43 マスターへの資格
「先も言ったが、アリストダンジョンを昇りつめた者がマスターとなる。マスターはシタデルを支配する存在で……フシュッ」
騎士さんこと、ストライト=シンプレッドが、魔物を仕留める。
駆ける速度を落とさず、跳んでしゃがんで舞う魔物さばきにしばし見入った。
ありきたりの言い方になるが、まるで踊り子。ほかの表現がみあたらない。
猛進オンリーの剣の人とは別人だと言われても、俺は絶対信じる。
大きく息をつきながら、マスターについての俺の疑問に、答えてくれる。
移動が優先だから、説明は、途切れ途切れになりがち。
それでも、マスターとシタデルの関係が浮き上がってくる。
彼女の説明と、父上からの話。ほかにも、セバサやあちこちで耳にした断片。
それらをつき合わせる。
レブンの中央に威圧的にそびえる塔、アリストダンジョンは15階層。
その上には宮殿があり、レブンシタデルを動かすマスターがそこにおわす。
いつも見上げる屋根の上に城が鎮座か。なかなかロマンが溢れる情景だ。
マスターは、シタデルのありとあらゆる管理を担う。
まず思い当たるのはこの歩く都市の、敵の遭遇を避けての移動だ。
移動の目的はそれ以外にも、天候の安定と貯水の確保があるという。
そいうや上下水道完備だったな。
蛇口をひねれば水が出るし、洗浄便座まではいかないがトイレは水洗だ。
(屋内に水洗があるのに外便所でするのは肥料確保のためだ)
水の吐き出し口があちこちに設置され、農業水にも困らない。
日照ヨシ水ヨシ。食糧問題などおこりそうにないんだけどな。
ネックは土地の狭さ。これは、いかんともしがたい。
ダンジョンへ挑む最終目的は、15層をクリアして、マスターになること。
例によって文字が読めないと、死亡フラグが確定する。
だが上級貴族は、一つでもスキルを取得したら、なる早で脱出してしまう。
途中に、リタイアができる階層があるんだと。何カ所も。
命をかけたアタックだからな。
オール・オア・ナッシングで死んでしまうリスクを背負う。
ボーナスを持ち帰って安泰に生きたほうが、死ぬよりよっぼどいい。
俺だってそうする。
そのスキル。得られるタイプにはかなりの偏りがある。
ゲットしたうち、8割は【壁】か【植物】だと言われる。
なんだそりゃと思うが、この2つが、レブンではもっとも実用的なのだそうだ。
壁。
直径1キロの超巨大建造物のシタデルだ。移動するたびに、どこかしら軋みが生じる。
どの住宅も頑健で、それでいてあまり高く造らないのはそのため。
市中、細かい壁で区切られているのは、軋みリスクを減らすため。
そのために、もっとも傷みを被るのが、壁だという。
要請を受けたり、巡回して壁を直す。のは、重要な役割だという。
スキルを持ってるのは上級貴族。意外にも、地味な仕事を受け請け負ってる。
植物。
植物は生育促成に寄与するもので、収穫のスピードアップを図る。
食物を育てるのは農民だが、そればかりに頼っていては、ひもじくなる。
上級貴族といえど、よほど上の家柄でない限り作物を育てる。
敷地のわずかな空域を無駄にせず、農民は育てない青物野菜などをそこに植える。
自分たちでできる食い扶は、貪欲に造るのが、レブンの流儀だそう。
植物スキルをゲットした子は忠義心が高いと、さりげなく誉められるという。
上級貴族はプライドが高いので、おくびにもださないと、騎士さんが付け足す。
こうした事情もあり、アリストダンジョン突破されていな月日は、40年におよんだ。
アリストが難解ということもあるだろうが、異常事態ではないだろうか。
人には寿命がある。現マスターは、40年前に15歳だった少年。
当年とって55歳だ。レブンはどうなるんだ。
次のマスターが誕生する前に、マスターが死んだりしたら。
「そういえばそうだな。考えたこともない」
かつては2年から3年で、長くても5年で新マスターが誕生していたそうだ。
40年間も、マスター席が不動というのは。
「マズイよな……おいしょっと」
あれ?
つい考えないようにしてるが、ここは空中都市だ。
地上から高さ1000mを2足歩行で歩いてる。
俺の目的は、地上に降りること。
ん?
