同僚の話
ファーストコンタクトで他愛のない話の出来る相手は良い友人になる説。まぁ、聞き上手な人に面白くない人は居ないと思います。良い人か……悪い人かは、わかりませんが。
あーあー。
今の会社の社長、当時は副社長と縁が合って、こうして雇って貰えてる。仕事をバリバリ頑張ってますとは、到底言えない成果しか出せてはいない筈だが、なんとか雇って貰えてる。どこ何処へ泊まりで行ってこいやら、知り合いの所へ行ってDIYしてくれとか無茶な仕事を頼まれる事もあるが、基本的に自由にやっていいと許しを貰えてる。
以前の仕事を首になり、今の会社で働き始めて2カ月程たった頃だったか、制服姿の女の子が工場の見学へ来た。社長の親戚らしい。今でこそ、表情豊かな同僚になったが当時は、冷めた顔というよりも無表情な様子で必要以上の事は喋らない、何を考えてるか分からない人だった。
今の外見は、地味な服装を好み、飾り気のないパーカーにジーンズを着ていたり目立たない格好を意識しているようだが、良く見るとなかなかの美人である。
ただ彼女もたびたび、仕事中に何処かへ行ってしまうことがある。会社の備品の買い物だったり、わざわざ行列に並んでまで人気のお菓子などを買ってきたりしてくれる。
先日、外出から帰ってきて少し慌てた様子で、社長室に入っていった。社長と一緒に出てきたと思ったら、二人して自分の仕事場にやって来た。
「や、おはよう、調子はどう?」と見た目は30代で実は50歳手前という若すぎる社長。
「お仕事中、申し訳ないね」と同僚。手には、なにやら封のしてあるガラスの小瓶を持っている。
「おはようございます。あれ?どうしたんすか?」と聞いてみると、小瓶を手渡してきた。
「それ、締まり過ぎてて開かないんだ。開けて欲しくて」と同僚が言う。よくあるやつか。
小瓶の中には、白っぽい粉が入っている。細長い紙の封に細かい模様?文字?よく読めないが、2枚の封を交差するように蓋に貼り付けてある。
「なんですかこれ?」
「実家から送られてきたミルクパウダーらしいのだけど、珈琲でも煎れてあげようかと思いまして」
と言ってるけど、目が泳いでる気がする。
グッと力を込めて蓋を握る。
「あっ、札は後で使うかもしれないから、なるべく破らないでね」
気を取り直して封を瓶の部分だけ剥がして、力を込める。ギッギッと蓋の軋む音がする。かてぇー!
腰を落として更に肘を前に出して、捻りを加える。
「無理だったらいいですよ!無理しないで下さい」と同僚は心配そうにこっちを見ているが、こういう時に役に立つ男でいたいのだ自分は。
ビシッ!
「おっ!」確かな手応えと蓋の緩みを確認した。
「本当に!開いた!」と同僚は、社長の方をみる。社長は、うんうんと頷いている。
「蓋は開けないで、こっちに渡して」と同僚は嬉しそうに手を伸ばしてきた。
なんとなく意地悪をしてやりたくなったが、自分は空気が読める男なので、そのまま渡した。
同僚は、受け取ると慌てて外に出ていった。
「あれ?珈琲は?」ちょっと楽しみにしてたから、思わず口にしてしまった。
「珈琲、煎れようか?」と社長が言うが
「いや、別に社長が煎れた珈琲が飲みたい訳じゃない」と口が滑ってしまった。
「あーそうね」と流してくれたが、なんか少しの間、気まずい空気が流れていた。
2、3時間後。何故か服を着替えた同僚が帰ってきたので、何処へ行ってたのか聞いてみると、肝心の珈琲を切らしてたのを忘れていたらしい。持っていた瓶は?と聞くと中身が古くて駄目だったから捨てた。それで、新しいのを買ってきたらこんな時間が掛かったと。なんか疲れた顔をしているので、あんまり追求するのも面倒くさいので止めておいた。
しかし、自分の同僚は、なんか怪しい。謎が多い気がする。