21 行方は?
レブン合同演習は、西と東の広場で、年に一度、執りおこなわれる。
訓練はおおきく3つ。
まず、シタデルが強襲された想定の、防御訓練。
次に、敵兵を矢で撃ち減らす、斉射訓練。
そして、敵地に乗り込んで敵を叩きつぶすための、強襲訓練。
訓練は、順調なタイムスケジュールを熟していき、最後の強襲訓練を残すのみ。
二つの訓練の敵を迎え撃つ。強襲訓練だけは、相手方に乗り込む。
敵からの襲撃を堪えて、押し返して、反撃ののろしをあげる。
劣勢からの逆襲、そして勝利するというテッパンストーリー。
会場が、盛り上がらないはずがない。
レブン外周の壁の上には、120人からの貴族らが並んでいる。その先は何もない、雲さえ見下ろす”国の外”だ。下にあるとされる地上は、遥か下方すぎて、現実味がない。彼らは、レブンシタデルから出たことがない。遠くも眼下も、視界いっぱいの絶景は、2次元の風景画と同列。地上とは、そこにある架空の世界。おとぎ話の世界。
「突出路押し出せー!」
「1番隊、ブームヨシ!!」
「2番隊、ブームヨシ!!」
「3番隊、ブームヨシ!!」
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貴族たちとっては、日頃の成果をみせる華々しい機会。
住人にとっては、バカ騒ぎできる、楽しい演目。
娯楽の少ないレブンシタデルにあって、演習は最大級のビッグイベント。
家族や配下の農民らは、組織された貴族たちに、惜しみない拍手を送る。
西の広場の演習は、クライマックスを迎えていた。
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「20番隊、ブームヨシ!!」
「全隊ぃ、押し出し、ヨォシ!」
「総員乗り込めぇ!マウイを蹴散らせぇー!!」
「おおおおおぉぉぉぉぉおおお!!!!」
演習に参加するのは、貴族のトップたち。
家族たちは、陣営ごとに分かれて、応援の声を張り上げる。
ビェズル伯爵家のゾーンには、グルーム家と配下の農民たちの姿があった。
その先頭にある、ローラン=グルームが声をあげる。
すでに盛り上がってる領民たちの指揮をいっそうたかめるよう、演習を仕切る上級貴族に渡された羊皮紙。適度に解釈し、読み上げた。
「ルミナス、と、ついでに皆さん。グルーム家当主の出撃ですよ。今年は嫡男のトマスも参加します。ここからではあまり見えないでしょうが、せっかくなので、目に焼き付けておきましょう。ルミナスもいいわね?」
ローランが、ルミナスしか眼中にないのは相変わらず。
領のみんなは、それをよく知っており、暖かいまなざしをむけていた。
「奥さま、マルスさま、ルミナスさまが、おりません」
「ええ!? ルミナスがいない?」
マルスにひき連れられ、レリア、フレッドの姉弟とともに、先に屋台で朝食をすましているはずのルミナス。それがいないと、メイドのチネッタが告げてきた。
「マルスさまもです。さきほどから見当たりません」
皆を鼓舞してるローランだが、グルーム男爵一同が、到着したのはほんの今しがた。
衣装や、昼のご馳走の準備に思わぬ時間をとられた遅くなったのだ。演目、もとい、演習2つも見逃している。
彼女は、公園の環に並ぶ20台ほどの、今日だけの屋台村の中に、自分と同じ髪の色を捜す。ランダムに置かれたテーブルで摘みをほおばる大人たちの横を、いっときとして、じっとしてない子供らが笑いながら行き来していた。ルミナスは、なかなか見つからない。
食べるのに夢中で演習どころじゃないのかな。代わり映えのない我が家の食事だが、ルミナスだけでももっと贅沢にしたほうがよかったかと、母親らしくも、贔屓に反省するローラン。
「ははうえ、ははうえ」
「レリア。あなたのお相手はあと。それどころじゃないって、わかるわよね」
