表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/83

19 2枚看板

いつも読んでいただき、ありがとうございます

あと7話で、ストックが……



「重いけど大丈夫なの。変わってあげてもいいわよ」

「はぁはぁ、いや――」


スキルで軽くなってるとはいえ、男の子の身体はずしりと重い。

空腹もだが水が飲みたい。汗は枯れ衣服には白く塩が浮いてる。

俺の目は、死んだような魚になってることだろう。


「――いい。足をもってもらって十分助かってるし、これは俺の意地みたいなもんだ」

「無理しないで言って。いつでも代わるから」

「ありがと。ふーぅ――」


背中から半分ずれてた男の子を、そのまま地べたにずらして降ろす。

体温を感じない体躯。硬直も始まってる。

”人であった肉”と化して、背負い安くなってきてるのは皮肉なことだ。


まさに肩の荷が下りたことで、身が軽くなる。

耳の奥でアナウンスが鳴った。


〔スキル 重力上げ(グラビカット) レベルアップ 80%になりました〕


スキル重力上げは、パッシブじゃなく回数制だ。担ぐたびにカウントが一つ減り、担いだままなら時間で減る。残るカウントは2、先行きが不安だったが。

レベルアップに伴ってカウントが満タンに。

回数が増えた、おお、倍の40回。しかも、支える重さが80%減。

背負うパワーが2割でいいのだ。100キロが20キロになる。


強がってみたものの、心身が、限界に悲鳴を上げ始めていた。

絶妙なタイミングでレベルアップ。助かったというのが本音だ。

単純に喜しい。そう思えた自分が軽薄で、嫌いになりそうだ。



「で、なんて?」


俺たちはまた、看板の前に立っていた。

パターンの変化ごとに出現。

というより、新たな歩行パターンをお告げ遊ばす、おなじみオブジェクト。


ATMで残高をチェックする気軽さで近づくと、看板は2枚。

予想外な出現。、腹と疲れのせいで見間違がったかと、目をこする。


「最後って書いてあるわね」

「はぁ。ダマシじゃないだろうな」

「ひねくれ者ね。看板まで疑ったら攻略なんてできないじゃない。過去にはちゃんと、帰ってきてる人もいるんだから」

「さようで。で、どっちに従えばいいんだ」


最後の指示はいいが、看板は2枚。ダンジョンの意図はどこにある。

こんこん。右側の看板を指でノックするブラン。トイレか。


「女子用ってあるのが、わたしね。ええと北21西16、北18西17。って、ええ?」


驚いてるブランを尻目に、左の看板をじろりと読む。

ブランに教わって、俺も文字が少し読めるようになってる。


「女子用男子用って、マジトイレだ。俺のはと……」

「? テルアキどうかしたの?」

「あ、いや。2つの指示まではまったく同じだ。こっちのがひとつ多い。男女不平等だ」


ブランチェスが2箇所で、俺が3箇所。

数の差はまぁいいとして……良くはないけど。

今回の面倒なところは、右にとか左にじゃなくて”箇所”って点だ。

行くべき座標が、ピンポイントで記してあるのだ。


「ダンジョンって、進んでさえいけば、出口にたどりつけるものよね」

「そうだよ。普通は」


どんな迷路でも、入口があって出口がある。終点を目指すことが目的だからそれでいい。挑戦する側は、どんな手を使っても脱出さえできれば良いとなる。

極端をいうなら、ショートカットすればいい。仕切りを超えても穴を掘ってもな。

辿りつけさえすれば、それが正解だ。


だけど、これは。


「踏み石型、とでもいうのか。フラグを消化しないといけないんだな。最初からおかしいとは思ってたけど」

「ふみいし?フラグ? 自分だけわかるなんてずるいわ。説明しなさい」

「ほう。年下の下級貴族に頼ってもいいのかな上級貴族さま」

「コマを上手に仕うことも、上級貴族に欠かせぬ器だ……なのよ」


ツンと言い放つのいいが、頬がピンクに染まってるせいで慣れない感が駄々洩れだ。

