31 アラモスさんの悩み
どうにか、間に合いましたー
グルーム家では、みんなが忙しく働く。
トマスは父の仕事の手伝いで、外回り。
壁の崩れを点検し、修復箇所まとめあげて、上級貴族に報告。
レリアは、単独でお菓子造りに。危険だ。
フレッドは、リビングで寝てる。大物だ。
母ローランも、食後に俺をひと抱きしてから、チネッタを連れて外出だ。
商人の実家にお金を借りにいくのだとか。
あったんだな金。
俺はというと、剣の時間まで、敷地散策。
【アーキテクチャ】のマップで敷地を拡大し、その上を歩いてるのだ。
等間隔の点で区切ったマスが画面にあって、立ってるマスが点滅するのが面白い。
1マスのサイズは、1センチから100キロメートルまで、自由に変えられる。
設計ソフトでは”グリッド”と呼ばれる等間隔の点で、線を繋ぐのに重宝する。
リアルマップは、リバーシ盤面を歩くみたいで、かなりたのしい。
レブンは、直径が1キロメートルある。
だが、1キロしかないとも言える。100キログリッドの使い道がくるのか。
「奥さまは、ご在宅スかね?」
子供を連れた男性が、正門からやってきた。
屋敷の門は、木製扉があるんだが、カギというものはない。
しかも、いつでも開きっぱなしで、誰でも出入り自由。
ドロボウし放題だが、盗めるものは農作物くらい。貧乏貴族に施錠はいらない。
「アラモスさん、でしたっけ」
「そうスよ。私の名前を覚えてくれたスか。ルミナス坊ちゃんはお利口っスね。もう、ご容態はいいのでスかい?」
あたまを撫でられた。なんだかむずむず、恥ずしい。
でも指のわらくらいは、はらってもらいたかった。
連れてる子供は、息子のサムロス。
マルスと元気よく仲よくじゃれあってたのを、何度も見てる。
元気がなくうつむいてる。まるで悪戯っ子成分が抜け落ちたようにみえる。
「はい。お陰様で」
「お陰? 陰がなにかしたンスかい?」
”お蔭さま”が通じないのか。
俺も曖昧に使ってるけど、まさか通じないとは。
風が吹けば桶屋が儲かるの逆バージョン、と聞いたような。
誰かの行いがまわりまわって、恩恵をうけるって含みだ。
神仏の偉大なものの陰で庇護を受ける、て意味もあったっけ?
「あ、いえ。母上がお金を借りると聞いて。お金っていうのは?」
文化の違いを感じつつ、急いで話を変えた。
ほんとに見たことないんだよ。金って。
「そう……スか。お金っ”てマニー”のことスよね」
マニーっていうんだな。響きがマネーっぽくて覚えやすい。
なんとなく、紙幣じゃなさそうだ。
普通に考えて、ゴールドやシルバーといった金属か。
「これ、わたしのっス」
「え? それが??」
うっそだろ。
ぶらさげた巾着から取り出したのは、一枚のカード。
名詞サイズの、アルミみたいな薄い金属プレートだ。
「中央の銀行が発行してるトレードカードっス」
記載はたったの2行。上には”アラモス”、下には数字。
数字のほうをよく見ようと、架空眼鏡をグイっと持ち上げる。
すると、アラモスの太くて短い指がさっと動いて、数字を隠した。
「みせられないスが数字っていうんス。物を買うと減って売ると増えるス」
「で、電子マネーだ」
物々交換の世界なのに、電子マネーかよ!
なんなんだこのチグハグ技術レベルは。
「なんスか? 成人すれば作ってもらえるスよ」
アラモスがいうには、取得資格はカンタン。
成人年齢の15歳以上の人が貯金すれば、無料で発行してくれるのだという。
「わたしゃ、50キロ小麦を台車でもってって20000マニーもらいました」
二カっと歯をみせる。
そこは、やっぱり物納なのね。
小麦1キロで、400マニー。うーん。
日本円と比べたいけど、小麦なんて買ったことないし。
小麦よりも、米のほうがわかりやいけど。いや、どうだろ。
米はコメで、ブランド価格に幅がありすぎて、単純な比較はできそうにないな。
んん? 米ってあったけ。ないのか。
食卓にはのぼったことないぞ。水田もこの辺りには見当たらない。
米の味。思い出したら食いたくなった。
「でも計算は……」
「いえいえ。文字は読めないスが、勘定はできるっスよ?」
金勘定のやり方は、カードをもらう時にみっちり教わるとか。
足し算と引き算がメインで、乗算と除算もだ。
ほぼ初めて触れる数字に、みんな難儀するとか。そうだよな。
文字が読めない農民は覚えるだけで大変だ。
「トレードカード造るのはカンタンでも勘定が……わたしぁ5日、かかったス」
平均3日。毎年、新成人をまとめての講習会が、開かれてるという。
変わり種の成人式だな。
カードにはマイナス表示は無い。だから借金はできない。
借りようとするなら、何かを担保にしなきゃいけない。銀行が渋いのは共通だ。
消費者金融会社を立ち上げたら、もうかりそう。
ちなみに金利は固定で年0.5%。
日本円なら、100万円預ければ、5000円増える計算だ。
10億もってれば、利息で食える。はっはっは。持ってないが。
サンガリの言ってた、名前が読めればいいって意味が、解けた。