袖を引っ張るレリア。ルミナス探しを邪魔するなと、眉間を寄せていらだった。
いつもは、かまってくれない母の態度に傷ついて、終わるのだが、レリアは食い下がる。
「マルスにぃとルミナスいないの。フレッドとやたいでならんでるうち。いなくなった。そうよねーフレッド」
「うん。チーズのハンバーガー、おいしかった」
それを聞いて、ローランの目が丸くなった。「なんですって?」眉がつり上がり、眉間のしわが消えた。屋台を本気で見回す。今度はハエの一匹も見逃さない。いない。どこにも。レリア報告の信憑性が、急速に高まる。
「みんな! 誰か、二人をみかけなかった? とくにルミナスを」
農民たちに問いかけた。絶叫に近い声で。お前知らんか。知らんなぁ。あんたは。見てない。互いに聞き合う彼ら。ひとり、手をあげる者が現れた。
「アラモス? 農民長のあなたは何か知っている?」
「おらではないス奥さま。息子のサムロスがお二人をみかけたそうス。ほれサムロス、奥さまに話してさしあげろ」
「え、演習がはじまる前、見かけた。る、ルミナスを、引きずっているようだった」
サムロスは、マルスと親しくしてる子供。父親のアラモスに連れられて、グルーム屋敷にも遊びにくることが、たびたびあった。ローランもよく知ってる。
「マルスなら……あの子は人に従うのが嫌いですからね。演習より街の見物でもしてるのでしょうか。大人の目が届かない隙にルミナスを引き連れて」
マルスが一緒と聞き口もとを緩めた。勝手な行動が目立つとはいえレブンの路をよく知る子だ。その兄と行動をともにしてるのなら、迷子の危険はあるまい。マルスには、帰ってきたら灸を据えねばと思ったところで、演習の鼓舞へと気持ちを戻す。
「ありがとうサムロス。では。ゴホン……」
ローランが握りしめてシワにした羊皮紙に綴られているのは、民を高揚させるべく吟味された文章。あとを続けようと、彼女は羊皮紙を広げた。サムロスの呟きが耳に届く。
「じゃなくて、迷いの森の方へいったような……な?」
羊皮紙を掲げるローランの手が止まった。
その視線は、羊皮紙からサムロスへと、一直線に動いた。
「迷いの森。そういいましたか!」
自分らを従えている男爵家の奥方。商家から、後家として嫁いできた女性で、貴族にしては穏やかで公平と評判は高い。だが、気分ひとつで殺傷与奪の権限をもつのも事実。サムロスにとっても顔見知りの人物ではあるが、見竦められて不安になった。
「え? ああ、たしか……そうです……」
しだいに声がしぼんでいく。
すると隣にいた女の子が、代りにうなずいて、大きく元気に。森を指さした。
「あたしも見ました。二人が行ったのはあっち。迷いの森のほうへ行きました」
ローランの目が、大きく見開かれる。ハッと一同が固まった。
誰も、動かない声もでない。音を発したり指を動かしたりすれば、その瞬間、奥方の視線に撃ち抜かれると、本気で恐れている。執事のセバサと侍女チネッタが動いた。
チネッタはまぶたを閉じた。セバサは冷静な行動をうながした。
「奥さま。森へ入ったのだとしても、廃坑に迷いこんだと決まったわけでは。まずは捜索。演習中なので、限りはありますが。派遣しては」
チネッタが目を開いた。
「お二人は廃坑にいるようです。バラバラ別個な位置に」
「チネッタ! なんと言った」
青ざめる、一同。
空気を緩めたセバサの努力を、ためらいなくなくぶったぎったのだ。
「廃坑……迷いの森。どうして、そこまで言えるの。チネッタ?」
ローランの、ナイフを一閃したように細くて氷のように冷たい視線が刺さる。
その威圧に押されながらも尊敬する主のため、全神経をもって威圧を受け流し、知り得た事実だけど、重ねて突きつけた。
「……ルミナスさまはみえなくなりました! ダンジョンの奥へ行ったと思います」
「それは…………本当なら由々しい事態。急ぎましょう。……後でしっかり問い詰めるわよチネッタ。セバサ!」