親の真似をしてるだけだな。身についてない感、丸だしだ。


「なによ……」


ぷいと頬を膨らます。コイツの性格が飲み込めてきたかも。

親思いで健気。見ず知らずの人にも肩入れして助けてしまう優しさ。

お節介でお人好しな女の子なんだな。


「そういや、ルートからズレたようなこと言ってたよな。なにがあった?」


鼻水だらして泣いてたときのことだ。

泣くと不細工になるときがあるってのも、ブランのキャラだな。

うぇぇ。思い出して鳥肌たった。背中に羽毛が生えてきそうだ。


「妙なこと思い出してるじゃないでしょうね」

「いいえ」


げ。心を読まれた、のか?


「……跳びこんだエリアは魔物だらけの場所だったわ。大ネズミにウサギに。みんな弱い魔物ばかりだけど、5匹や6匹が待ち構えていた。倒すまで出られないのは、ほかと同じだけど。一人であの数に参ったわ」


ダンジョンゲームのモンスターハウスかよ。よくぞ倒しきったもんだ。

しっかし、正規ルートで魔物バトルで方向を見失わせ、ルートからはみ出たら魔物の部屋。

恐ろしいというより、エゲツネぇ。


「魔物部屋はわかんないけど、全エリアに足を運ぶことがクリア条件。もれなく踏破しないと脱出できないシステムだな。いちいち看板で指示してたのは、外せばペナルティだと脅しながら、いっぽうで親切だったわけだ」

「北21西16、北18西17。場所が離れているようにみえるけど?」

「その通り離れてる。踏みそこなったってことらしい」

「そんな……」


魔物が多数出現したことは何度かあった。ただもうこっちは二人だし、力量も上がってる。スキル取得の後は、どれもが雑魚にみえてたし、そう扱って処理していた。レベリングの糧みたいに。オカシイなと首をひねりながらも、さほど気にならなかった。


でも、2箇所、3箇所の”歯抜け”は、踏まないエリアが生じるよう、ダンジョンが誘導した可能性がある。ダンジョン(こいつ)不誠実さ(・・・・)は、信用していい。


「北とか西とか言われても。日中でも向きが変わるシタデルで、方角なんて」

「向きが変わることがあるのか。なんて世界だよ。分かんないけど、そこはダンジョン内での方角でいいと思う。地図なら上が北という暗黙の取り決めみたいに」


北には、真北、磁北、方眼北の三つがあるんだが、それを語ってもな。


「どうすれば、行けるの。ここがどこかもわからないのに」

「それならわかるぞ。この板だ」

「もぎ取った看板の裏ね。なんか、ちまちま描いてたようだけど」

「これまで歩いてきた経路だ。なんか、指定ルートが四角っぽかったら、もしやと思って、升目に印してたんだ。ちなみに、ブランが鼻水女に進化する以前は除外してある」

「悪かったわね……美しくて」


スルー。無言で板をバンと叩いて意思表示。

ブランは、ちろりとにらんだ。

それから膝屈みになって、芝上の板に視線を移す。


「俺たちが歩かされたコースだが、左回りでの周回が基本みたいだ。ここ、西の廃坑ダンジョンって言うんだっけ。狭いって話してたよな」

「大人たちが会話してたのを覚えてたの。たしか……100メートル四方かな」

「100メートル?たったの?面積ならわずか1ヘクタールじゃないか」


札幌ドーム3分の1も無いぞ。

そんなとこ、半日以上もかけてぐるぐる歩かされたのかよ。


「面積なんかどうでもいい。わかるの? いま、わたしたちが立ってるこの場所が」

「わかる。北・西という指示ではっきりした」


一番下が北1で、一番左を西1としているっぽい。

そして、縦に55横に55。俺の歩数から計算すると、おおむね99メートル。

誤差を考慮して、一辺が100メートルなら辻褄があう。


ニヤリ。人差し指である一点をはじいて、俺たちの左側を示した。

間違いなくここ。北22西16だ。

俺たちがいるのは、一つ目の飛び地のすぐ南。


「すぐ隣さ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