自分のカード名義さえ判別できりゃ、生きていけるってことね。
「ところで母に用事でしたか? セバサじゃなく?」
「うっかり忘れるところで。これ、坊ちゃんに言ってもしかたないことスが。お金を貸してもらいに来たス。また出直しますが、奥さまも借金とくりゃ、とても頼めないスね」
「不作なんですか」
「難しい言葉を知っておいでで。いえいえ、豊作スよ。豊作スが」
作物は十分に実ってるそうだ。
戦わすに逃走を繰り返してるレブンだが、逃げる方向は、いつで闇雲ではない。
天候を考慮してる、というのだ。
雲の位置や陽の当たる向きに、バランスよく動いて、
シタデルの、東西南北もれがないようにしてるとか。
水だが、雲が発生しやすく良く降るそうだが、あの天井が邪魔してる。
雨の恩恵をうけるのは、外周あたりだけということになる。
それでは困るので、地面の下には水管が走ってるそうだ。
そこらに立ってる蛇口を捻れば、水は取り放題。
下からは見えないが、上にはどでかい貯水槽があるようだ。
そんなわけで農作物は順調。
けれど、食っていけてない。
上級貴族以外は、慢性的に腹ペコ。
これ、どういうことなんだろ……
多すぎるのだという答えにたどり着く。
人がだ。
「な、なにをなさってるので?」
「計算です」
小学校のとき、課題で調べたことを思い出した。
”一人の日本人が一年に食べる小麦と米の量は、どれくらい?”
地面にしゃがみ込むと、ちょうど落ちてる枝を握る。
そして、数字を書いていく。
小麦は、32.3㎏。米が53㎏。
日本で米と小麦を合わせると、82.3㎏だった。
課題は、それでクリアした。
けどこれは2種の穀物の合計。
当然だけど、ほかにも、肉や野菜といった食物も食べてる。
比べることなど、できっこないが、この数字をレブンに当てはめる。
一年に食べる食事の材料の重さを、ざっと100㎏としようか。
1㎏の小麦を製粉するのには、1.5㎡くらいの畑が必要だった。
100㎏なら、その面積も100倍。150㎡だ。
レブンシタデルの直径は1㎞。メートルに直して1000mだな。
面積は785.000㎡になるから、この数字を、一人当たりの小麦面積で割ってみる。
5233.33333……
まずいな。絶対に足りない。
「小麦は、一年に何回作れます?」
「に、2回スね」
「レブンシタデルには、どれくらい人が暮らしてるですか?」
「え? 10000人くらいって、いわれてるスが?」
「なら、イケそうですね。」
5233人分を2回。10466人分の食糧が生産できる。
一応、全員が食べていける計算になる。安心していいのか。
いやそれなら、迷いの森が”口減らし”にされるのはオカシイ。
そうか。
これは、レブン全土を小麦畑とした解だ。
みんな、その中に住んでいるんだから、100%農地なんてありえないか。
住居、道や壁といった障害物、そして森などが、面積のかなりの部分を占めている。
たとえば、それが30%としたら……絶望的だな。
問題は、人口だ。
作られてる食糧にたいして、暮らす人があまりにも、多すぎるんだ。
「アラモスさんが作ってるのは、小麦だけ? ほかには」
「ああ、ええと。キャベツにネギに、あとトウモロコシ。時期でも違うっスがね」
「サツマイモとかカボチャは? あとはジャガイモも」
「ジャガイモですと? とと、とんでもない。毒なんか作らんスよ」
「あることは、あるんですね?」
「勝手に生えてどんだけ捨てても出てきやがる。ほらあそこにも」
アラモスが指さしたのは、雑草や茎を集めた堆肥の山。
そこには何個か、芽が出たり、ところどころ緑に変色したジャガイモが。
「ほほう。間違いなくジャガイモですね。刃物があれば貸してください」
「ないスね」
「……これでいいか?」
だんまりだった息子が、小刀をよこす。
ちゃんと柄のほうを、こちらに向けてる。
「ありがとうございます」
俺は小刀の鞘を抜いた。
ジャガイモは飢饉を救う食べ物だ。世界中で救荒食物に指定している。
気を付けないといけないのは毒。アルカロイドの毒がある。
芽と変色した部分を切り落としていく。
腐ってニオイのヒドイのは、さすがに、拾わずパスだ。
毒の部分がなくなった。
食べられそうなのが5個あった。皮をむいていく。
時間のたったジャガイモは、皮にも毒があるというから。
「それ食って、マルスの後でも追う気か」
「食べますけど。後は追いません。マルスは……」
5個のジャガイモをむき終え、ナイフを置いた。
それから、側のサムロスを見上げて、つぶやいた。
「マルスが死んだのは、自業自得です」
【アーキテクチャ】のスキルを確認する。
回数はどれも全快。100%だ。
「このやろう!」
「やめんか、サムロス!」
キレたサムロスが、なぐりかかってきた。
アラモスが停ようとしたが、間に合わない。
粋な8歳のパンチが、俺にあたった。
これ以後の話は、推敲不足の文章になります。
ルミナスを
ハシ十メとか書き出したら、コイツ終わったなと。。。