光明がみえた気がした。
というか唯一の手段だ。
もうそれしか方法がみあたらない。
マスターになれば、シタデルの操作はおもいのまま。
俺がもしマスターになったとしたら、どうする?
そりゃ決まってる。
忌々しいこいつを地面に傅かせ、本物の大地に足をつけてやる。
いうまでもない。
しょっちゅう揺れる、仮の地面にびくびくする日々に、おさらばしてやるんだ。
アリストダンジョン攻略。イコール、シタデルマスター。
わかりやすくていい。
よーし。
俺は、マスターになる!
スキル【速度 強化・弱化】のおかげで、攻略がよりスムーズになった。
これまでも魔物が弱すぎるので、俺は、スキルの一撃で突破してた。
それがさらに、一方的でもはや蹂躙劇といっていいレベルに格上げ。
魔物が現れたとき初動からの一連行動が、単なるルーチンと化してる。
「そうかな。マスターは万能と教えられてる。気をもむ人間がいるとは思えないが。ブシュ! ブシュブッ!」
ナイフを奮う騎士さんの強さもハンパない。
ますます速くなってきて、動きがぜんぜん見切れなくなってきた。
俺もバフをかけてもらってるが、同じのがかかってるとは思えない。
ダンジョンを一直線に突き進んで端まで到達。
そこから1エリアずれた隣のレーンへさっと移動。
すかさず逆方向へ、りスタート。
「これで23だ」
「三男よ。下級貴族は覚えが悪いのだな。24だ」
「悪かったなー」
間違いを指摘されてしまった。
しかたないだろ、忙しいんだから。板のマス目に印をつける暇がないくらいに。
往ったり来たりの折り返しを、こうして、幾度となく繰り返していった。
目が回るとはこのこと。息をつくのさえ、忘れてしまう。
それにしても”寿命”か。
「マスターって、誰かに相談しないのかな」
「元は人間であっても、われわれとは別世界のお方。接点はないと聞くぞ。政は王と貴族が担う。訂正。王と上級貴族だ」
「わざとらしい言い間違いを」
ドカっ!
「すみません!」
何かにぶつかり思わず謝ったが、引き気味根性の言動がちょっと情けない。
この場で俺たち以外の生物(かな?)といえば魔物しかないのに。
俺の動線を横切った不運なそれは、正体不明のまま光の粒になった。
「いまさら私に挨拶か?」
妙に真面目な騎士さんの勘違い。
つい頬がゆるませてると、アナウンスが鳴った。
―― 〔 スキルを習得しました【窃盗】】〕
「ゲット……窃盗とはまた物騒だなあ」
そうは言ってもスキルはスキル。駒は多けりゃ多いほどいい。
マスターに、半歩でも近づいたと思えば、
「またか。いくつもいくつも、ブランチェスさまもだが非常識にすぎる」
ブランチェスの護衛を命ぜられた、スプラード家に仕える女騎士。
騎士は個人ではなく、お家に仕えるものらしい。
そして、主の言いつけは絶対。
護衛と言い切るには、大きな語弊があるよな。
この前、ブランチェスを迷いの森に放り出した張本人だけに。
致死率ほぼ満開のダンジョンに、娘を置き去りにせよと命ずる親も親なら、杓子定規に言いつけを実行する騎士も騎士。自由な資本社会をのほほんと暮らしていた俺には、とうてい理解できない関係がよこたわる。
まぁ、偶発的なんだが、こうやって一緒にダンジョンに潜ってる。
ダンジョンの仕掛けの都合で偶然が重なり、ブランと別れての攻略に。
ブランと騎士さんの間に、わだかまりがないワケがない。
二つの偶然は、二人にとって僥倖だったかもな。
「ブランはどうなったろう」
「うむ。多少なり負担が減ってればいいのだが。スキルは便利だなおかげで速い」
折り返しした数は半分を超えてる。
この2回目の攻略。願わくばこのまま素直に終えたいな。
間に挟まれる身として切実に願うよ。マジで。
『テルアキ聞こえる!?』
おー。ブランからの通信だ。
「さっきよりもよく聞こえる。馴染んできたな。攻略は順調だ。そっちは?」
『それよりも大変なの! ダンジョンに……』
「は? ダンジョンがどうした」
『子供たちが迷い込んでる。テルアキの知り合いじゃない』




