10 演習
トイレに起きると、グルーム家は、戦争のようになっていた。
「ごちそうは用意できたのかしら、チネッタ?」
「はい奥様! ご家族のみなさま、領民の方々。食べきれないくらいたくさんです」
「不意の来客も考慮してるわね。今日だけはケチ無し。余って捨てるくらいの覚悟でこしらえてる?」
「え?……はい、なんとか。旦那様!もうお出かけですか。まだ日の出前ですよ」
「うむ。ビェズル伯爵をお迎えする。今回、我々の上士となるからな」
演習の準備だ。日が昇る前だというのに、早起きだな。執事は一足先に、集合場所に赴いて、配下の領民をまとめにいってるとか。
「ち、ち、父上! 待ってください」
「トマスか。まだ寝てていいぞ。子供の訓練は午後から。午前は出店を楽しむがいい」
「嫡男としてぼくもお供します!」
「もう子供ではないということか。ならば急いで支度せよ。剣と甲冑を忘れるでないぞ」
「ロープもですね!」
「ロープだと? 帆駆け訓練にも加わるつもりか?」
「はい!」
「あれは15歳からなのだが。例がないわけでもないか。うむ。伯爵に進言してみよう」
「おねがいします。ではすぐに」
トマスが、やる気に満ちている。昨夜は寝れなかったのか、目が赤い。
ガチャガチャ騒がしい。剣と甲冑を装備したトマスが、行き来する音だ。
「みんなーがんばってー。ふわ~」
外の便所で用を済ませ、部屋へ戻ってベッドインする。
二度寝は楽しいな。とくに皆が忙しいときは。背徳気分がたまらない。
平日休みの嬉しさは、全次元共通だ。このままニートでいいんじゃね。
どんどん。ドアをうるさく叩く音がした。
「ルミナス! いくよー」
レリアだ。演習はお祭りだというのに、なのになんでこんな早起き。
窓の隙間から射す明りは、うす暗い。
「おなかすいたー。たべにいくよー」
「?」
朝食には早すぎる。
ベッドから、もそもそ這い出て、ドアを開けた。
シャキーンと準備万端のレリアが、とんとん足踏み。シャツを裏表逆に来ているフレッドをしたがえる。後ろにはトマス。腕を組んで背を向けてる。
「あさは、でみせでかいぐいだって! トマスがみんなのぶん、おこづかいもらった」
朝食は出店? 露店ってことだよな。ワクワクしてんのはそのせいか。
「ごちそうで手一杯のチネッタが忘れたんだ」
マルスがつまらなそうに補足。
露店か。なにを売ってんだろう。肉炒めや野菜スープとか。上品なだけのうすい味付けに飽きていた。香ばしいB級グルメは嬉しい。タコ焼きとか焼きそばか、汁がじゅーじゅーの厚岸のツブ貝が頭に浮かんで、唾をのみ込む。
でも店ってこんな暗くから開いてんのか。
まてよ、露店?
敷地の外に出られる!
あの搭を確かめるチャンスだ。
「すぐ行く!」
屋敷の外は迷路だった。くねくねと、先の見えない路が続いてる。
大人3人でふさがってしまいそうな狭い路。真っすぐ路がほとんどないうえ、すぐにT字路で寸断される。しかも両脇の壁は、子供の背丈以上。素材は武骨で特徴がすくない。生垣は珍しく、岩やレンガのような石材塀が大半。ずっとそんな路ばかり。
とまどってる俺とレリアに対し、マルスは淀みなくずんずん、進んでいく。
目安の搭は樹木や家に遮られてしまい、かんたんに方向を見失ってしまった。外にでるなと言われた理由が、すごーく実感できた。こりゃ迷うわ。
「まって、マルにぃ」
「人が増えてきた。遅れるなよ」
同じ方向の人で路が混んできた。まだ、15分くらいしか歩いてないが、目的地が近いのか、騒がしい音が近づいてくる。大人は女性か歳よりで、子供は小学生以下。楽しそうに露店や演習の話をしてる。
視界が開けた。
「やっとついたねー。にしのひろばっていうのよ。ひろいでしょ、ルミナス?」
「うん。まぁ」
人だらけの狭い路から抜け出られた。密集から解放されほっと息をつく。
「それだけ?もっとうんとびっくりしないの?」
「あ。ああー! びっくりしたーー」
打ち出でてみればってやつだが、姉がいうほど広くもない。せいぜい、学校のグラウンドくらい。西の広場って、わかりやすいネーミング。人々は、列なす露店を楽しんでいた。
「そうでしょそうでしょ。ふふふん」
レリアは自分のことのように自慢。たしかに広くは感じる。診療所と屋敷よりは。
レブン・シタデルだっけ。国の四方サイズはわからないが、天井の範囲から、差し渡し1000メートルってとこか。家と人がひしめいて、内部で広いエリアを確保できないのだろう。
なんのために?
空からの備え、くらいしか思いつかないが。
土建の設計会社にうまれたおかげで、自然にそっち方面の知識はあるし叩き込まれてる。柱13本だけで支える地上100メートルの巨大天井。俺の知る現代技術じゃ、あんなものは創造不可能。
魔法かナゾのテクノロジーか。
俺の想像を超えてたなら、これは夢でないということだ。
横ではフレッドがよだれを出さんばかりに口を半開き。鼻をすんすんさせる仕草は犬だ。
「レリア。フレッドを連れて、なにか食うもの買ってきてくれ」
「いいの? なんでも?」
「いいのー?」
マルスが、レリアの両手にお金を置く。円い銅色を5枚ばかり。
フレッドの目が光った。こいつ、食べるの好きだよな。
そのときくーっと音が鳴った。3つも。
いうまでもなく3人の腹の音だった。マルスを除いて。
「ははは。好きなのをいいぞ。食べすぎて腹を壊すってのだけは、なしな?」
「だいじょーぶ! いくらでもたべれるー」
「まかせてー」
二人は、混みあう露店へ駆けていく。その上では、空が明るくなっていく。
天井の下側が、ダーク、薄紫、薄紅、オフホワイトへと変化。夜が明けていく。
ストックは、23話あります。
が、これ、半年以上かけての成果です。
こんな毎日投稿するペースでいくと……




