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高い所が死ぬほど嫌いな俺が、空中ダンジョンの下級貴族の子に転生した話  作者: きたぼん


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21/83

21 行方は?



レブン合同演習は、西と東の広場で、年に一度、執りおこなわれる。

訓練はおおきく3つ。


まず、シタデルが強襲された想定の、防御訓練。

次に、敵兵を矢で撃ち減らす、斉射訓練。

そして、敵地に乗り込んで敵を叩きつぶすための、強襲訓練。


訓練は、順調なタイムスケジュールを熟していき、最後の強襲訓練を残すのみ。


二つの訓練の敵を迎え撃つ。強襲訓練だけは、相手方に乗り込む。

敵からの襲撃を堪えて、押し返して、反撃ののろしをあげる。

劣勢からの逆襲、そして勝利するというテッパンストーリー。

会場が、盛り上がらないはずがない。


レブン外周の壁の上には、120人からの貴族らが並んでいる。その先は何もない、雲さえ見下ろす”国の外”だ。下にあるとされる地上は、遥か下方すぎて、現実味がない。彼らは、レブンシタデルから出たことがない。遠くも眼下も、視界いっぱいの絶景は、2次元の風景画と同列。地上とは、そこにある架空の世界。おとぎ話の世界。


突出路(ブーム)押し出せー!」

「1番隊、ブームヨシ!!」

「2番隊、ブームヨシ!!」

「3番隊、ブームヨシ!!」

  ・

  ・

  ・


貴族たちとっては、日頃の成果をみせる華々しい機会。

住人にとっては、バカ騒ぎできる、楽しい演目。

娯楽の少ないレブンシタデルにあって、演習は最大級のビッグイベント。

家族や配下の農民らは、組織された貴族たちに、惜しみない拍手を送る。

西の広場の演習は、クライマックスを迎えていた。


  ・

  ・

  ・

「20番隊、ブームヨシ!!」

「全隊ぃ、押し出し、ヨォシ!」

「総員乗り込めぇ!マウイを蹴散らせぇー!!」

「おおおおおぉぉぉぉぉおおお!!!!」


演習に参加するのは、貴族のトップたち。

家族たちは、陣営ごとに分かれて、応援の声を張り上げる。


ビェズル伯爵家のゾーンには、グルーム家と配下の農民たちの姿があった。

その先頭にある、ローラン=グルームが声をあげる。

すでに盛り上がってる領民たちの指揮をいっそうたかめるよう、演習を仕切る上級貴族に渡された羊皮紙。適度に解釈し、読み上げた。


「ルミナス、と、ついでに皆さん。グルーム家当主の出撃ですよ。今年は嫡男のトマスも参加します。ここからではあまり見えないでしょうが、せっかくなので、目に焼き付けておきましょう。ルミナスもいいわね?」


ローランが、ルミナスしか眼中にないのは相変わらず。

領のみんなは、それをよく知っており、暖かいまなざしをむけていた。


「奥さま、マルスさま、ルミナスさまが、おりません」

「ええ!? ルミナスがいない?」


マルスにひき連れられ、レリア、フレッドの姉弟とともに、先に屋台で朝食をすましているはずのルミナス。それがいないと、メイドのチネッタが告げてきた。


「マルスさまもです。さきほどから見当たりません」


皆を鼓舞してるローランだが、グルーム男爵一同が、到着したのはほんの今しがた。

衣装や、昼のご馳走の準備に思わぬ時間をとられた遅くなったのだ。演目、もとい、演習2つも見逃している。


彼女は、公園の環に並ぶ20台ほどの、今日だけの屋台村の中に、自分と同じ髪の色を捜す。ランダムに置かれたテーブルで摘みをほおばる大人たちの横を、いっときとして、じっとしてない子供らが笑いながら行き来していた。ルミナスは、なかなか見つからない。


食べるのに夢中で演習どころじゃないのかな。代わり映えのない我が家の食事だが、ルミナスだけでももっと贅沢にしたほうがよかったかと、母親らしくも、贔屓に反省するローラン。


