貴族のバサネスとダンジョンを天秤にかけて、こちらのほうが安全と判断した。
想像するしかないが、そいつがセバサの思惑だ。
勝手知るったる危険なダンジョン。
俺、ブラン、それに騎士さん。場慣れした3人がいれば、新規参入者の命を危険にさらす心配はなさそうだ。
たしかに、しばらくここにいたほうが安全か。
「あの木材はなんだ? 薪か? 燃やしていいのか」
サムロスの指摘にふり返る。
しばらくぶりに立札が出現していた。
「右とか左とか書いてあるのでしょうよ。攻略が途中になっていたからやり直しかも」
「そうだなあ。はぁ……」
ブランの指摘に、あきらめ気味に納得。
しぶしぶ、立札に近づいて内容を読んだ。
「な、え??」
〔西アバンドダンジョンの同時挑戦者数が規定の3人を越えたことにより個々対応が不可能となりました。た西アバンドダンジョンは全挑戦者を1チームと認定。ただいまをもってパーティ攻略モードへ移行します。攻略レベルはイージーです〕




