木彫りのナニカ
最近のネットニュースは、当てにならないなー。同じ話が二転三転するのは、取材がしっかり出来ていないってよりも、情報元が間違っている場合がある。それを伝えるメディアが間違っている場合もある。それも意図して。
あーあー。
またもや、同僚の話をしてしまうが女性にしては変わり者だ。
怖い話が好きだったり、その場所に出掛けるいわゆる心霊スポット巡りが趣味だったりする。客観的にみて自分はそうでもないが、話を聞く限り彼女はなかなかの霊感持ちだ。そんな同僚とこんな事があった。
ある日、昼休みに唐突に怪談を始めた。
「この前、高校時代の友人から相談を受けたのです。その友人は高校を卒業して直ぐに結婚して子供が出来て、今はもう4歳。明るく何にでも興味を持つ子で、これなに?あれなに?って何でも聞いてくるらしいの。で、相談っていうのが最近、家の中の何もない場所を怯えたようにして見ている。何が見えるの?って尋ねてみても聞きだせない。それで私に家に来て子供に会って、そこに何が見えてるのか?本当は気のせいか幻覚で何もないのか?教えて欲しいという事だったのですけど……」
「うん?」何か、同僚の顔色が悪い気がする。それに何か違和感。
「はい?」
「ごめん、話の途中で、なんでもない」気のせいか。
「実際に友人の家に着くと、部屋に入る前からヤバそうな気配がするんです。霊って見える人や、感じる人に懐く習性みたいなのがあって、そういう人が近づくだけで反応する時があるんですけど、今回もそうでした。靴を脱いで玄関に上がると、近寄るなと警告されているような雰囲気と背筋に寒気がして、足の先からゾワゾワと空気が纏わりつくような感じ。気を入れ直して、リビングに入るとソファーの上でクッションを抱えた女の子がいた。友人の娘でした。じっとこちらを見ているから自己紹介をしたのですけど、やはり怯えて棚が置いてある壁の方をチラチラと見てはこちらを見てる感じで。友人の心配していた通り、どうも霊感があるようで。ソイツは、娘ちゃんが見ていた壁際の天井からぶら下がるようにして逆さまに三角座りをしている。体は人の形をしていた、でも顔が酷くて……思わず背けたくなるような感じで、目が6個か7個程ついているのですが配置は不規則、顎の辺りに適当に着いていて黒目があったり無かったり。顔の半分が髪の毛が生えていて登頂部になっているんです。殆ど歯茎だけの口が頬の辺りにあって」
そこまで、話した同僚は口を手で覆って気持ち悪そうに話を続ける。
「部屋を一通り見た感じ、壁に飾ってある掌サイズの木彫りの人形のような物が原因だって分かったのです。これは?って友人に尋ねると旦那の実家で安全の御守りだって最近貰ってきた物だって。それに近づいて触ろうとすると友人の娘ちゃんが慌てて口を開くんです。『喋っちゃ駄目喋っちゃ駄目喋っちゃ駄目喋っちゃ駄目』と繰り返すんですよね。『何が喋っちゃ駄目なの?』と聞いたら『喋っちゃ駄目喋っちゃ駄目喋っちゃ駄目喋っちゃ駄目シャベッチャダメ!シャベッチャダメ!シャベッチャダメ!』って感じで、あぁこれは不味い。娘さんは完全にとり憑かれてたんだなーって。友人は娘の背中を擦りながら泣きながら名前を呼び続けてるし。娘さんに軽く念を入れて、一時的に祓ってから帰ってきたのですけど」
同僚はそこまで話をした後、傍らに置いていた袋の中に手を入れる。
物凄く嫌な予感がする。自分はデスクの前で肘をついてお茶を飲みながら話を聞いていたが、そこに袋から取り出した物を置いた瞬間。
バチッ!!ゴド!
肘と手に電気の様な衝撃が走る。デスクの上に置いたはずの木彫りの何かがバネ仕掛けの玩具のように飛び上がる。そのまま、デスクの上に落ちて少しお茶が零れた。
「ふふ!ビックリしました?!」
と大成功と言いたそうな顔の同僚。さっきまでの表情は芝居だったようだ。
「あったりまえでしょ!もうっ!」
本当に怖い事をする。怖い話の終盤でお前の後ろだ!ってやるヤツと同じだ。お茶も溢したし。
「ごめん、ごめん。ちょっとした冗談のつもりだったんですよ」
デスクの上には、何の変哲も無さそうな仮面をつけた僧の様な人形が転がっていた。それを手に取ろうとしたら、先に同僚に取られてしまった。
「種明かしは、また今度ですよ。お茶、煎れなおしてきますね」
そう言って、事務所にある休憩室に入っていった。
自分は、だんだん怪談が嫌いになってきたけど、顔に出すと余計に話してくる気がするので、しばらくは聞き流すか我慢して相槌だけうつようにしようと思った。