「ははうえ、ははうえ」

「レリア。あなたのお相手はあと。それどころじゃないって、わかるわよね」


袖を引っ張るレリア。ルミナス探しを邪魔するなと、眉間を寄せていらだった。

いつもは、かまってくれない母の態度に傷ついて、終わるのだが、レリアは食い下がる。


「マルスにぃとルミナスいないの。フレッドとやたいでならんでるうち。いなくなった。そうよねーフレッド」

「うん。チーズのハンバーガー、おいしかった」


それを聞いて、ローランの目が丸くなった。「なんですって?」眉がつり上がり、眉間のしわが消えた。屋台を本気で見回す。今度はハエの一匹も見逃さない。いない。どこにも。レリア報告の信憑性が、急速に高まる。


「みんな! 誰か、二人をみかけなかった? とくにルミナスを」


農民たちに問いかけた。絶叫に近い声で。お前知らんか。知らんなぁ。あんたは。見てない。互いに聞き合う彼ら。ひとり、手をあげる者が現れた。



「アラモス? 農民長のあなたは何か知っている?」

「おらではないス奥さま。息子のサムロスがお二人をみかけたそうス。ほれサムロス、奥さまに話してさしあげろ」

「え、演習がはじまる前、見かけた。る、ルミナスを、引きずっているようだった」


サムロスは、マルスと親しくしてる子供。父親のアラモスに連れられて、グルーム屋敷にも遊びにくることが、たびたびあった。ローランもよく知ってる。


「マルスなら……あの子は人に従うのが嫌いですからね。演習より街の見物でもしてるのでしょうか。大人の目が届かない隙にルミナスを引き連れて」


マルスが一緒と聞き口もとを緩めた。勝手な行動が目立つとはいえレブンの路をよく知る子だ。その兄と行動をともにしてるのなら、迷子の危険はあるまい。マルスには、帰ってきたら灸を据えねばと思ったところで、演習の鼓舞へと気持ちを戻す。


「ありがとうサムロス。では。ゴホン……」


ローランが握りしめてシワにした羊皮紙に綴られているのは、民を高揚させるべく吟味された文章。あとを続けようと、彼女は羊皮紙を広げた。サムロスの呟きが耳に届く。


「じゃなくて、迷いの森の方へいったような……な?」


羊皮紙を掲げるローランの手が止まった。

その視線は、羊皮紙からサムロスへと、一直線に動いた。


「迷いの森。そういいましたか!」


自分らを従えている男爵家の奥方。商家から、後家として嫁いできた女性で、貴族にしては穏やかで公平と評判は高い。だが、気分ひとつで殺傷与奪の権限をもつのも事実。サムロスにとっても顔見知りの人物ではあるが、見竦められて不安になった。


「え? ああ、たしか……そうです……」


しだいに声がしぼんでいく。

すると隣にいた女の子が、代りにうなずいて、大きく元気に。森を指さした。


「あたしも見ました。二人が行ったのはあっち。迷いの森のほうへ行きました」


ローランの目が、大きく見開かれる。ハッと一同が固まった。

誰も、動かない声もでない。音を発したり指を動かしたりすれば、その瞬間、奥方の視線に撃ち抜かれると、本気で恐れている。執事のセバサと侍女チネッタが動いた。

チネッタはまぶたを閉じた。セバサは冷静な行動をうながした。


「奥さま。森へ入ったのだとしても、廃坑に迷いこんだと決まったわけでは。まずは捜索。演習中なので、限りはありますが。派遣しては」


チネッタが目を開いた。


「お二人は廃坑にいるようです。バラバラ別個な位置に」

「チネッタ! なんと言った」


青ざめる、一同。

空気を緩めたセバサの努力を、ためらいなくなくぶったぎったのだ。


「廃坑……迷いの森。どうして、そこまで言えるの。チネッタ?」


ローランの、ナイフを一閃したように細くて氷のように冷たい視線が刺さる。

その威圧に押されながらも尊敬する主のため、全神経をもって威圧を受け流し、知り得た事実だけど、重ねて突きつけた。


「……ルミナスさまはみえなくなりました! ダンジョンの奥へ行ったと思います」

「それは…………本当なら由々しい事態。急ぎましょう。……後でしっかり問い詰めるわよチネッタ。セバサ!」



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