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11 レブンシタデル



「ルミナス。お前はこっちだ」

「朝食は?レリアを待つんじゃないの?」

「あとだ。待ってるうちに演習が始まっちまう。見たいだろ?」


マルスが微笑む。俺に笑いかけるだなんて、珍しいこともある。

演習はもう始まるのか。おそらく、集団戦による紅白試合。仮想敵を見立てた盤上版シミュレーションってことはない人対人の実践。剣や槍での攻防。


それなり見ごたえあるだろう。別にみなくてもいい。

時間があるなら、搭の側までいってみたい。


「こっちだ。来い」


俺の意見は無視ですかい。

でもどこでやるってんだ。騎士は見当たらないし、部隊展開するには狭いぞここ。


広場から出ていく人たちがいた。子供連れもいて、なんとなく列になってる。マルスにひかれて、最後尾に続く。


「……これって」


広場を抜けたそこには、2階建てほどの高さの壁が鎮座していた。

港の堤防みたいな壁は長く、ゆるい内向きの彎曲を描いて、右も左も果てがみえない。樹木に隠れてみえないだけで、じつはすぐそこが終点という可能性もあるが、どこまでも続いてそうな気がした。「諸君」と叫ぶ声がした。


「諸君! レブンシタデルは平和である。最後の戦いから40年もの長き時、一度たりとも争いが起こっておらぬ。快挙である。諸君らの鍛錬の賜物であるとともに、マスターの英断によるものであぁる!」

「おおおっ!!!」


壁のこちら側では、騎士が隊列を組んでる。200人、いやその倍はいる。


「だが油断は許されぬ。いつなんどき、敵シタデルがせめてくるかも知れぬ、我々は、そのときに備え構えねばならぬ。努力を惜しむな、レブンに栄光を!」

「レブンに栄光を!」

「西地区ビェズル隊! かかれぇ!!!」

「ぬおおおおおおお!!!!」


かけ声とホコリを舞い上げながら、壁へと駆けだす騎士たち。

壁をよじ登るのかと思えば、二手に分かれると、2カ所にある色でみずらかった階段を、駆け上った。壁の上は通路になっているようで、4人ほどの列となって横に、キレイに並ぶ。父と兄の姿もみえた。


「敵シタデルって?」

「まあ、行こうぜ」


マルスが誘う。階段の上に連れて行こうとするのがわかった。


「……いい。ここでも見える」

「来いよ。ルミナス。めったに見られるもんじゃねーぞ」


引かれる手をひっこめる。あの上に昇るって。

とんでもない。ここで十分だ。


「知ってるぞ。おまえ、高いとこ苦手だよな」

「え?」


壁の上では先頭の騎士が、ロープを放りあげる。高い位置。柱と柱の間には、より丈夫なロープが張り渡してあり、そこにロープをひっかける。端を体の釣り具に固定する。あれは知ってる。バンジージャンプのハーネスだ。


「2階にあった部屋を1階に移してもらったな。階段をあがったこともない。へんだと思ったが。子供椅子に座らせるのさえ怖がった。木から落ちてからだろ。それまではなんともなかったんだから」


嫌がる俺を無理り引っ張っていくマルス。嫌だと抵抗する。

地面にうずくまって、歩くことを拒否。だが軽い体が、硬い階段を引きずられる。


「うちの兄弟では、お前だけ血がつながってねぇ。トマスとオレとレリアは、亡くなった母上から生まれた。フレッドは父と、いまのローラン母上との子。けどルミナス、お前は違う。お前だけは母上と前の夫との子供、連れ子だ。ひ、ひとりだけ可愛がられて、お、オレは何一つ認めてもらえねーのに。なのにおまえは、てめぇは……剣だ文字だと。大人しくしてればいいのに。気に入らねぇっーたら、気にくわねぇ!」


とうとう壁の上まで引きずりこまれた。マルスは、俺の髪をつかみ、引き抜かんばかりに持ち上げ、なにごとかを叫ぶ。母が血筋がなんだって。こっちはそれどころじゃない。


壁の上は堤防のように、人が通れるだけの幅があった。遠目じゃわからなかったが、もう一段、外側に、もう一段、高い壁があった。


壁が、外側にだ。外だ。そしてみたところ、その向こうの遥か遠くには、あつ時から見えなくなった山々が、霞んで、そびえたっていたのだ。


「……おろして」


汗が止まらない。夢であってくれ。目を覚ますなら今しかない。俺はあの日、あのバンジージャンプで大けがをして、ベッドで意識を失っているんだ。覚めろよ。覚めてくれ。


「ここに連れてくるのが、楽しみだった。良い子ちゃんのお前が、外をみて、どんな顔をするかをな。トマスと夜通し話して、ワクワクして眠れなかったよ!」


力まかせに、外壁の上まで持ち上げられる。こんなもんでカッコつかやがって、とドッグタグを引きちぎる。目の中に入ってきた景色。眼下にあった景色は、恐怖の絶景。抗える気力は、もう、俺にはなかった。



このとき、シタデルという存在を初めて知る。ここは、この国は、動くのだ。

どす黒く茂った地上の、はるか空中にある巨大な都市だった。

遠くで、誰かの絶叫。俺の声だったかもしれない。

意識が薄くなる。



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