3 家族たち
俺の身体は、おそらくだが、体中打撲。そんで、病院のベッドで昏睡状態してるんだろう。
ICUとかに収容されてるかもしれない。看護師さんつきっきりで、24時間予断を許さない状態に陥ってる。病院の廊下では、親父な社員さん一同が、寝不足の目をこすりながら交代で心配。そんな図柄が思い浮かぶ。
秘密のアトラクション説はありえない。イベントや娯楽施設はネットでさんざん調べたし、役所にも問い合わせた。あそこは過疎地。ロクな施設がないのは確認した。
5感VRは飛躍しすぎだ。仮に、そんなもんに繋がれているとすれば、医者がコンタクトしてきてるし、死期が迫ってる証だから、ICU説と同意義。
異世界? ありえんありえん……よな?
「ルミナス? 食事は前をむいて食べなさい」
「……はい」
いま、俺は子供用の椅子に座らされ、家族団らんの一幕に参加していた。
「ルミナスったらだっせーんだぜ。あんな低いとこから落っこちで気絶してんだから」
「マルス。あなたの言葉使いのほうが、よっぽど”だっせー”です。貴族の次男なのですよ。すべてが、領民たちの模範でなければいけません」
「ぼそ……領民ったって5軒しかないじゃん」
「マルスよ、母上に意見があるのなら、大きな声でいいなさい」
「……はい父上」
父、母、トマスとマルスというふたりの兄、レリアという姉、弟のフレッド。一同がすわるテーブルは、家族全員が座っても余るほどデカい一枚木。凝った彫りの2枚の木皿に盛られた料理。執事とメイドの給仕ですすんだ食事を終えたところだ。
いまは、デザートとお茶のひと時。
えらく肩の凝る団らんだ。
これ、夢なんだよな?
木窓から射しこんでくる夕日が、まばゆい。
「ルミナスを木に上らせたのは、マルスだと聞いてますが?」
「……また、チネッタだな。チクリ魔が」
「意見の声は大きく!」
「……なんでもないです」
メイドの視線がちらりと揺らいだ。あの人がチネッタか。
「それでルミナスぅ? 痛いところは、ないのぉ?」
「ん、ないです」
「マルスに気遣って隠さなくてもいいのよぉ。なんなら、母が叱っておきますよ」
「……いえ」
この人。母親なんだが、やたらと抱きついてくる。
歯噛みするマルス。譲ってやりたい。
「お菓子のおかわりいらない? 甘いものすきでしょう」
「いえ。べつに」
甘い物というが、このクッキーはたいして甘くない。砂糖をつかってる風がない。自然食の好きな人は賛同しそうな天然の甘みだ。そういや、料理も薄味だった。減塩で調味料を使ってない味だ。
「わたし、おかわり」
「レリアは、いっぱい食べたでしょう?」
「うぅ……」
姉が、目をおとして縮こまる。なんだこの母親。
縛りつけるように抱きしめてくる母の、きれいなシルバーグレイの髪をみつめる。
そういや鏡に写った俺も、髪はシルバーグレイだったな。
他の家族はみんなブロンド。父親の血を受け継いだっぽい。
執事は黒でメイドはグリーンだが、まぁそれはいい。
もしかして、この親。
「ルミィ? 嫌なことがあったら、すぐにこの母に言うのよ。なんでもしてあげるわ。あなたの望みなら」
髪の色が、自分と同じだから、俺を溺愛してるってか。
兄弟たちの恨みがましい目に、ひいきの引き倒しって言葉を思い出す。
マルスなんか見ろ。熱い視線で焼き殺されそうだ。
これ、俺の夢なんだよな?
「チネッタ、サラダおかわりぃ?」
「フレッドさま、食事はとっくにおわってますよ」
「えええ? じゃねる」
弟よ。キミだけでも大物になれ。




